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真説・うらしまの太郎  作者: 川端 茂
61/86

六-六

 手桶(ておけ)()げた二太夫と二人(ふたり)で、ハクビの支柱(しちゅう)二列(にれつ)に並んだ農道(のうどう)を歩く。上空(じょうくう)を見上げても深海(しんかい)ザメの気配はなく、(おだ)やかだ。

 途中(とちゅう)で一太夫と加奈に合流(ごうりゅう)し、四人になった。農道(のうどう)(かたわ)らに()可憐(かれん)な白い花を()みながら歩いていると、加奈が(よこ)に来て(のぞ)きこむ。

「その花、かわいいでしょ。それはピクと言って、()は私達の薬草(やくそう)になるのですよ。たくさん()んでどうするのですか。」

「ゼクスの(はか)(かざ)ろうと思うてな。」

 加奈も()み始めた。白い花を両腕(りょううで)いっぱいに(かか)え、こんもりと土を()った(はか)()いた。


 (みどり)のハクビ畑を()にし、(あか)いタッピ畑が露払(つゆはら)いするかのように、両脇(りょうわき)に広がる風景(ふうけい)は、ゼクスの偉業(いぎょう)にふさわしい(つく)りだ。

 抱えてきたピクの花を足許(あしもと)に置き、一花(ひとはな)ずつ(かざ)るように(はか)に並べてゆく。

 音根の(はは)()くなった時、藤造(とうぞう)が野の花で布団(ふとん)(かざ)ったことを思い出し、ゼクスにもそうしたかった。加奈も(なら)べる。

 盛り土の(はか)は、花笠(はながさ)のように(はな)やかになった。花を並べ終わると、二太夫が(おけ)の水を(しゃく)()け、一太夫が線香(せんこう)に火を()けて墓の中腹(ちゅうふく)に立てた。皆が押し(だま)って(おが)む。


 地上の墓参(はかまい)りと同じだ。ひと(とお)りの参拝(さんぱい)を終えると、一太夫と二太夫もピクの花を()んで来て、盛り土に(くわ)えた。

「ほう、きれいですなあ。ゼクスは(よろこ)んでおりましょう。」

 花で(かざ)られた(はか)に、もう一度(いちど)手を合わせる。

「これからは、ゼクスの子孫であることを(きも)(めい)じ、この星に(みと)められる人間になるじゃ。地上に帰ったら(みな)に話すで、安心して(ねむ)ってくれ。」

 これで三つの希望(きぼう)は、すべて実現(じつげん)した。乙姫には地上に帰ると、はっきり伝えよう。真心(まごころ)で話せば、加奈も分かってくれるだろう。ゼクスの(はか)に深く頭を下げ、屋敷へ戻ろうとすると、頭の中で(なつ)かしい(こえ)がした。


「太郎様、お(まい)りくださって、ありがとうございます。私達の子孫(しそん)として、()きてくださることに感謝(かんしゃ)します。地上に帰ったら(うみ)や多くの生き物と共生(きょうせい)して、幸せな未来(みらい)(きず)いてください。(かげ)ながら応援(おうえん)しています。」

「ゼクスじゃ。どこにおるんか。」

 突然(とつぜん)(さけ)び声に、三人が仰天(ぎょうてん)して()()ってきた。

「どうかしたのですか、大丈夫ですか。」

 ハッと(われ)にかえる。三人の(あわ)()りで、今の声は(だれ)にも聞こえていなかったと(さっ)した。

「いや(なん)でもない。じゃが今、ゼクスがオラに(はな)しかけてきた。」


「そんな馬鹿(ばか)な。ゼクスは()んだのですよ、太郎殿の空耳(そらみみ)でしょう。」

「いいや、(たし)かに聞いた。ゼクスはな、地上に(かえ)って(うみ)や生き物を(うやま)って、幸せな未来(みらい)(きず)くようにと言うた。もうひとつ、ゼクスの子孫(しそん)として()きることに感謝(かんしゃ)する、とも言うたじゃ。」

 強い口調(くちょう)が、(うそ)でないことを(しめ)したのだろう。加奈が地面に(くず)()ち、一太夫が天を(あお)いで腕を()む。

 二太夫は何度(なんど)もうなずいて、(やさ)しく肩に手を()ばしてきた。

「そなたのお(ちから)で、素晴らしい人間(にんげん)社会(しゃかい)(つく)ってくだされ。」


「太郎様は、地上に必要(ひつよう)なお方なのですね。私も海底から、太郎様のご活躍(かつやく)(いの)ります。でも、私のことは(わす)れないでください。」

 (あふ)れる涙を(ぬぐ)おうともせず、背中(せなか)(ふる)わせ、地面に両手を付く加奈の(かた)を引き寄せた。

「加奈さん、心底(しんそこ)から()きじゃった。(わす)れはせん。」

 三人が地上に帰ることを(みと)めたので、もう乙姫も引き()めはしないだろう。(ゆた)かに実った農園(のうえん)(なが)めて、(さみ)しい気持ちになったが、もう(まよ)いはない。


 五日(いつか)目の朝。ここは龍宮(りゅうぐう)最上(さいじょう)(かい)真紅(しんく)欄干(らんかん)を握り、潮で(しお)んだゼクスの墓の(あた)りを見つめる。(となり)には薄青(うすあお)衣装(いしょう)をまとった乙姫が、欄干(らんかん)から()()り出すように、自分と同じ方向(ほうこう)を見ている。

 初めて上がった三層(さんそう)四階(よんかい)最上(さいじょう)(かい)は、思っていた以上に(たか)い。ここから半里(はんり)ほど先が(かず)んでいるものの、農園はくまなく見渡(みわた)せる。小魚の()れがキラキラ(かがや)いて、上空や農作(のうさく)(ぶつ)の上を活き活きと旋回(せんかい)する。


豊作(ほうさく)(さい)にお(おまね)きしたのに、ゼクスの()で二日しか(もよう)せませんでした。それに深海(しんかい)ザメに襲撃(しゅうげき)されて、客人の太郎様が(たたか)羽目(はめ)になりましたこと、心からお()びいたします。」

 遠くを見つめたまま、静()かな口調()で話す乙姫から、物悲()しい思いがヒタヒタと伝()わる。

「いや(たの)しい日を()ごせて、良かったと思うちょる。(りゅう)(うたが)って、(こわ)がってばかりしとったが、何もなかったじゃ。乙姫様には、かたじけない気持(きもち)ちでいっぱいじゃ。」


 すでに、来た時の羽織(はおり)(はかま)姿(すがた)だ。今さら地上に帰る決心(けっしん)を話さなくても、乙姫は分かっている。

 大きな(ひとみ)から幾筋(いくすじ)もの涙が、白い(ほほ)を伝って落ち、(かがや)(みごり)屋根(やね)に消える。

 雑木(ぞうき)(ばやし)の部屋で加奈を使ってダマしたことは、永住(えいじゅう)(のぞ)んでと思うと、今は感謝(かんしゃ)で胸が()()けそうだ。

---名残(なごり)()しい。

 欄干(らんかん)に置いた、(つめ)たい乙姫の手に、そっと手を(かさ)ねた。

「もう行かんと。ショウが(もん)(まえ)で待っとる時分(じぶん)じゃ。」

 うなずいた乙姫は、(だま)ったまま身をひるがえし、最上(さいじょう)(かい)部屋(へや)に入った。その(うし)ろに付き、急な階段(かいだん)一歩(いっぽ)一歩(いっぽ)()みしめながら下りる。

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