まつり
Sちゃん「ホラーっつうか恋愛モノ?」
り「違うよっ、最後とかホラーじゃね?」
Sちゃん「ホラー部分少ないね」
な話です。
遠くに、賑やかな音が聞こえている。
祭囃子の笛や太鼓。
人々のはしゃいだ声。
子供が玩具をねだる高い泣き声。
音は聞こえるのにその明るい光景は目の前には無い。
色とりどりの提灯も、
屋台の黄色い熱を持つ電球も、
ここには見当たらない。
薄暗い中に、小さな女の子が困りきって立っていた。
おとうさんと、おかあさん。三人でこのお祭りにやって来た。
右手には真っ赤な金魚のが入った袋を持って。
左手にはまだ一口も食べてないりんご飴。
甘い香ばしい匂いがする。
でもその香りは今、寂しさを強調させている。
「おとぉさぁん・・・。おかぁさん・・・」
辺りには背の高い木々が鬱蒼と茂っている。
足下は枯れ草が積もった柔らかな土。
コロン、コロンと音を立てる下駄も、黄色の浴衣もその柔らかい土に汚れてしまった。
はぐれてしまったのだ。
どうしてあそこで離れてしまったのだろう?
おかあさんが屋台の一つでたこ焼きを三つ買おうとした時だ。
おとおさんはおかあさんの横に立って、どこかにビールの売ってる屋台は無いかとキョロキョロしていた。
私は、ずっとずっと上の石段の上から闇の中に聳え立ってこっちを見下ろしてる赤い大きな鳥居を見上げていた。
石段の前から、『賑やか』がぷっつり切れていた。
それがとっても不思議でその暗く威張ったような長い階段を上ってみる気になったのだ。
一番てっぺんから今上ったばかりの長い長い階段を見下ろした。
一番下の段から、一本のキラキラ輝く眩しい道がずっと遠くまで伸びている。
後ろを振り返れば、下から見るよりずっと大きな鳥居があった。
鳥居をくぐって見る気になった。
しばらく神社の境内を散策した。
怖くは無かった。
明るい音が聞こえている。
それに後押しされて、脇にそれて林の中を冒険して見たくなった。
そして迷子になってしまった。
最初は音が届くのは心強かったのに、今では正体の見えない明るい音が怖い。
泣きたくなった。
暗さが怖い。
曇りガラスを通したような賑やかさが怖い。
小さなその子がついに涙を零そうとした時にその肩を叩く者がいた。
「こんな所で何してるんだい?」
振り返ると、少女はきょとんとその不思議な人物を見上げた。
おとうさんよりも若い男の人だ。
白地に黒の模様の入った浴衣に黒い帯をしている。
彼女が一番おどいたのはその人は狐のお面を被っていることだ。
下の屋台で売っているようなプラスチックの可愛らしい動物のお面ではない。
真っ白な、陶器のような滑らかな白に黒い女の子を睨みつける様な釣り目がかかれ、赤い流れるような線で狐はお化粧していた。
その面の両端には狐の化粧と同じ赤い紐が通してあり男の頭の後ろで結ばれていた。
紐には金色の鈴が通され、りん、と音がなった。
「だれ・・・?」
彼女は狐の顔が怖かった。
「僕?えぇとただの狐だよ。君はひょっとして迷子かな?」
狐の面は恐ろしかったが、男の優しい声に引かれた。
こくり。と彼女は頷いた。
「じゃぁ、僕が連れて行ってあげるよ」
狐面の男が歩き出した。
女の子は急いで男の後について走った。
りん、りんと男が歩くたび鈴が揺れ、可愛い音がなった。
暗い道は心細かったので、手を繋いで欲しかったが、右も左も一杯だった。
「持ってあげる」
男は言って彼女のりんご飴を左手に持ち、空いた女の子の左手に自分の右手を握らせた。
ての暖かさは彼女に安心をもたらした。
見上げる位置にある、顔は面に隠れて見えない。変わりに狐の顔は嬉しそうに見えた。
あっという間に、赤い鳥居の下に戻ってきて居た。
「きっとどこかにお父さんとお母さんが居るよ」
