《4》
≪4≫
最寄り駅から数えて2駅隣に店を構えている、私のお気に入りの喫茶店『モンタージュ』にやってきた。
明治大正時代を思わせるアンティーク調の机や椅子が並ぶ店内は、今日も私を優しく受け容れてくれる。
気が付けばご機嫌に口角が上がっていた。
それに自分で吹き出しつつ、いつも座っている店の奥にある丸テーブルへと足を進めると――思いがけない人物が、我が物顔でその席に座っていた。
「汐里、今日はいつもより早かったな」
「夏生、あんた2限サボったでしょ?2回生のうちに単位取っとかないと後で困るよ」
「なんだよ、悪いかよ」
「誰もそんなこと言ってないでしょう?」
「顔が言ってんだよ、顔が」
「あはは、はいはい」
夏生とは子供の頃からの腐れ縁だ。
私と常に対等であろうとしてくれる気心の知れた数少ない友人の一人。
運動神経が抜群で、性格もからっと晴れた空のように明るく気さくで、兎に角、前向きな男だ。
そして一緒にいると楽しい人柄が、男女共に好感の持てる人物。
それがこの、五十嵐夏生だった。
私は彼の向かいの席に腰かけ、お冷を持ってきてくれた店員にすぐさま檸檬かき氷を注文して、ふうと一息吐いた。
そんな私に夏生が意味深な視線を送ってくるものだから、どこか居心地の悪さを覚えて、私はつま先で彼の膝に軽く蹴りを入れる。
「いって」
「なに?」
「いや、今日はまた一段と疲れた顔してるなと思っただけ」
「……凄いね、そんな顔してたつもりなかったんだけど」
「まあこんだけ顔つき合わせてりゃあな」
夏生は田舎には不釣り合いな派手な金髪に、流行りをおさえた洒落た格好をしている。
それは所謂大学デビューといったものとは違い、彼によく似合っていて、女子にも受けが良かった。
そんな夏生とは真反対なのが私だ。
田舎者丸出しの一度も染めたことのない髪に、無難な色合いの面白味のない洋服を着る私と、お洒落な彼が同じ机を囲んでいるこの光景は、傍から見れば違和感しかないだろう。
「あのさ、汐里。今日、その……」
言葉尻を濁す夏生の様子に私はいつものように返事をしようとしたけれど――その時丁度自分が注文していた檸檬かき氷が目の前へと運ばれてきた。
「まあ、それ食ってからでいい」
「う、うん」
この後来るだろう『あの』時間を思って、私達は気まずさからか、お互いに視線を四方へと彷徨わせる。
この後どんな顔をして彼と向き合えばいいのか、かれこれ何十年も続けているもはや習慣とも言える行為。
かき氷をしゃりしゃりとスプーンで軽く崩して一すくいし、おもむろに口へと運ぶ。
檸檬の酸味のある爽やかな甘みが舌に心地いい。
けれど次第にじわりと渋い苦みが舌先から根元へと広がっていくようななんとも言いようのない感覚がしていた。