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真説・うらしまの太郎  作者: 川端 茂
69/86

七-二

 次郎の言うとおりだ。今までの事柄(ことがら)(あら)いざらい思い出し、()(なお)してみるのは妙案(みょうあん)だ。

 (やつ)らが何のために、何を目的(もくてき)として海底へ(さそ)()んだのか、ひょっとして(こた)えが見えてくるかもしれない。

 次郎の提案(ていあん)は、心の(すく)いにもなった。ありがたく(かん)じ入り、笑顔(えがお)(つく)ってうなずいた。

(てら)作佐(さくざ)とやらに話してみたい。何か()かるような気がするで。」


 次郎が作佐(さくざ)()れて来た。三十(さんじゅう)()ぎの若い(そう)で、物書(もの)きに長けていると評判(ひょうばん)らしく、差江(さえ)北島(きたじま)からも()()けの依頼(いらい)が、よく()()むと言う。

 頭を()り上げた、色白(いろじろ)()せた若い(そう)は、前に(すわ)るなり(ひたい)(たたみ)()くほど深く、平伏(へいふく)した。

裏島(うらしま)(でら)作佐(さくざ)と申します。(つた)(ばなし)と思っていた太郎(たろう)(さま)にお目にかかれて、まことに光栄(こうえい)(ぞん)じます。次郎(じろう)さんから(あら)事情(じじょう)はお聞きいたしました。お(はなし)一所(いっしょ)懸命(けんめい)()かせていただきます。」

 三十(さんじゅう)()ぎとは思えない言葉(ことば)づかいや、礼儀(れいぎ)正しさ。海に入る五十年前とは、隔世(かくせい)(かん)がした。

 ---さてどこから話そう。


 音根に相談(そうだん)を持ちかけるように寝顔(ねがお)をのぞき込むと、話を聞いていたかのように目覚(めざ)めた。

「おってくれたんじゃね。この(とし)になると、すぐ疲れて(ねむ)ってしまうんよ。おや作佐(さくざ)さん、また面白(おもしろ)い話を()って来てくれたんか。」

「今日は、太郎(たろう)(さま)のお話をうかがいに(まい)りました。」

(うみ)へ入った話か。私は太郎さんを約束(やくそく)五日(いつか)(かえ)さんかった海が(にく)い。何で五十(ごじゅう)(ねん)も……。」

 目に(なみだ)()めて(くや)しがる音根の耳元(みみもと)に顔を近付けて、作佐(さくざ)がささやいた。

「そのとおりです、お(ばあ)さん。理由(りゆう)があるはずです。太郎(たろう)(さま)も理由を知りたいと(もう)しておりますので、お(はなし)をうかがって(さぐ)りたいと思います。」


 少し()()いたのか、音根が(ひと)(ごと)のようにつぶやいた。

(たお)した(りゅう)復讐(ふくしゅう)と思うちょったが、太郎さんは(ころ)されんで帰った。海の中に(さそ)ったこと、五十(ごじゅう)(ねん)も帰さんかったことは、(べつ)理由(りゆう)があるのかもしれん。」

 音根の言葉は衝撃(しょうげき)で、その推測(すいそく)身震(みぶる)いした。別の理由で海底へ(さそ)()まれたとは一体(いったい)、何を意味(いみ)するのか。

(りゅう)復讐(ふくしゅう)ではないと思うんか。」

 でも赤い手箱(てばこ)に、(やり)()さった(りゅう)置物(おきもの)が入っていたのは事実(じじつ)だ。作佐(さくざ)には、(りゅう)に父が()われた十五(じゅうご)(さい)から話すことにした。


 (となり)の部屋に場所(ばしょ)(うつ)すと、すでに次郎が卓に燭台(しょくだい)()けて、巻物(まきもの)(ふで)を用意していた。燭台(しょくだい)(はさ)んで作佐(さくざ)と向かい合い、話を(はじ)めた。

 (よる)はしんしんと()けて、晴れ(わた)った空に無数(むすう)の星が(またた)いている。

 まずは、村の(しゅう)との毎日を土台(どだい)にした、鯛漁(たいりょう)への意気(いき)()みを話した。そして差江(さえ)北島(きたじま)と鯛を(かい)した交流(こうりゅう)に話を(すす)めた。