そういって狐の面は輝く道を見下ろして言った。
「狐のお兄さんありがとう」
そう言って彼女は笑った。
「うん」
満足そうな声が聞こえた。
面の狐も笑っているように見えた。
彼女はマジマジと狐の顔に見入った。
「・・・お兄さんのお顔見たいって、言ったら怒る?」
おずおずと問うた。
狐面を少し傾げて男は考えるような動作をした。ほんの少し間をおいて頷いた。
「いいよ」
右手を少女の手から離して赤い紐をしゅるしゅると解いた。紐を解く間にまた、鈴が音を立てる。
面の下から出てきたのは、声の通りに優しそうな顔。
真っ黒な瞳には女の子が映りこんでいた。
髪は、下からの光でようやく気づいたが、薄い金茶色をしていた。
優しさを湛えた男の顔に良く似合った色だと思った。
「じゃあ、ご両親が心配しているからそろそろお行」
面を元に戻しながら言った。
彼女は頷き石段を下り始めた。
数段降り、振り向いた叫んだ。
「お兄さんっ!!本当にありがとうっ!!」
狐面の男はヒラヒラと手を振っていた。
りんご飴を男に渡したままだった事に後で気づいたがお礼だと思って特に気にしなかった。
私は一人神社の石段に腰掛けている。
一番上から三つしたの段。
20年前と同じように、むしろ、もっと賑やかな光の道が伸びている。
五歳の時あの記憶。
不思議なひとだった。
優しげに私を見下ろした真っ黒な双眸。
私自身の姿が映りこんでいた。
また、会えないだろうか・・・。
その思いで毎年この祭りにやって来ていた。
20年間ずっと。
結婚もせずに、ずっとこの田舎に住み続けている。
親は嫁の貰い手が無くなる。と嘆いているが、一向に構わない。
あの人の顔が忘れられない。
あの優しい顔によく似合っていた薄茶色の髪を一目見たい。
あの真っ黒な瞳でもう一度私を見て欲しい。
あの穏やかな声で私に話しかけて欲しい。
また、私の手を引いて歩いて欲しい・・・。
相変わらず、私は「賑やか」を見下ろしているのにそん物は脳みそまで届いてはこない。ぼぉうっと目に写しているだけ。
だから、すぐに背後からの声に反応できた。
その声を聴いた瞬間に笑顔を顔は作り出していた。
「なにしているの?」
白の地に黒の文様。
黒い帯。
下からのやんわりした、祭り独特の光に照らされた薄茶色の髪。
白く滑らかな表面に紅の化粧をした狐の面。
幻ではないのだろうか?
そう疑いたくなるほど、欲していたものが突然背後に現れた。
「貴女は、あの時の小さいお嬢さんかな?」
穏やかな声が問う。
夢中で頷いた。
覚えててくれた。
気づいてくれた。
幸せ過ぎて、倒れるかと思った。
「あの時は、すまなかったよ。君にりんご飴を返しそびれた」
彼は心底申し訳なさそうに言った。
慌てて首を振る。
「いいんです。お礼のつもりだったので」
そう、と言って言葉を続けた。
「それでも私の気がおさまらないよ」
ならっ。叫ぶように言っていた。
「私と一緒に下の屋台、見てまわりませんか?」
言ってしまった後に顔が熱くなるのを感じた。今目の前に鏡があったら、耳まで真っ赤だ。
りん。
と鈴の音が聞こえて、狐は頷いていた。
「そんな事で良いなら」
右手を私に差し出して、すぐに気づいた様に手を引っ込めた。
「コレは失礼ですよね。貴女はもう大人だ」
そんな事はないと首を振って、私から手を伸ばした。
また顔が火照って、俯いた。
伸ばした手をやんわりと引かれた。
「行きましょうか?」
りん、りん、りん、りん・・・・
鈴の音と、彼の優しい声が耳に届く。
何を言っているのかは詳しく入ってこない。
周りの喧騒も、祭り独特の柔らかな光もぼんやりとしか認識できない。
甘い綿菓子の上を歩くような幸せな気分でぼぉとしていた。
これほど幸せで良いのだろうか??
