現実とゲーム
プロローグの話を少し変更しました。
やあ、みんな!今日もいい天気だね!
俺の名前は有山孝壱、青林高校に通う二年生だ!
何を言っているのかわからないだろうが聞いてくれ。
ゲームは現実だったのだ!
え?病院に行けって?
可能ならもう行っているところさ、だってここは…。
「え、何処ここ…」
目が覚めると孝壱はソファで寝ていたことに気がついた。
辺りをぐるりと見渡してみるとここは少し薄暗い部屋で、テーブルやカウンターがあり壁には幾つものお酒が並んでいる。
つまりは何処かのバーだと考えた。
だが孝壱は未成年であるからして自らこのような場所に赴く様な度胸も無かった。
そして昨日の出来事を思い出した。
そっか、俺、あの後気を失って…。
きっと誰かが倒れている俺を此処へ運んだのだろう。
でも誰が?
と、そこへカウンターの後ろにある従業員用の扉が開かれた。
そこにはスラッとしたプロポーションとバーテンダーの衣服に身を包んだスキンヘッドの男性が居た。
「あら、気がついたかしら?」
「かしら?」
語尾が少々気がかりだったがきっと彼が助けれくれたのだろう。失礼な態度は取れない。
「えっと…ありがとうございます?」
「良いのよ、気にしなくても。斉ちゃんが運んできたのを許可しただけだしね」
「斉ちゃん?」
「ああ、起きたか」
そこへ見知らぬ男が入ってきた。
スーツに身を包んだサラリーマン風の男だ。
「昨日の事は覚えているか?」
「昨日の?」
そこで自分が昨日襲われたことを思い出した。
「あんた、仲間なのか?」
「仲間と言われればそうだし違うとも言える」
「…どういうことだ?」
そう言うと斉ちゃん?は右腕についた腕時計を一度見て頷いた。
そして自分とは向かい側のソファに腰を下ろした。
「そうだな、まだ出社前の時間もあるし説明しようか」
そういえば今は何時だろうと店の壁に取り付けられた時計を見る。
時刻は四時を指していた。
出社前と言っていたので朝の四時だろう。
まずい、これでは朝帰りである。
家に帰ったら両親に何言われるかが心配である。
「おい、大丈夫か?まだ昨日の傷が残ってるんじゃ」
「ちょっと、そこで私を見ないでよ。ちゃんと傷は治したじゃない」
少しぼーっとしてたのかそう言われた。
それよりも気になる言葉が。
「治した?」
「そうよ、此処へ連れて来られた貴方の体はもう散々な状態だったのよ。私の天使ちゃんがそれを回復させたの」
「天使ってまさかあんたもファンタジック・ファミリアの…」
「そうよ。まあそこら辺も斉ちゃんが教えてくれるわよ」
バーテンダーの人はそう言って孝壱にウィンクをした。
そうだった、俺は昨日…思い出して背筋が震えた。
「じゃあまずは自己紹介と行くか、俺は浅上斉太郎近くの会社のサラリーマンで、こっちは加藤典明この店の店主だ」
「俺は有山孝壱、青林高校の二年だ」
「へぇ、青林の生徒さんなんだ。けっこう良いとこじゃない」
「それで、これは一体何なんですか?」
孝壱はこの事件の根幹であろう端末をテーブルに置いた。
「ファンタジック・ファミリアというアプリゲームをプレイする専用の端末だが実際はもっと込み合っている。正式な名称は無いがこれをケージ又はオールド・ケージと呼んでいる」
「オールド・ケージ…」
「直訳すると古い檻ね、誰が呼び始めたのかは知らないけど今はそれで定着してるのよ」
「でだ、俺たちも持っているこのケージだが背面の赤い石に触れると起動してゲームが立ち上がる。そこまではいいな?」
孝壱が頷くとバーテンダーの典明がお茶を運んできてくれた。
「どうも」
「サンキューな」
「良いのよ」
お礼を言うとニッコリと典明は笑った。
「画面を見るとおり殆ど既存のファンタジック・ファミリアと同じだが多少の違いも当然ある。まずゲーム内での戦闘はできないのでエリアマップは無く、代りにこの世界のマップと近くにケージ所有者がいるとその周辺地図が出てきて赤い点で場所が示される。まあ出会ってみるまではどんなやつなのか分からないのが難点だが。因みにフレンド登録してあると緑の点に変わる」
