四
三-四
「おお、きれいに映って色も付いています。上空からの景色は初めてですが、これは確か多賀東部の岬でしょう。音声は出ないのですか。」
「それは無理だが、音声はリュウビ様とミンクが、傍受している。」
ショウは感慨深げに映像に見入った。これからは地上の動物たちの協力で、海底から太郎が観察できる。
今度は太郎を鏡に映すよう頼むと、イタチのクンクが近くにいたので、顔がはっきり映る場所まで近付いてもらった。
鏡の完成を聞いて、魚達が集まってきた。ショウはいい機会だと、皆に太郎を見せた。
「皆さん、これが太郎という鯛釣り漁師です。よく覚えてください。そして、この太郎が漁を辞めるか、鯛釣り塾を断念するか、あの地から姿を消す案があれば、ぜひ教えてください。」
「すごい、すごい。岩に地上の様子が映るなんて。」
魚達は太郎の姿や、ショウの依頼をよそに賞賛する。
リョウビに刺さった槍がようやく抜け、弾丸の傷も癒えてきた。
巨大な龍に化身して傷を負ったため、槍と弾丸の傷が完治しない限り、元の小さな鯛の姿には戻れないのだ。
まだ龍の姿ではあるが、リュウビも鏡の前に姿を見せるほどまでに、回復を見せている。
「魚達から、提案は寄せられているのでしょうか。」
「いいえ。今までと似た案しか出ていません。病原菌で太郎を病気にするとか、この海峡に鯛を近付けず、鯛釣りを諦めさせるなどです。」
「難しいですね。でも時がありませんので急いでください。」
寝処でショウが目覚めると、息子のチャコがいない。危険な海藻の森へ大急ぎで行くと、途中の岩場からチャコらしい声が聞こえた。
岩の裏に回ると、トポスとチャコがいた。チャコが岩に挟まれて身動きできなくなっていたところを、通りかかったトポスが見つけて、岩を除いてくれたらしい。
「動けなくて、恐かった。」
大きな亀にとっては何でもない岩だが、挟まれた子亀の力では脱出できない状態だったらしい。
ショウが礼を言おうと振り向くと、すでにトポスは泳ぎ去っていた。
「ケガがなくてよかった。この辺りは危ないって言っているでしょ。」
「ごめんなさい。美味しそうな藻が見えたので、ちょっと奥へ入ろうとしたら、岩が崩れちゃった。」
チャコは素直に反省して謝ったが、ショウは災難を救ってくれたトポスに礼を言いそびれたことが心に残った。
次に会った時は寝処に招いて貝を振舞おう。そうでもしないと感謝の気持ちが収まらない。早速ショウは、トポスが好む貝を集め始めた。
「お母さんって、優しいんだね。」
一緒に貝集めを手伝っていたチャコが、楽しそうに言う。
「あなたが岩に挟まれたのが原因ですよ。助けてくれた礼は、ちゃんとしなくてはね。」
長い時をかけて貝をたっぷり集めたので、これで礼ができる。しばらくしてトポスに会った時、チャコを救ってくれた礼に、貝をご馳走すると伝えると「礼には及ばない。」と誘いを辞退した。
「あなたは、そう言うと思っていました。でも貝を一生懸命集めたのは、息子のチャコです。ぜひ息子の気持ちを受けてください。」
いつになく真剣なショウの頼みに、トポスは断り切れなくなった。
「じゃあ、チャコの気持ちを受けて、馳走になるとするか。」
かなり強引ではあるが、ショウはトポスを寝処に招いて貝を振舞った。無理矢理トポスを誘ったのには理由があった。
今回の会議は、リュウビも龍の姿で参加している。議長のショウは、真っ先に鯛漁を防ぐ手段として、考えてきた案を持ち出した。
「私が考えた、太郎の鯛漁を阻止する方法を発表します。結論として、太郎という人間が裏島の地から消えるのが最良です。これによって鯛釣り塾も消滅します。」
そんなことは先刻承知。どうすればいいのかで悩んでいるのだと、シオンが不快感を露わにした。
「そうでしょう。私はその方法を見つけたのです。そして試して成功しました。」
集まった魚達は、色めきたって身を乗り出す。
「何だって、早くその方法を聞かせてくれないか。」
あまりにも自信あり気に発表するので、リュウビも現実味があるに違いないと、黙って見守る。
ショウは裏島の浜で、チャコを危険な目に遭わせて太郎に救わせ、その礼として海底へ招待する計画を話した。
だが息のできない海の中へ招く話に、人間は乗らないだろう。また岩と砂しかない海底に招いても、太郎が喜ぶはずがない。
黙って成り行きを見ていたリュウビが「あくまで私の考えではありますが。」と断りを添えて発言した。
「私は、ショウさんの提案に賛成したいと思います。」
地上に生息する多くの動物は、水の中と大気の中の違いこそあれ、生態も行動も魚族と変わらない。
だが人間という動物だけは、不可解な点が多く、その人間が鯛族や魚族の未来をおびやかしているのだ。人間と生活や行動を共にすれば、見えない本性や弱点が見えてくる。それでこそ魚族の未来に、有効な対策が見出せるはず。
リュウビの賛成は鯛漁阻止だけでなく、人間の内面を観察することも含んでいたのだ。