 多賀屋(たがや)正克(まさかつ)の計らいによる、鯛釣(たいつ)(じゅく)準備(じゅんび)裏島(うらしま)(たい)を売る(ゆめ)を話していくうち、どこかしこに(りゅう)が見え(かく)れしていることに気付(きづ)いた。


「オラの漁師(りょうし)としての仕事(しごと)だけに、(りゅう)()いてまわっとる。万作(まんさく)はんや、弥助(やすけ)はんには(から)んどらんのに。」

「そのようです。(みょう)(におい)いがしますね。」

 作佐は(ふで)(はこ)びながら、上目(うわめ)づかいに自分の(ほう)を見た。

「何か、()かったか。」

「いえ、まだ何も。話を(すす)めましょう、大きな海亀(うみがめ)が浜に来た日からですね。」

 (おお)海亀(うみがめ)のショウが(あら)われたのは、音根(おとね)のことで藤造(とうぞう)悶着(もんちゃく)があった日だ。浜を走っていた藤造(とうぞう)子亀(こがめ)につまづき、(いか)りで(たた)いたのを(すく)って、海に(はな)した。

 その直後(ちょくご)母亀(ははがめ)が現われ、子亀(こがめ)を助けた(れい)として海に(さそ)われた。


 その翌朝(よくあさ)、ショウの言葉を信じ、好奇心(こうきしん)(おもむ)くまま、(みな)反対(はんたい)を押し切って海へ入った。

 海底(かいてい)地面(じめん)から光が()き出し、この()(もの)とは思えない景観(けいかん)現象(げんしょう)に、(おどろ)きずくめの日々だった。

 龍宮(りゅうぐう)(しょう)する屋敷(やしき)想像(そうぞう)超越(ちょうえつ)するほど豪華(ごうか)で、(うたげ)食事(しょくじ)(われ)を忘れた。

 白い拝塔(はいとう)でゼクスとの出会(であ)い、加奈(かな)のいる長閑(のどか)農園(のうえん)、ゼクスが作った(はる)楽園(らくえん)

 逃げ(かく)れできない海底で、龍の復讐(ふくしゅう)恐怖(きょうふ)しつつも、身に(あま)接待(せったい)()けた。

 帰る日まで乙姫(おとひめ)加奈(かな)に、海底で永住(えいじゅう)するよう、あの手この手の誘惑(ゆうわく)で引き止められた。

 (まよ)(くる)しんだ(すえ)帰還(きかん)決断(けつだん)したのだが、その(わか)れは涙が出るほど(さみ)しく、(むな)しいものだった。


 約束(やくそく)どおりショウが地上(ちじょう)へ帰してくれたが、(かえ)ったらこの有様(ありさま)だ。話し()えると、外はうっすらと夜明(よあ)けの(きざ)しを見せている。

「もう朝じゃ。作佐(さくざ)さん、(つか)れたじゃろう。」

「いえいえ、たいへん興味(きょうみ)(ぶか)いお話でした。(てら)(もど)って整理(せいり)し、私なりに因果(いんが)を考えて(まい)ります。」

 作佐は()き付けた(かみ)を、()れた手付(てつ)きで()いて立ち()がった。

「おぼろ()ですが、真相(しんそう)らしきものが見えてきました。それはお(ばあ)さんが申したとおり、(りゅう)復讐(ふくしゅう)ではないですね。(みょう)太郎(たろう)(さま)の漁師の仕事(しごと)が引っ()かるのです。」


 作佐を見送(みおく)った足で、まだ暗い(はま)に向かった。砂に(こし)を下ろし、黒々とした海を(にら)む。浜は単調(たんちょう)波音(なみおと)(ひび)いている。

 日の出には()があるが、横長(よこなが)の雲が()れる東の(そら)が白くなり、海と空を一本(いっぽん)の線で分け(はじ)めている。

「オラの仕事が因果(いんが)に引っ掛かるとは、どういう意味じゃ。投網(とあみ)(りょう)やタコ(りょう)ではなく、鯛漁(たいりょう)なのか。」

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