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真説・うらしまの太郎  作者: 川端 茂
25/86

三-四

「おお、きれいに(うつ)って色も()いています。上空からの景色(けしき)は初めてですが、これは(たし)多賀(たが)東部(とうぶ)(みさき)でしょう。音声(おんせい)は出ないのですか。」

「それは無理(むり)だが、音声(おんせい)はリュウビ様とミンクが、傍受(ぼうじゅ)している。」

 ショウは感慨(かんがい)(ぶか)げに映像(えいぞう)に見入った。これからは地上の動物たちの協力(きょうりょく)で、海底から太郎が観察(かんさつ)できる。

 今度は太郎を鏡に(うつ)すよう(たの)むと、イタチのクンクが近くにいたので、顔がはっきり(うつ)る場所まで近付(ちかづ)いてもらった。


 鏡の完成(かんせい)を聞いて、魚達が(あつ)まってきた。ショウはいい機会(きかい)だと、(みな)に太郎を見せた。

(みな)さん、これが太郎という鯛釣(たいつ)漁師(りょうし)です。よく(おぼ)えてください。そして、この太郎が漁を()めるか、鯛釣(たいつ)(じゅく)断念(だんねん)するか、あの地から姿を()す案があれば、ぜひ(おし)えてください。」

「すごい、すごい。岩に地上の様子(ようす)(うつ)るなんて。」

 魚達は太郎の姿(すがた)や、ショウの依頼(いらい)をよそに賞賛(しょうさん)する。


 リョウビに()さった(やり)がようやく抜け、弾丸(だんがん)の傷も()えてきた。

巨大(きょだい)(りゅう)化身(けしん)して傷を()ったため、(やり)弾丸(だんがん)の傷が完治(かんち)しない(かぎ)り、元の小さな鯛の姿には(もど)れないのだ。

 まだ(りゅう)姿(すがた)ではあるが、リュウビも(かがみ)の前に姿(すがた)を見せるほどまでに、回復(かいふく)を見せている。

(さかな)(たち)から、提案は()せられているのでしょうか。」

「いいえ。今までと()(あん)しか出ていません。病原(びょうげん)(きん)で太郎を病気にするとか、この海峡(かいきょう)(たい)を近付けず、鯛釣(たいつ)りを(あきら)めさせるなどです。」

(むつか)しいですね。でも時がありませんので(いそ)いでください。」


 寝処(ねどこ)でショウが目覚(めざ)めると、息子のチャコがいない。危険(きけん)海藻(かいそう)の森へ大急(おおいそぎ)ぎで行くと、途中の岩場(いわば)からチャコらしい声が()こえた。

 岩の(うら)に回ると、トポスとチャコがいた。チャコが岩に(はさ)まれて身動(みうご)きできなくなっていたところを、(とお)りかかったトポスが見つけて、岩を(のぞ)いてくれたらしい。

「動けなくて、(こわ)かった。」

 大きな(かめ)にとっては(なん)でもない岩だが、(はさ)まれた子亀(こがめ)の力では脱出(だっしゅつ)できない状態(じょうたい)だったらしい。

 ショウが(れい)を言おうと()()くと、すでにトポスは(およ)()っていた。

「ケガがなくてよかった。この(あた)りは(あぶ)ないって言っているでしょ。」

「ごめんなさい。美味(おい)しそうな()が見えたので、ちょっと(おく)へ入ろうとしたら、岩が(くず)れちゃった。」


 チャコは素直(すなお)反省(はんせい)して(あやま)ったが、ショウは災難(さいなん)(すく)ってくれたトポスに(れい)を言いそびれたことが心に(のこ)った。

 (つぎ)に会った時は寝処(ねどこ)に招いて貝を振舞(ふるま)おう。そうでもしないと感謝(かんしゃ)の気持ちが(おさ)まらない。早速(さっそく)ショウは、トポスが(この)(かい)を集め(はじ)めた。

