十三
四-十三
なおも、乙姫は話を続ける。
この星にも遠い昔、サウルスという巨大な動物の長い時代があり、ある天災で滅んだ。くしくも生き残った小さな動物が繁栄し、新たな時代を築いていた。
ゼクスも降り立ったそれぞれの地上で、永住に成功したかに思えた。ところがこの星の細菌攻撃によって、絶滅の危機に遭った。
「この星の細菌が、ゼクスを攻撃したんか。」
「そうです、他の星から移住してきた生き物は、星が管理する〝雌雄二性交配系〟にそぐわない場合、細菌によって拒絶攻撃を受けます。」
話は難しいが、虚空を見つめて話す乙姫の瞳が悲しく、言葉を遮ることができない。
ある大陸に降りたゼクスが、絶滅を免れる対策として、トゥルーという猿族を捕獲研究し、子孫を残すための交配を試み、それに成功した。
「その猿に、子を産ませたんか。」
「高度な文明を持つゼクスですが、成功するまでには大変な苦労があったようです。
そのためにトゥルーという猿族の犠牲は凄まじく、その大陸から消えてしまったほどです。」
やがて、ゼクスとトゥルーの血を受け継いだ子孫が、次々に誕生し、増えていった。
それは成体になっても身長四尺ほどで、頭が大きい奇妙な姿であった。
この星の先住動物と決定的に違う点は、直立で二足歩行をして、身体に体毛がないこと。
この星の重力に逆らった体形と、姿勢では早く走れず、また動けば草木や石で傷だらけになるし、暑さ寒さにも弱い。
だが子孫達は、肉食鳥獣の餌食になりながらも、ゼクスから受け継いだすぐれた知能を発揮し、増殖した。それが今の人間の祖先と言う。
星による細菌攻撃から逃れたゼクスもいた。ゼクスは呼吸をしないため、海に入り海底で生き延びた。
数百体を超えるゼクス一行は、安住の地を求めて海底を放浪し、一部がこの光り輝く土地にたどり着いたと言うのである。
「そうか、それでゼクスはここに住んどるんか。」
乙姫の話は、なおも続く。
ゼクスは一体が死ぬと、一体が生まれて数を保つ生き物だったが、海底ではそれが叶わなかったのか、今はこのゼクス一体だけになっている。
このゼクスも、老齢で動けないというのだ。
「せっかく遠い星から来たのに、気の毒じゃ。最後のゼクスが死んで、この世から消えてしまうんか。」
だいぶ意味が分かってきたので、乙姫に笑顔が戻った。
「命を受け継いだ人間がいるので、ゼクスは本望でしょう。」
「オラ達、人間が後を継げばええ。」
「そのとおりです。ゼクスは子孫に知恵や創造力という、この星の動物にない特異な能力を残しました。きっと人間は立派に後を継ぎ、長く命を繋いでゆくでしょう。」
「そうじゃ。そのとおりじゃ。」
だから人間は、他の動物より賢いのか……。話を聞くうちに、ゼクスが本当に先祖の気がしてきた。
「ゼクスは、古くからこの星にいる生き物たちに、敬意をもって接するよう望んでおります。それはこの星に断りもなく棲み付いたからで、人間の祖先ゼクスは、侵入者だからです。」
文字が読めず計算も苦手だが、不思議に話の内容は分かる。
「古くからこの星にいる生き物に、敬意をもってか……。魚や昆布は食べ物で、蚊やアブは血を吸うし、毛虫は気持ち悪い。意志何とやらで話ができないのに、生き物とどう仲良くするんじゃ。」
ゼクスの望みと言う、他の生き物への敬意に合点がいかないまま、乙姫と別れた後、腕を組んで中庭を歩く。
人間がゼクスの子孫なら、どうして龍から父を守ってくれなかったのか。
凄い能力があるのに、なぜ龍を退治しなかったのか、疑問が噴出する。
すると頭の中でゼクスの声がした。
「太郎様の疑問は当然です。残念ながら龍は私の手に負えませんでしたので、お許しください。生き物への敬意も、悩まないでください。この星は強い生き物が弱い生き物を食する、食物連鎖で成り立っているのですから。」
また難しい話になって、頭が痛い。
「人間は、多くの生き物に恐れられています。それは人間界に独特の享楽や贅沢思想が生まれ、他の動物や植物の命を軽く扱うようになったからです。このままですと、食物連鎖で成り立っている大地や、海の秩序が崩れ、すべての生き物が滅びていきます。でも、そうなる前に元凶の人間だけを、何らかの力が滅ぼすでしょう。」
「龍の力で……か。」
「いいえ、もっと大きな力です。私はこの星の抗体が、人間を邪悪な存在として、一掃すると考えています。先住の動物や植物には、危害を加えずに。」
「何じゃと。この星がどうやって。」
「過去に、私達が滅ぼされた細菌によってかもしれません。人間がこの星に必要な存在である限り、温かく守ってくれます。でも見限った場合は、容赦しないでしょう。」
背筋にゾクッと寒気が走った。裏島の人々は漁によって生活の糧を得ている。これは人間の身勝手な行為か。
「オラ達は漁師じゃが、滅ぼされるんか。」




