気が付いたら・・・
「知らない天井だ」
ぼやける視界の先にはベニヤっぽい木材を張り合わせた茶色い天井。
なんとなくそう思ってみたけど、ネットでそういう場面を見かけた程度だし、
元ネタもそこまで詳しく知っているほどオタクではなかった。
携帯電話も普通に使いこなしてきたし、オンラインゲームとかも沢山やった。
3Dの方向感覚とかはちょっと苦手だったし、
全国大会に出るほどゲームも上手くなかった。
それなりにスポーツもやったし、受験勉強だってそこそこ頑張った。
でもプロになれるほど上手くなかったし、
弁護士や医者になれるほど頭がいいわけじゃなかった。
カラオケもそこそこ。ボーリングもそこそこ。
パチンコや競馬などの博打に才能があったわけじゃないし、
親が政治家でもなかったし、子供が芸能人でもなかった。
仕事も管理職になったし、会社では俺の名前を知らない人はいなかったし、
多くのプロジェクトもこなした。
でも、超一流の会社でもなかったし、
日本の一億人の中のほんと5千万番目くらいの能力と言われても納得出来る。
地震とか台風で大変な目にもあったけど、
大きな事件や事故に巻き込まれたわけでもないし、
学校の同級生にプロサッカー選手がいたとか、
小学校の野球チームでプロになった誰かと対戦したことがある程度。
そんな普通な人生だったから、そりゃあのころに戻ってやり直せたらとか、
小説や漫画の主人公に自分を重ねてこんな風に生きてみたいと思ったことも
数え切れず・・・
「生まれ変わったんだろうなぁ・・・本当に」
ちょっとぼやける視界の中に見えるのは、
孫や娘を小さいころに抱いたときのような≪小さな手≫。
自分ではちゃんと口に出したつもりが実際には、
「うあえかあったんだおーなー・・・おんとーい」と口が上手く回らない。
と、そんなことを思っていると、誰かが近づいてくる音がする。
「お、目が覚めたようだな。仕事から早く帰ってきて良かった!」
おーイケメン! 状況から考えて父親だろうと思われる男性は、
なんだろう・・・漫画の主人公にいそうなハンサムでがっしりとした体型で、
さわやかな笑顔をふりまいて、鎧のようなものを脱ぎながら話しかけてきた。
んっ?鎧???
「アナタ、汚れがこの子に落ちて病気になったらどうするの?
ちゃんと着替えてから抱いてくださいな。」
「おぉすまん、すまん。今日が3日目だろ?つい気になってしまってな・・・。
ちょっと着替えてくるから、まだ待っててくれよ?」
そう言って出て行った男性の代わりに視界に飛び込んできたのは・・・
「ふふふ、パパは今日をすごく楽しみにしてたのよ?もちろん私もね?」
先ほどの男性はやはり父親だったのかと思うと同時に、
父親よりだいぶ小柄な女性が優しそうな笑顔で頭をなでてくれた。
美人ママキターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
童顔だけれども大人の魅力が伝わってくる、
学校で一番人気の女の子と言われれば納得できるほど
素敵な女性が目の前にいる・・・。
両親が美男美女とか、なんというベタな転生。
75歳まで生きた記憶の中でも、数えるほどの美人の登場に
年甲斐もなく嬉しくなってしまう。
あ、若いのか。生まれ変わったわけだから。
そんな不思議な感覚にちょっとした戸惑いを覚えていると、
父親が大急ぎで戻ってきた。
「待たせたな!さて、さっそくだがいきなり聞いてみよう・・・」
キミは記憶がのこっているかい?」
「えっ?」