十一
七-十一
その姿は全身が真っ黒で胴体にウロコはなく、ゴツゴツした多数のイボのような突起に覆われ、鯛といえど体長は四尺超で、一対の複雑な形の角が後方に伸び、長いヒゲも蓄えている。金色の眼光は、身がすくむほど鋭い。
魚から見ても無気味な姿だが、これが一千万年も生き続けてきた不死魚の姿なのだろう。
「リュウビ様の傷が、回復されているので安心しました。」
「ようやく元の姿に戻れ、建築中の屋敷を支援することができます。ショウさんの提案どおり、太郎という鯛漁師を海底に招けば、私達の未来は安泰でしょう。」
リュウビが元の姿に戻れば、数々の術を使うことができて、凄いことになる。
「太郎を屋敷に招き入れたら、亀族にも接待役をいただけるのでしょうか。」
だが、リュウビは顔を曇らせた。まだ何か未解決の問題があるようだ。
太郎をもてなすために、魚族やタコ族が人間に化身するのだが、肝心の人間づくりには問題が山積しているのだ。
それはゼクスにも分からず、霊感師のミンクさえ苦慮していることだ。
「本物の人間を作らねばなりません。身体の細かな部分の色や形、動きや機能が分かるよう、着物に包まれていない人間を調べないと。」
フクロウのジータから入った情報の中に、人間が全裸になる風呂という場所があった。
日が暮れると、そこで着ている物を全部脱ぎ払って、身体を洗うらしい。ところが風呂場は、虫一匹入れない、閉ざされた密室となる。
「風呂場を見ることさえできたら、身体がどんな色や形か、だけでも知ることができるのですが……。」
そこへクンクから連絡が入った。友達にボウという青大将がいて、ずっと前に武家屋敷の屋根裏から、風呂場に忍び込んだことがあると言う。
喜んだミンクは、ボウを浜に連れてくるように頼んだ。しかし青大将は冬の間はずっと土中深くで眠るため、春までは無理という返事だった。
「時が迫っているのです。どうにかなりませんか。」
「ボウさんは深い眠りに入っています。場所を教えますので、ミンクさんの霊力で起こしてみてはどうでしょう。」
ミンクがボウの眠っている場所を特定すると、遠隔術で霊気を吹きかけた。ボウはムックリ起き上がり、地中を這い上がって地上を見回した。そこは北風が冷たく、若芽の萌える季節とは思えない。ボウは近くにいたクンクを見つけて、たずねた。
「おはよう、春が来たのかい。」
「いいえ、まだ真冬です。ボウさんに、大切な頼み事があるので、目覚めてもらったのです。」
突然、ボウがクンクに襲いかかった。尾を噛まれそうになったクンクは飛び退き、毛を逆立て、威嚇体勢をとった。
「バカ野郎、二度と俺を起こすんじゃない。」
ボウは、そう言い放つと地中に潜った。
「ちょっと待ってください。話を聞いてください。」
「うるさい。もう一度、俺に声を掛けたら本当に殺す。」
困ったクンクは、穴の周りをグルグル回る。ミンクも遠隔術で話しかけてみる。
「ボウさん、お休みのところを相すみませんが、お願いがあるのです。」
だが、いくら待てども返事はない。
「寒い冬に地上に出るのは苦痛でしょうが、急いでいるのです。私たちは多量の魚を捕獲している人間という動物を調べ、対策を練っています。協力していただけないでしょうか。」
ボウに反応があった。
「お前は何物だ、どこでしゃべっているのだ。」
どうやらボウも、人間をよく思っていない。ミンクは共通の目的を作れば、協力が叶うと考えた。
「私は人間に狙われる魚で、ミンクと申します。海の底からあなたとお話をしています。共に人間を調べ、弱点を暴いてくれませんか。あなたにとっても将来、きっと役に立つと思います。」
「驚いた、俺が魚と話しているのか。そんな魔法を使う化け物は、信用できないな。」
これ以上は逆効果になる。ボウに友達のクンクと話し合うよう伝え、通信を切った。だがクンクがいくら働きかけても、返事がない。
「人間ってさ。すぐボク達を追い払ったり、殺したりするので大きらいだ。このままだと、いつかボク達は滅ぼされるかもしれない。あんな身勝手な人間なんか、この地上から消えてしまえばいいんだ。」
「俺もそう思っている。お前の頼み事とは何だ。話によっては聞かないでもないぞ。」
地中から声がした。ボウは聞いていたんだと、うれしくなり急いで頼みごとを喋った。
差江の武家屋敷の風呂場に忍び込み、人間が着物を脱ぎ払った姿を見るだけでいい。ボウが見た映像は、そのまま魚のミンクに送られるので、決して難しいことはないと、一気にまくしたてた。
「俺の見た映像が、ミンクという魚に送られると言うのか。一体どういうことだ。」
「さっき、ミンクさんとお話しましたよね。あの魚は霊感師のアンコウです。その時にボウさんは、映像伝達能力を受け取ったのです。ボクだけじゃなく、カモメやフクロウ、土ネズミの他にも、色々な動物が人間の行動を観察して、映像を送っています。




