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強くなりたくない

「強くなりたかったんですね…、草壁さまは強くなりたくなかったんです。」




里中満智子先生作、持統天皇を主人公にした『天上の虹』の名言の一つ。




持統天皇の一人息子・草壁皇子(くさかべのみこ)が服毒自殺をはかり、死にきれずに「死なせてくれ」と苦しみに耐えかねて呻いていた。懇願された正妻・阿閉皇女(あへのひめみこ)(後の元明(げんめい)天皇)は「今すぐ楽にしてあげる。愛しているわ。」と泣きながら自殺ほう助をする。




草壁皇子の首に残る痕を隠しとおせるはずもないので、阿閉皇女は草壁皇子の母、持統天皇(鸕野讚良皇女(うののさららのひめみこ))に全てを伝える。



全てを聞いた鸕野讚良皇女は、草壁皇子に期待と理想を押しつけてしまったことを後悔しながらも「自分も強かったわけではない。」と、『異母妹であり従妹であり息子の嫁であった阿閉皇女』にこぼす。それに返した阿閉皇女の言葉が、鸕野讚良皇女の悲痛な呟きを受けての冒頭のセリフ。さらにこの後、



「私も強くなりたいと願っています。皇后

さまのように。」と続く。




『異母姉であり従姉であり姑である鸕野讚良』に対し、一人息子を失った悲しみに理解を示し、強くならなければという思いを尊重しつつ、草壁皇子の心の叫びをしっかり伝えた上で姑を持ち上げる。なんという嫁の鏡!!すご過ぎて見習えない。





このお話が描かれたころはまだ、ようやく『セクハラ』という言葉が世の中に広まり始めた頃で、反発も収まっていないくらいの時代だったと思う。



まだまだ『モラハラ』『パワハラ』、『LGBT』などは取り沙汰されてなかった時代に『強くなりたくない』という、繊細さを理解してHSP気質のキャラクターを生き生きと描き、それを肯定するキャラも描いてくださった里中満智子先生は本当に懐が深く先見の明もある素晴らしい方だと思う。




そんな素晴らしい名作、特にこのシーンは大好きだったのに、俗物の私が一番印象深く覚えているのが



高市皇子(たけちのみこ)の「女は嫌だ、忘れたい」という言葉とそれを受け入れる柿本人麻呂のシーン。



オタクではあれど腐ってはいない当時中学生の私には『愛のない一夜限りのBL』は斜め上だった。愛のあるBLだったら好みはともかく許容範囲なんだけどね。



ここのシーンも深い意味があってキャラの心情もとても丁寧に描かれているのだが、これを読んで以来、国語や社会で柿本人麻呂が出てくるたびに



(あぁ~…)



と何ともいえない気持ちになるようになってしまった…。気持ちをひきずるのもHSPの特徴。何せ高市皇子も柿本人麻呂も『推し』だったのでね。幸せになってほしかったんだよ。




余談だが私の一番の『推し』は、黒目がちどころか黒目しかない『忍壁皇子(おさかべのみこ)』である。HSPっぽい草壁皇子のことも、正反対の愛されキャラ『大津皇子(おおつのみこ)』のことも、『強くないたい』持統天皇のこともまるっと理解して支えてくれた影のイケメン。





たくさんの個性ある登場人物それぞれの心理描写もとても細かく描き分けされ、歴史漫画としてもとても詳しく描かれていて、私の数多の漫画遍歴の中でも特に好きなこの作品。HSPさんにもぜひ読んでほしいなと思う。

阿閉皇女のセリフがうろ覚えでニュアンスを書きましたが、調べて書き直しました。

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