「そこらへんは確かにゲームっぽいですね…」
「次に魔物についてだが、孝壱、お前はまだ捕まえていないのか?」
「あ、えっと、その事なんですけど…俺には見えないんです」
「何?だが現にこうしてお前は手にしてるじゃないか、何を根拠に見えないなんて…」
「実は…」
そこで孝壱はアンケートにふざけて書いた文章を斉太郎に教えた。
「おいおい、まさか運営はそんな適当な回答にもこれを送るようになったってのか?勘弁してくれ…これじゃあ俺たちの仕事が増える一方じゃないか…」
「仕事って斉太郎さんの会社ってこのゲームと関係があるんですか?」
「ああいや、そういう意味じゃない。俺たちはチームを組んでこの街一帯を管理してるのさ。一応この街に住んでる大体のプレイヤーとはフレンドになってる。でないとケージのマップを見て一々確認しなきゃならんのでな、で、俺達は夜な夜なパトロールしてるってわけ。時間も時間だからバーとか夜中やってる所に自然と集まって現在に至るのさ」
「なるほど…」
「っと、話がずれたな、孝壱の見えない問題だがどうしたもんかな…」
斉太郎は腕を組んで天井を見上げる。
「そういえばお二人はどうやって見えるようになったんですか?」
「ん、俺たち?」
「そうですよ。斉太郎さんと典明さんはどうやって見えるようになったんですか?」
「どうって言われてもねぇ、私たち気がついたら見えるようになってたから」
「俺も同じだな、強いて言うならゲームとしか言えん」
「そう…ですか…」
まあ言われてみればそうだろう。
そうでなければこれを持っていないだろう。
「しばらくはこっちを使わずにスマホの方を継続してみるのがいいかもしれないな」
「わかりました。そうしておきます」
「取り敢えず、ケージの方でフレンド登録しておこう、こっちでも連絡はできるから何かあったら連絡してくれ。あ、仕事中は出られないかもしれんがな」
そう言いながら斉太郎は自分のケージを使ってフレンド申請を行う。
フレンド申請が来ていると通知が表示されたので了承する。
「あ、じゃあ私も私も」
「お願いします。なんだか心強いです」
その後、孝壱は店を出て家に戻ることにした。
―
――
―――。
線路の下のトンネルを右腕を抑えながらよろよろと力なく歩く人影があった。
腹立たしいことがあったのか弱ってはいるがその表情には激しい怒りでいっぱいだった。
「クソっ!クソっ!斉太郎の奴邪魔しやがって!俺らが強くならなきゃいけねぇって分かってんだろうが!このままじゃ他の連中に…」
充は自分のケージの契約画面を見る。
そこには赤鬼の絵が表示されている。
契約は一人につき一体だがその力は凄まじく、封印した魔物の力が100ならば契約した魔物の力は1000にも上がるのだ。つまり十倍に跳ね上がるのだ。
故に契約者に対抗するには自分も契約者になるしかなかった。
だがそれはその魔物の成長が止まることも意味していた。
だからこそ斉太郎は後悔するぞと言ったのだ。
と、そこへトンネルの入口を両方とも覆い隠す覆面連中が現れた。
格好こそ様々だが背格好から歳は大学生ぐらいの奴が殆どだとわかった。
「あ?」
「変身」
数にして三十人はいるだろうか、その覆面連中はあろう事かケージを取り出してそう言った。
驚くべきことにその場にいる充以外全ての人間が契約者だったのだ。
その変身した姿は灰色がかった緑のスーツで、皆同じ姿になっていた。
「ゴブリンか!」
「G-003からG-036、これより目標を捉える」
「くそったれ!やってみろよ!」
充は現状の不利に悪態をつくと自身もケージを取り出して変身した。
単体なら有利だったが疲弊と傷ついた身体が相まって切り抜けるのも怪しい状況だった。
「こっちは大鬼タイプだ!小鬼なんかに負けられるかよ!」
「浅はかなり」
リーダー各と思われる男がそう呟くと右手を上げて前へと振り下ろした。