彼と、あっちこっちの店を覗き込んで言葉を交わし、ふわふわした気分で「賑やか」を巡った。
一通り楽しんで、大きな鳥居が頭上にそびえる石段の下に戻った時狐の人は言った。
「見せたいものがあるんですよ」
石段を上がった。
鳥居をくぐった。
かつて迷子になった林の中に分け入ってく。
不安は全くない。
以前助けてくれた人が居る。
「賑やか」の気配が届いてくる。
何を心配しなけらばいけないのだ?
突然開けた場所にでた。
「・・・・・」
その光景に言葉も出ない。
明るい少し欠けた月が出ていた。
今までに見たことが無いほどの星が出ていた。
下は急な斜面。その下に闇がこだまし、そこからおそらく背の高いであろう木が伸びていた。木の天辺を月が照らし、これがまた美しい幻想的な雰囲気を作っていた。
お祭りの音はまだ微かに流れてくる。
「綺麗でしょう?こちら側は山だから何の光も無くて、良く見えるんですよ」
月光に照らされ青白く輝く狐面が言った。
「本当に、綺麗・・・・」
祭りの不思議な雰囲気が良く似合った空だ。
ふと、ここで彼の顔が見れたらどんなに素敵な事かと考えた。
横を見れば狐の面も空を見ていた。
「あなたの顔が見たいです」
狐の横顔に言っていた。
彼はあっさりと頷く。
りん。と音が鳴る。
しゅるしゅると紐を解く。
面の下から現れたのは、あの時と寸分も違わぬ優しげな顔。違うのは黒い瞳に映りこんだ私の顔が20歳分大人になっている事と、その顔が心底幸せそうな事。
漆黒の瞳から目を離して、本当に何処も変わってない彼の顔を全体的に眺めた。
優しい優しい微笑を浮かべた顔は20年前と全く同じだった。
全く。
20年前と、全く同じ・・・・?
五歳の私は、大人の年齢を見た目か知り事はできなかたっが今から思い返してみれば、20歳前後だったと思う。
そんな事が有るだろうか?
いくら若々しいと言っても、20年前の青年の顔のままなどと言う事が。
シワ一つ無い綺麗な肌のまま。
まるで彼の手の中に有る狐の面のように滑らかな肌をしていた。
きつね。
狐の面に目線を向かわせる。
面には、「目」が無かった。
表には睨みつける様な細い黒の目が書かれているが、裏側に人間が見るための穴がない。真っ白なまま。
いったい彼はどうやって私の手を引いていたのだろう。
「どうしました?」
男は怪訝そうに小首を傾げる。
私は首を振り半歩下がる。
下がりながら馬鹿げた事を考えてみた。
ひょっとして私は神社の狐を好きになってしまったのだろうか?
本当に馬鹿げた考え。
彼が、はっとして私に手を伸ばした。
私は、反射的に大きく後ろに足を出した。
狐の彼の声が途中までしか聞こえなかった。
「そちらは、危な・・・・」
私は急な斜面を転げ落ちていた。
一番下まで体のいたる所をぶつけながら落ちて、私は高い木々の間に寝そべって居た。
全身が痛い。
物凄く痛い。
ずっと上の木の葉の間からほんのちょっと月と星が見えた。
どこか遠くから、悲しそうな啜り泣きを、聞いたような気がしたが、痛みに負けて目を瞑ってしまったから、定かでは無い・・・。
前書きの通り、コレはホラーよりお祭りの何だかそわそわする感じが書きたかったんです。
表現されてないけど。
僕はお祭り大好きです。。




