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その21 お披露目

「ガラハリ。何をしている」

「こいつは一体、何の騒ぎだい」


 ギルド支部の入り口に立っていたのは一組の男女だった。

 一人は背の高い青い髪の男で、もう一人は気品のあるお婆さんだ。


 男は驚いた様子ながらも、どこか落ち着いて見える。

 あまり感情が表に出ない人なのかもしれない。 

 お婆さんの方は、どことなく、僕達が森の外の馬車で出会った貴族の女の子、アンシェリーナに似た雰囲気があった。

 ひょっとしたら、この人も彼女と同じように”貴族”なんだろうか?

 ミラは二人を押しのけて外に出ようとした。


「ミラ! ダメだよ! このお婆さんは貴族かもしれないよ! 貴族は怒らせちゃダメなんだよね?!」

「! おい、何だ今の声は! 誰が喋った?!」


 僕達の背後でガラハリが驚きの声を上げた。

 僕の声でミラは初めて二人の存在に気付いたようだ。いや、二人がいるのは分かっていたけど、今までは相手を見ている余裕が無かったのだろう。

 足を止めたミラに、ガラハリが追いついた。

 【アクティブスキル】”野生解放”は解除したのか、さっき感じた獣のような威圧感は消えてなくなっていた。


「いい所に来た! 婆ちゃん、”鑑定”だ! おいよせ、ハイネム! それ以上チビに近付くな! そのチビが持ってるこん棒は精神操作の能力を持ったマジックアイテムかもしれねえ!」