「お母さんって、(やさ)しいんだね。」

 一緒に貝集(かいあつ)めを手伝っていたチャコが、(たの)しそうに言う。

「あなたが岩に(はさ)まれたのが原因(げんいん)ですよ。(たす)けてくれた(れい)は、ちゃんとしなくてはね。」

 長い(とき)をかけて(かい)をたっぷり集めたので、これで(れい)ができる。しばらくしてトポスに会った時、チャコを(すく)ってくれた礼に、貝をご馳走(ちそう)すると(つた)えると「礼には及ばない。」と(さそ)いを辞退(じたい)した。


「あなたは、そう言うと(おも)っていました。でも貝を一生(いっしょう)懸命(けんめい)集めたのは、息子のチャコです。ぜひ息子の気持(きも)ちを受けてください。」

 いつになく真剣(しんけん)なショウの(たの)みに、トポスは(ことわ)()れなくなった。

「じゃあ、チャコの気持ちを()けて、馳走(ちそう)になるとするか。」

 かなり強引(ごういん)ではあるが、ショウはトポスを寝処(ねどこ)(まね)いて貝を振舞(ふるま)った。無理(むり)矢理(やり)トポスを誘ったのには理由(りゆう)があった。

 今回の会議(かいぎ)は、リュウビも(りゅう)姿(すがた)参加(さんか)している。議長のショウは、真っ先に鯛漁(たいりょう)を防ぐ手段(しゅだん)として、考えてきた案を持ち()した。

「私が考えた、太郎の鯛漁(たいりょう)阻止(そし)する方法を発表します。結論(けつろん)として、太郎という人間が裏島(うらしま)()から消えるのが最良(さいりょう)です。これによって鯛釣(たいつ)(じゅく)消滅(しょうめつ)します。」


 そんなことは先刻(せんこく)承知(しょうち)。どうすればいいのかで(なや)んでいるのだと、シオンが不快(ふかい)(かん)(あら)わにした。

「そうでしょう。私はその方法(ほうほう)を見つけたのです。そして(ため)して成功(せいこう)しました。」  

 集まった(さかな)(たち)は、色めきたって()を乗り()す。

(なん)だって、早くその方法(ほうほう)を聞かせてくれないか。」

 あまりにも自信(じしん)あり()に発表するので、リュウビも現実(げんじつ)()があるに違いないと、(だま)って見守(みまも)る。

 ショウは裏島(うらしま)の浜で、チャコを危険(きけん)な目に()わせて太郎に(すく)わせ、その(れい)として海底へ招待(しょうたい)する計画(けいかく)(はな)した。

 だが(いき)のできない海の中へ(まね)(はなし)に、人間は()らないだろう。また(いわ)(すな)しかない海底に(まね)いても、太郎が(よろこ)ぶはずがない。

 (だま)って()()きを見ていたリュウビが「あくまで(わたし)(かんが)えではありますが。」と(ことわ)りを()えて発言した。


「私は、ショウさんの提案に賛成(さんせい)したいと思います。」

 地上に生息(せいそく)する多くの動物は、水の中と大気の中の(ちが)いこそあれ、生態(せいたい)行動(こうどう)魚族(ぎょぞく)と変わらない。

 だが人間という動物だけは、不可解(ふかかい)(てん)が多く、その人間が鯛族(たいぞく)魚族(ぎょぞく)未来(みらい)をおびやかしているのだ。人間と生活(せいかつ)行動(こうどう)(とも)にすれば、見えない本性(ほんしょう)弱点(じゃくてん)が見えてくる。それでこそ魚族の未来(みらい)に、有効(ゆうこう)な対策が見出(みいだ)せるはず。

 リュウビの賛成(さんせい)鯛漁(たいりょう)阻止(そし)だけでなく、人間の内面(ないめん)観察(かんさつ)することも(ふく)んでいたのだ。

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