1-2.
頭が痛い……。コンサートはどうなったんだろう。どうやら私は無事だったみたい。でも、ドーム公演は駄目だったんだろうな。たくさん迷惑かけちゃったよ。プロ失格だ。
きっと、大きな傷も残っているよね。やっぱり、もうアイドルは引退するしかないのかな……。ドーム公演の舞台、立ちたかった。でも良かった。大学合格してて。……うん。これからは学業を頑張れば良いよね。ちゃんと学業と両立させてきて良かったよ。
…………でも、やっぱり悔しい……。念願のドーム公演だった。自分のやりたかったことをたくさん詰め込んだのに……。
悔しくて涙が流れる。
周囲が少し騒がしくなった。お父さんもお母さんも心配しているはずだ。命があるだけラッキーだと思わないと……。私はなんとか現実を受け入れようと目を開けた。
「目が覚めたのね!」
「私はどれくらい意識がなかったのですか?」
「一ヶ月よ」
「一ヶ月?! コンサートは? 大学はどうなったの?」
「だいがく? まだ意識が混乱しているのね……」
「???」
知らない天井だ。私はゆっくり体を起こした。自分の体じゃないみたい。ものすごく違和感がある。一ヶ月も眠っていたのなら仕方がないのかもしれない。
いつから体を動かせるようになるかな。前みたいに踊れるようになるのはいつだろう。それまで私の席はあるだろうか。
視線を下に向けるとわたしの胸にはきれいな銀色の髪がかかっているのが見えた。自分からはえているのであり得ない色だけど、多分髪の毛だと思う。
……うん? 銀髪のカツラをかぶって寝ていたの? いやいやいや。それはおかしいでしょう。カツラの感覚はない。どう考えても地毛だ。寝ている間に黒の色素が抜けた? それもないわ。
「あの、私の髪の毛ってこんな色でしたっけ?」
「えぇ、そうよ。貴女はわたくしたちと同じきれいな銀色の髪」
わたくし? 元からこの髪? そして目の前にいる人たちは誰? 目の前には銀髪のきれいな男女。女性はどこの世界の方? といったドレス姿。男性はなんと言えば良いのかわからないがきらびやかな格好だ。それによく見ればメイドさんらしき人たちも。なぜか皆さん、コスプレをしていらっしゃる。
「……あの……皆さんはどちら様でしょうか? 私はコスプレ会場で倒れてしまったのですか?」
私の言葉に周囲の人たちは固まってしまう。そして一斉に哀しそうな顔をした。メイドコスプレの人たちの中には泣き出してしまった人もいる。
「あぁ。やはり頭を強く打ってしまったのがよくなかったのだわ。かわいそうに。記憶を失い、おかしくなってしまった……」
目の前のきれないな女性は私がおかしくなってしまったと泣き崩れてしまった。普通に困る。誰か私に状況を説明してほしい。
「すみません。少し混乱してしまっているようです。何か思い出すかもしれませんので私のことを教えていただけませんか?」
周囲の人たちは完全に戸惑っている。いや、私の方が戸惑うよ。ここはどこ? 私は誰?
「……そうね。一番混乱しているのはあなたよね。わたくしはリーシア。貴女の母です。こちらは貴女の父のキース。貴女はわたくしたちの娘のレティシア。わたくしたちの一人娘で歳は七歳」
レティシア? 七歳?! 私、日本人ですけど……。私の母はリーシアなんて名前ではないし、もちろん父親もキースなんて名前ではない。コスプレ会場でないのならここはどこ? これってまさか、流行りの異世界転生? 死んだら異世界に飛んじゃうってよくある話よね。丁度、わたし死んじゃったみたいだし……。多分。
七歳なのだとしたら、さっきのわたしの口調や態度にに戸惑ったのもわかる。一ヶ月ぶりに目が覚めたというのにこの態度。こんな言葉遣いする七歳もあまりいないと思う。
この人たちの間では何が普通かわからないけれど……。