2-24.
えっ?
予期せぬ強い衝撃にわたしは思わず体のバランスを崩してしまった。
やばいっ。倒れる。
そう思った時には遅かった。
バシャンッ。大きな水音がする。気がついた時にはわたしは噴水の中で尻餅をついていた。
冷たい……。最悪だ……。最近のわたしには水難の相でも出ているの?
足を上げた状態ではいられないので足を楽な姿勢に直す。服が張り付いて気持ち悪い。
これからどうしよう。リネットは着替えを持ってきてくれているけど、これでは呼びに行くのも難しい。
「あら、ごめんなさい? ちょっとバランスを崩してしまったわ。あらあら大変。そんな格好ではもうお茶会の会場に戻れないわね。もし誰かがあなたのことを聞いてきたら帰ったと伝えておくから安心して。それにしても本当にひどい格好だこと」
「…………」
ひどい格好にしたのはそっちでしょう。
どうみてもわざとだ。これってやりすぎじゃないの? 普通に危ない。打ち所が悪かったらどうするわけ?
悪役令嬢A、ついでにBとC。名前はわからないけれど、顔は覚えたわよ……。
崩れた顔を見せられないので、わたしは黙ったままうつむいている。言われっぱなしの状態だが、この恨みは忘れない。
どこか遠くから声が聞こえてきた。誰かが走って近づいてくる。
「大丈夫ですか? 何か水音がしましたが大丈夫ですか?」
水音をきいて誰かが来てくれたらしい。自分の顔を顔を見られないようにそっと悪役令嬢たちの顔をみると、悪役令嬢たちの顔色が変わったのがわかった。
お城なんだから普通に何かあれば人が来るでしょうよ。
そんなこともわからないわけ?
「どうして噴水に……」
お城の騎士のようだ。お茶会の会場で見た記憶がある。噴水の中にいるわたしをみて驚いている。
悪役令嬢たちはとっさに顔を作った。
「こちらの方が足を滑らせてしまって噴水に落ちてしまったようなんです。良かった。騎士様に来ていただいたのならもう大丈夫ですね。では、わたくしたちは戻りますわ」
悪役令嬢たちはさっと消えていく。逃げ足は速い。
わたしが足を滑らせたんじゃなくて、あなたが突き落としたんでしょうが……。わたしはうつむいたまま悪役令嬢たちへのふつふつと怒りをたぎらせていた。
「大丈夫ですか? どこかお怪我は?」
そう言ってお城の騎士は手を差し伸べてくれる。
顔。顔は大丈夫? 思わずわたしは両手で顔を覆った。すると何かを察してくれたのか「気が利かなくて申し訳ありません」と言って自分のマントを外し、顔を背け、改めて手を差し伸べてくれた。
これ、手を取るしかないよね……。
わたしが差し伸べた手を取り立ち上がると、すかさずマントをかぶせてくれる。
え? なんてイケメンなの……。
思わずときめいてしまいそうになる。
「大丈夫ですか? レティシア様でよろしかったでしょうか? お付きの者を読んで参りましょう」
「はい、レティシアです。怪我もありません。よくわたしがレティシアだとおわかりになりましたね」
「招待客の顔と名前は覚えておりますよ。特に今日はロベルト殿下の大事なお茶会ですから」
残念王子にぶさいくと罵られたわたしにも優しい声をかけてくれる。
「そうですか……。お茶会の会場にいた方ですよね? リネットを呼んでいただけると助かります。あと、できれば着替えをしたいのでどこかお部屋をお借りしたいのですが……」
「覚えていただいていたようで良かったです。わたしも不審者として通報されてしまっては大変ですから。部屋を用意しますのでお着替えください。そのままでは風邪をひいてしまいます。着替えの服は大丈夫でしょうか?」
不審者として通報だなんて物騒な物言いだが、わたしにかけられた声はユーモアを含んでいた。真剣に心配していると同時にわたしを和ませようとしていることがわかる。
「そんな、不審者だなんて……。替えの服はリネットは準備してくれているはずです」
「それはよかったです。では、できるだけ人通りが少ない道を選びましょう。ここに一人でお待たせするわけには行きませんし、余計な人を呼ぶのも良くないでしょう。我々だけで先に部屋に行き、リネット殿を呼んで参ります」
「お気遣いありがとうございます」
なに、この完璧な対応。残念王子とは違いすぎる。残念王子よりこちらの騎士様の方が断然素敵だと思うんだけど。
マントをかぶり、顔を隠している状態なのでよく見えないけれどイケメンの気配だ。声も素敵だわ。




