三
三-三
五年後、大人になった太郎を襲ったが、臆病なはずの太郎に槍と鉄砲で抵抗され、逆に深い傷を負った。
万作が差江の領主から、鯛百尾の注文を受けた時、海を大荒れにして出漁を妨害したが、まんまと出し抜かれた。人間は知恵という能力があり、巧みに予想を裏切るようになっている。
「私が海上に出る度に、人間は強力な武器を作り、また我々を騙す仕掛けまで身に付ける。もう威嚇の時代ではなくなりましたね。」
「人間には新手を打たねばなりません。次の議会では、人間の漁師対策も議題に乗せましょう。」
ショウを議長とした、魚族の議会が開かれた。ヒラメのシオンや霊感能力があるアンコウのミンク、タコのトポスも参加している。
「人間の漁を止めねばならない。舟や道具が良くなり、漁師の数も増えて犠牲になる魚が増す一方だ。これを阻止する策を早急に考えよう。」
「リュウビ様が化身した龍は巨大なので、それに対抗する武器を作らせてしまった。サメに化身したらどうだろう。」
多くの魚は賛成したが、人間がサメを敵と見なし、罪のないサメ族の虐殺や捕獲に躍起になるだろうと、ショウはこの意見を退けた。
「我々を襲うのは深海ザメだけで、全てのサメ族ではありません。リュウビ様は全てのサメを悪者にしないでしょう。」
「いいではないか。サメが人間に滅ぼされたら一石二鳥だ。」
シオンも、人間とサメを敵対させることに賛成だ。タコのトポスはショウの考えに賛同し、尊敬するリュウビの言葉を持ち出した。
「リュウビ様は、物事は戦いで解決しないと言われている。なぜなら敵対する者同士が、次々に対抗戦力を身に付けるので、両者が滅び切るまで戦いが繰り返されるからだ。」
でもトポスが言うように、戦わずして人間の漁を阻止する妙案が、果たしてあるだろうか。
「人間と仲良くせよとでも言うのか、そりゃ無理だ。あの理不尽で凶暴な生き物は、倒すしかない。」
シオンが呆れ顔でつぶやいた。どの魚も、それを後押しする。
「仲良くしようとは言いません。でもこの際です、戦いを外した策を考えましょう。きっとあるはずです。」
難しいとは思いながら、ショウは魚達への説得を繰り返す。
平原にそびえる岩を囲み、魚たちの議論は続いたが、決定的な案が出ない。
ショウが閉会すべきと考えた時、タコのトポスがひとつの提案を出した。
「この議案は漁全体の阻止だが、まず鯛漁の阻止が優先だろう。問題の鯛漁師を特定して考えたら、何か方法が見つかるかもしれないぞ。」
「そうだ、鯛漁師に絞って考えよう。」
魚の中から賛同の声が上がる。
「だとすると、標的は誰だ。」
ようやく意見がまとまってきた。この海峡で暁鯛を多く釣り、漁仲間まで増やそうとしている人間がいる。
「ショウさん、トポスさん、標的は太郎という漁師でしょう。リュウビ様も太郎を警戒していますし、この前は酷い目に合っていますから。」
「もちろん、そうです。」
カニのシンカは人間に命を助けられたことがあり、凶暴と恐れられている人間にも、優しい心があると感じている。
少し前、不注意で浜に干してあった投網に足が絡まり、夏の熱い日だったので死ぬ寸前だった。だが人間が網から外して海へ戻してくれた。その人間が太郎だった。
微笑んで「もう大丈夫、気をつけろよ。」と言われたように感じた。この優しさが忘れられないシンカは、人間の漁が悪意の行動ではないと考えている。
「太郎という人間の、優しさを利用したらどうでしょう。何らかの方法で漁師を辞めるか、鯛釣り塾を断念する。あの裏島から消え去るなど、漁をさせない策を打てばいいのでは。」
「優しさを利用して……漁をさせない策……ですか、さてどうやって……。」
リュウビの言う、戦わない対策案が出てきたことで、ショウは大きな前進だと満足した。
これからは太郎をよく調査して、シンカの言う太郎が漁師を辞めるか、裏島からいなくなる具体案を出すよう指示して閉会した。ショウはこの懸案を、リュウビに報告した。
「いい提案ですね。ぜひ皆さんで意見を出し合い、まずは鯛族を救ってください。これは必ず、魚族全体の未来につながります。」
リュウビはこの提案を実現するため、卓越した能力を持つゼクスという生き物の力を借り、平原の大岩に、人間界を映し出す鏡を設置すると約束した。
ゼクスとは、一千万年前に遠い星から飛来した生命体の生き残りである。縁あって、この海域の平安を保つリュウビを助けている。
鏡が設置されれば、イタチのクンクと土ネズミのコロが地上から、カモメのジョイが空から、夜間はフクロウのジータが人間の行動を偵察し、その映像をミンクが受けて、鏡に映す仕組みだ。海底は、にわかに活気付く。
さっそくトポスを棟梁とする大工のタコが工事を始め、まもなく一丈角(約三m)はある鏡が完成した。試しにカモメのジョイが見ている景色を受け、鏡に映してみる。




