2-12.
わたしはお父様とお母様に実際にメイクをした顔を見てもらうことにした。
「わかったわ、リネット。お化粧する。ちょっと手伝ってくれる?」
「かしこまりました」
「ねぇ、わたくしも一緒に見ていていいかしら。どうにも信じられないわ」
「では、私も……」
「あなたは駄目です。女性が変身するところを見てはいけません」
お母様はお父様の要望をばっさりきった。お父様が淋しそうで少し可哀想に思う。けれど、お父様とはいえ殿方に舞台裏を見せるわけにはいかない。わたしもお母様と同じ気持ちだ。諦めてもらおう。
そんなお父様を尻目にお母様はわたしたちに移動を促す。お母様から妙な圧を感じる気がする。
「さぁ、行きましょう」
お母様は心なしかちょっと楽しそうに見える。聞いたことのない化粧品に興味があるのかもしれない。
お母様、おしゃれには敏感だものね。
***
わたしたちはメイクをするために部屋を移動した。手早くリネットが準備をしてくれる。こちらの世界のものだけでは少し物足りないが、それでも十分変身できることは実証済みだ。わたしはお母様に見守られながらメイクを始める。
これだけ見られているとちょっと緊張するかも……。
「リネット、あれ取ってくれる?」
「かしこまりました」
「次は……」
「こちらでしょうか?」
「ありがとう」
リネットとは阿吽の呼吸だ。わたしが欲しいものを即座に理解してくれる。
あぁ、可愛くなるためのメイクって楽しい……。こういうメイク久しぶりだわ。最近はずっとぶさいくになるためのメイクだったし。
わたしは最初こそはお母様の視線が気になったけれど、メイクを始めてからはすっかり夢中になって気にならなくなっていた。
うん。良い感じ。最後にマスカラね。
「これで大体完成かな。あとはマスカラを……」
「ねぇ、レティシア。本当にこれを使うの? もう完成ではなくて?」
「たしかにこのままでも良いんだけど、このマスカラを使うとさらに良くなるの」
「この黒いクリームみたいなものが?」
「えぇ。これをまつげに塗るの」
「まつげに?」
「お母様、見ていて。手元が狂わないように慎重にやるわ」
わたしは慎重にマスカラもどきを塗っていく。本物のマスカラと違ってどうしても塗りにくいのだ。あの形にした人って本当に天才だわ。神様ね。
……よし。全体のバランスも良いわね。完成よ。
「お母様、どうですか? 良いと思いませんか?」
「…………」
お母様は言葉を失っている。
「お母様?」
「……ごめんなさい。えぇ。素晴らしいわ。貴女がこんなにお化粧が上手だったなんて……。本当に同じものを使っているの?」
「マスカラ以外は同じです。リネットに用意してもらいました」
「同じ物を使ってもこんなに変わるのね。貴女にはお化粧なんて必要ないと思っていたけれど、さらに美しくなっているわ。それにこのマスカラ? ずいぶん目の印象が変わるのね。目がすごくパッチリして……。本当に素晴らしいわ。後でわたしにも試させてくれるかしら」
「もちろん。ぜひ感想を聞かせて。もっと改良が必要なの。リネット、協力してね」
「もちろんです。レティシア様はマスカラ以外にも作ってみたいものがあるそうですよ。色も種類も道具も増やしたいそうです」
「まぁ。それは楽しみだわ」
お母様は満足げだ。これは化粧品開発への協力が期待できそう。
「ねぇ、お母様。お父様にお見せしても大丈夫かしら?」
「えぇ。早く見せましょう。きっと驚くわ」
お母様の感触は良かった。お父様はどうかしら。わたし的には可愛く仕上がっていると思うんだけど……。




