2-13.
わたしたちはお父様のいる部屋まで戻る。部屋の手前まで来たところでお母様が立ち止まった。
「ねぇ、お父様を驚かせましょう?」
「どうやって驚かすの?」
「布で顔を隠した状態で部屋に入って、お父様の目の前で布を取るのはどうかしら?」
わたしを見るお母様はとても良い笑顔。どうかしら、と聞かれてはいるけど、これはきっと決定事項だ。わたしに拒否権は無い。
お母様は変なところで茶目っ気がある上に、ちょっと強引なところがある。ここはおとなしく従おう……。
「面白そうですね。お父様びっくりさせましょう」
「決定ね。ねぇ、リネット。何か良い布はあるかしら」
「それでしたらレティシア様の膝掛けはいかがでしょうか? 膝掛けで良ければこちらにございます」
「それにしましょう」
お母様は満足げだ。わたしは頭に膝掛けをかけられた状態になる。もちろん前は見えない。
お母様的にこの状態はありなのだろうか。かなり不格好だと思うけど。
リネットはドアをノックし、「レティシア様のご準備ができました」と声をかけた。
ドアが開けられ、わたしはお母様に手を引かれた状態でお父様の前に行く。リネットはわたしの頭から膝掛けが落ちないように支えてくれる。
「レティシアはどうして膝掛けを頭に?」
「あなたを驚かそうと思って」
お母様の声は楽しそうだ。でも、あまりハードルを上げないでほしい。
「そんなに驚くような仕上がりなのか。楽しみだな」
お父様の声もなんだか期待に満ちている気がする。あぁ、ハードルがどんどん上がっていく……。
「レティシア、良いかしら?」
「はい」
「では、膝掛けを取るわね」
頭から膝掛けを取られる。一気に視界が明るくなった。
「どうでしょうか? お父様」
「……おぉ、なんと愛らしいんだ」
お父様はものすごく感動しているようだ。かなりデレデレしている。ちょっとというかかなり恥ずかしい。
「すごいでしょう? これを本当にレティシアがお化粧をしたのよ。見ていなければ信じられなかったかもしれないわ」
「化粧しなくても十二分に可愛いと思っていたが、これは素晴らしい。本当になんて可愛らしいんだ」
お父様はわたしを勢いよく抱きしめてきた。
ちょっと苦しいよ、お父様。
「確かにこれは危険だ。いろんな悪い虫がついてしまう。可愛すぎるのも問題だな」
お父様は冗談ではなく、本気で言っている。本当に親馬鹿だよ。わかっていたけど……。
「先ほどの黒いクリームみたいなものがマスカラと言って、まつげに塗ったのよ。すごく目がパッチリしたと思いませんか? このようなお化粧品、わたくし初めてみました」
「わたしは女性の化粧はさっぱりだが、これはすごいと思う。リーシアも知らないのだろう? レティシアはよくこんなものを思いついたな」
すっとわたしの心が冷えた気がした。やっぱり不審がられるよね……。
「大丈夫ですよ。レティシア様。わたしに話していただいたことをお話すれば良いんです」
わたしの様子に気がついたのか、リネットがそっとわたしに近づき、優しく声をかけてくれた。その表情は大丈夫と言ってくれている。リネットの存在が心強い。
うん。少し勇気を出せそうだ。
「あのね。お父様、お母様。聞いて欲しいことがあるの」
「何でも聞くから話してごらん」
お父様もお母様も穏やかな表情だ。リネットの言うとおりきっと受け入れてくれるのだろう。わたしは勇気を振り絞って前世の話をすることにした。
リネットに話をした内容を話せばきっとわかってくれる。