 ガラハリの声に、青い髪の男――ハイネムは足を止めた。


「このこん棒がマジックアイテム? まさか」

「――いや、確かに魔力の流れを感じるね。ちょっと待ってな」


 お婆さんはそう言うと懐から丸い何かを取り出した。

 ミラがハッと体を固くする。


「警戒する事は無いよ。この眼鏡は”鑑定”の効果のあるマジックアイテムだ。さてと――はあっ?!」


 お婆さんは眼鏡を目に当てた途端、カクンと音がしそうな程、大きく顎を落とした。


「お、おい、婆ちゃん?」

「サ、サグナ様?」


 心配そうな男二人の声も耳に入らないのか、お婆さん――サグナ様は、慌てて何度も何度も僕の体(こん棒)を眺め回した。

 ここでようやく中庭の冒険者達が僕達に追いついた。彼らはこの場の異様な雰囲気に、一様に戸惑いの表情を浮かべた。


「婆ちゃん――」

「いやはや信じられないね。いや、だがしかし。・・・このこん棒はマジックアイテムなんかじゃないよ」


 ハイネムがガラハリを睨み付けた。


「おい、ガラハリ。お前またいい加減な事を言って――」

「いや、待てハイネム。お前だって俺の”野生の勘”は知ってるだろ? 何だか分からないがコイツはマジでヤバイんだって。俺の”野生の勘”がそう告げているんだって」


 ハイネムはそれでも疑わしげな目を止めようとしない。

 ガラハリは不満顔でハイネムを睨み付けた。

 どうやら二人は仲が悪い――とまでは行かなくても、そりが合わないようだ。

 あるいは逆に、ミラとマギナのように、遠慮なく口喧嘩が出来るくらいに仲が良いのかもしれない。 


 サグナ様はミラの前でしゃがみ込んだ。

 背の高いサグナ様は、こうしないとミラと目線が合わないのだ。


「あんたは――ミラか。ほう。良い【スキル】を持っているね。ミラ。ここにいるみんなにディルを紹介してくれないかい?」

「ディルを?!」


 ミラは周囲を見回した。

 全員、何が起こっているのか分からずに当惑している。

 僕の名前を知っているマギナだけが、どう反応すれば良いか分からずに挙動不審になっている。


 緊張でお腹がキュッとなる雰囲気だけど、ここは僕がしっかりしないとダメだよね。

 僕は覚悟を決めてミラに話しかけた。


「ミラ。サグナ様の言う通りにしよう」

「「「「なっ?! 何だ今の声は?!」」」」

「ディル。いいの?」


 いいかどうかは正直に言って全然分からない。けど、この場はこの人を信じるべきだと思う。

 周囲に一目置かれているようだし、もし、この人が貴族なら、逆らったらどうなるか分からない。

 機嫌を損ねて、ミラとマギナに迷惑をかける事にでもなったら大変だ。


「僕なら大丈夫だから」

「・・・分かった」


 ミラは袋を縛っていた紐をナイフで――いや、手でつかんで力任せに引きちぎった。

 さすがはミラ。【スキル】”金剛力”は伊達じゃないね。


 ミラがこん棒(僕の体)を覆っていた袋を取り除くと――


「な、なんだコイツは?!」

「キャアアアアア!!」

「ウソだろ! なんだよコイツ!」

「おい、瞬きしたぞ! 生きているぞ!」

「化け物か?! どう見ても子供じゃねえか!」


 周囲から一斉に悲鳴が上がった。

 中には驚きのあまり武器を構える冒険者までいる。

 覚悟はしていたけど・・・こんな風に怯えられたら、やっぱり辛いな。

 サグナ様はすっくと立ち上がると、周囲を怒鳴りつけた。


「静かにおし! うろたえまくって見苦しいったらありゃしない! アンタ達それでもこのブラッケンの町の冒険者かい! 恥を知りな!」


 サグナ様の一喝で、一瞬にしてこの場はシンと静まり返った。

 あまりに静かすぎて、建物の外の喧噪がハッキリと聞こえて来た程だ。


 サグナ様は僕に振り返った。


「あんたがディルだね。人間――でいいんだよね?」


 僕は反射的に頷こうとして、体が動かないのを思い出した。


「そうです」

「「「「しゃ、喋った?!」」」」


 みんなが一斉に驚きの声を上げた。

 ――周りに合わせたつもりなのか、なぜかマギナも一緒に声を上げていたのが、どうにも納得出来ないところではあったけど。




 いち早く正気に戻ったのは、サグナ様と一緒にいたハイネムと呼ばれた男だった。


「人間?! サグナ様はこの少年はこの姿で人間だと――生きていると言うのですか?! 一体どうやって?! なぜこんな体に?!」


 次に我に返ったのはガラハリだった。


「コイツはブッたまげた! マジックアイテムじゃなかったのか?! そんな姿の人間、初めて見たぜ。あっ! まさか、精神系の【スキル】を使っていたのはコイツだったのか?!」

「そういえば、さっきそんな事を言っていたな。精神系の【スキル】だと?」


 ガラハリの言葉にハイネムが食い付いた。


「ああ。それだけじゃねえ。俺の金棒も防ぎやがった。ありゃあ間違いなく物理防御系の【スキル】だ」

「系統が違う【スキル】だと? まさか、ダブル(二つ持ち)か?!」


 ハイネムはハッと目を見開くと僕の方に振り返った。

 ダブル(二つ持ち)というのは、二つの【パッシブスキル】を持つ人を言うそうだ。

 ちなみに三つ持っている人は”英雄”と呼ばれるらしい。


 僕が何かを言う前に、サグナ様がハイネムの言葉を否定した。


ダブル(二つ持ち)? はんっ。全然違うね」

「しかし、精神系と物理防御系の【アクティブスキル】が、一つの【パッシブスキル】から伸びるなど聞いた事がありません。コイツが(と言ってハイネムはガラハリの方を見た)コイツがデタラメを言っているというなら分かりますが」

「ハア?! ふざけんな! 不完全とはいえ俺の”野生の勘”を欺いたんだ! そんなのは精神系の【スキル】以外に考えられるか!」


 周囲の冒険者達は、怒鳴り合う二人をハラハラしながら見守っている。

 サグナ様は「そいつも違うね」とかぶりを振った。


「それも間違いだ。ガラハリ。アンタを欺いた【スキル】は、多分、”隠密”だ。今はそれらしい魔力を感じない所を見ると、姿を隠している時にだけ効果を発揮する特殊な【アクティブスキル】なんだろうね。おそらく身体強化系から伸びた【スキル】だよ」

「「”隠密”?!」」


 驚きの声が揃うガラハリとハイネム。やっぱりこの二人、本当は凄く仲が良いのかもしれない。


「サグナ様。”隠密”などという【アクティブスキル】は聞いた事がありません。”隠ぺい”なら知っていますが」

「ていうか、身体強化系って、何の【パッシブスキル】から伸びた枝なんだ?」

「さあ? アタシも知らない【スキル】だからね。多分、いや、これじゃないかという目星は付いているけど・・・」


 サグナ様は手近なカウンターから、紙とペンを手に取ると、何かを書き始めた。

 書きながらも、チラチラと僕の方を見るのがどうにも落ち着かない。

 ガラハリは苛立ちの表情を浮かべながら、サグナ様に文句を言った。


「なんだよ婆ちゃん。ハッキリしねえな。”鑑定”のマジックアイテムで観たんじゃねえのかよ」

「まあ待ちな。すぐに終わるよ」

「何を書いていらっしゃるのですか? ――ん? 何です? これは」

「アタシが観た――アンタらが知りたがっているディルの【スキル】だよ」

「んなっ?!」


 目を見開き、言葉を失くすハイネム。

 ガラハリは、すっかり固まってしまったハイネムを「どけ!」と押しのけると、サグナ様の手元を覗き込んだ。


「ん? はあっ?! ちょ、なんだよこのデタラメな【スキル】の数は!」


 ガラハリの声に、周囲の冒険者達は戸惑った様子で、顔を見合わせた。

 ミラの冒険者友達のマギナが、彼らの中から抜け出して、ガラハリの下に駆け寄った。


「あの、私にも見せて下――えええっ?! 何コレ?!」


 マギナの反応に、冒険者達の好奇心が限界を超えたようだ。

 彼らは一斉にガラハリの周りに殺到した。


「「「「ハア?! 何だこりゃ?!」」」」


――――――――


【名前】:ディル


【パッシブスキル】:ど根性 共感 ステータス強化 直感 忍耐 健康体 高速回復 魔力操作 学習能力 確率補正 命中率補正 攻撃補正 防御補正 斬撃耐性 刺突耐性 苦痛耐性 精神耐性 状態異常耐性 毒耐性 全魔法耐性 腐食耐性 体術の才能 剣術の才能 槍術の才能 盾術の才能 弓術の才能 造形技能 見様見真似 探知


【アクティブスキル】:鉄壁 連投 集中 加速 高速演算 並列演算 貫通付与 隠密 暗視 望遠 結界 五感強化 空間収納 鑑定


――――――――


 あの、みんな驚いていないで、僕にも見せてくれないかな?

次回「支部長室の三人」

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― 新着の感想 ―
[一言] こういった王道のお披露目イベントはワクワクして好きだなぁ~
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