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前編

「魔女の息子」続編です。

 森の()き魔法使いは群れをなすことを嫌うが、たまに集会を持つことはある。

 中でももっとも多くの者が集まるのが、(やしな)い子の巣立ちを祝う(つど)いだった。


「アネッサや、あんたの娘は立派になったもんだね」

「ありがとう、自慢の娘だよ。祝福をお願いできるかね」


 街の者ともまた違ういでたちの魔法使いの群に、今年15になる娘は目を丸くしていた。

 養い子が集会に始めて出るのは、巣立ちの寿(ことほ)ぎの時。それが森の魔法使いの(おきて)だったから、娘がこれほど多くの魔法使いを目にしたのも、これが初めてだった。


「あのぅ、母様……そんなおねだりして、良いのですか?」


 善き魔法使いの祝福は、力になる。(ゆえ)にこそ安易に与えられるものではないことを、娘は良く知っていた。


「なんだい、娘に説明してないのかい?」

「一応はしてあるさ。聡明な子だからね、慎重なのさ」

「良い事だよ。名前はなんていうんだい、アネッサの娘」

「ラーサです」

「よろしい、ラーサ。アネッサの娘ラーサに、森の魔法使いが一人、癒し手のレーニャが祝福を与えよう。おまえの行く先に希望がありますように、(すこ)やかにあれますように、森の女神のご加護が我らの姉妹の娘を守りますように」


 唱えた魔法使いがとん、と軽く杖で床を打つと、ふわりと光の粒が()き、娘の身を包んでふっと消えた。


「ありがとうございます、レーニャ」

「杖を選ばぬ娘に祝福を」


 にこりと微笑んで、(いや)し手の魔法使いはまじないを終えた。


「ラーサや、祝福にはおまけがあると母から聞いておるか?」

「あ、はい。相手の方のお考えしだいだと聞いてますけど」


 巣立ちのあと頼れるよう、先に巣立った養い子たちのことを教えるのが習いだが、教えるかどうかは魔法使いそれぞれに(ゆだ)ねられている。

 養い子が信を置けぬと判断されれば『従兄姉』のことを教えられることはないし、寿ぎの場に出てこない魔法使いさえいる。今夜の集まりの賑わいは、巣立つ養い子の人柄を物語っていた。


「私にとっちゃ、大切な子供たちのことを教えるわけだからね。そりゃあうかつな相手には教えないさ。でもあんたには教えておこう。(せがれ)や、出ておいで」


 魔法使いの群の後方にいたフード姿の一人が、群を抜けて癒し手の魔法使いのそばに来ると、フードを背中に落とした。


「俺は『杖を選ばなかった息子』なんですけど、ここにいて良いんですかね?」


 髪を短く整えた青年は、魔法使いの長衣の上からも良く分かる鍛え上げた体つきをしていた。

 長衣の腰の辺りを持ち上げているのは、剣だろう。この青年が森の魔法使いではないと、はっきり分かる姿だった。


「呼び出されておいて今さら何言ってるんだい、素直じゃない子だね。魔法剣を使うくせに」

「それ以外習ってませんので」

「武術の修行はさぼったのかえ?」

「鉄のきれっぱしなんか振り回してるより、魔法剣のほうが便利じゃないですか。鉄屑(けん)以外の武器は真面目に鍛錬しましたよ」

「まったく素直じゃない。ラーサや、これがおまえの『従兄』の一人で、私の一番下の息子だよ。もし良ければ、これも頼みにすれば良い」


 見た目は若々しい癒し手の魔法使いだが、これまでに何人かの子を巣立たせてきた『母』なのだと、その堂々とした態度が告げていた。


「あ、はい、えと……森の魔法使いでは、ないのですね?」

「俺は王国軍で百騎長の地位を頂いている。『外』にいる従兄の一人だが、魔法使いでもあるって事で呼ばれた。稀なことだがな」


 にこりと笑うと、青年の端正な顔立ちは意外に親しみやすそうに見えた。


「さて、次の魔法使いがあんたを祝福したいようだ。ラーサや、行っておいで」

「はい!」


 癒し手の魔法使いに促され、娘は手招きしている魔法使いに駆け寄っていった。

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