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真説・うらしまの太郎  作者: 川端 茂
24/86

三-三

 五年(ごねん)()大人(おとな)になった太郎を(おそ)ったが、臆病(おくびょう)なはずの太郎に(やり)鉄砲(てっぽう)抵抗(ていこう)され、(ぎゃく)に深い傷を()った。

 万作(まんさく)差江(さえ)領主(りょうしゅ)から、(たい)百尾(ひゃくび)注文(ちゅうもん)を受けた時、海を大荒(おおあ)れにして出漁(しゅつりょう)妨害(ぼうがい)したが、まんまと出し()かれた。人間は知恵(ちえ)という能力(のうりょく)があり、巧みに予想(よそう)裏切(うらぎ)るようになっている。

「私が海上(かいじょう)に出る(たび)に、人間は強力な武器(ぶき)を作り、また我々を(だま)仕掛(しか)けまで身に付ける。もう威嚇(いかく)時代(じだい)ではなくなりましたね。」


「人間には新手(あらて)を打たねばなりません。次の議会(ぎかい)では、人間(にんげん)漁師(りょうし)対策(たいさく)議題(ぎだい)に乗せましょう。」

 ショウを議長(ぎちょう)とした、魚族(ぎょぞく)の議会が開かれた。ヒラメのシオンや霊感(れいかん)能力(のうりょく)があるアンコウのミンク、タコのトポスも参加(さんか)している。

「人間の漁を()めねばならない。(ふね)道具(どうぐ)が良くなり、漁師の(かず)()えて犠牲(ぎせい)になる魚が()す一方だ。これを阻止(そし)する(さく)早急(そうきゅう)に考えよう。」

「リュウビ様が化身(けしん)した龍は巨大(きょだい)なので、それに対抗する武器(ぶき)を作らせてしまった。サメに化身(けしん)したらどうだろう。」


 多くの魚は賛成(さんせい)したが、人間がサメを(てき)と見なし、(つみ)のないサメ族の虐殺(ぎゃくたい)捕獲(ほかく)躍起(やっき)になるだろうと、ショウはこの意見を退(しりぞ)けた。

「我々を襲うのは深海(しんかい)ザメだけで、(すべ)てのサメ族ではありません。リュウビ様は(すべ)てのサメを悪者(わるもの)にしないでしょう。」

「いいではないか。サメが人間に(ほろ)ぼされたら一石(いっせき)二鳥(にちょう)だ。」

 シオンも、人間とサメを敵対(てきたい)させることに賛成(さんせい)だ。タコのトポスはショウの考えに賛同(さんどう)し、尊敬(そんけい)するリュウビの言葉を()()した。

「リュウビ様は、物事(ものごと)は戦いで解決(かいけつ)しないと言われている。なぜなら敵対(てきたい)する者同士(ものどうし)が、次々に対抗(たいこう)戦力(せんりょく)を身に付けるので、両者が(ほろ)び切るまで戦いが()り返されるからだ。」


 でもトポスが言うように、(たたか)わずして人間の漁を阻止(そし)する妙案(みょう)が、果たしてあるだろうか。

「人間と仲良(なかよ)くせよとでも言うのか、そりゃ無理(むり)だ。あの理不尽(りふじん)凶暴(きょうぼう)な生き物は、(たお)すしかない。」

 シオンが(あき)(がお)でつぶやいた。どの魚も、それを後押(あとお)しする。

仲良(なかよ)くしようとは言いません。でもこの(さい)です、(たたか)いを外した(さく)を考えましょう。きっとあるはずです。」

 (むずか)しいとは思いながら、ショウは(さかな)(たち)への説得(せっとく)()り返す。

 平原(へいげん)にそびえる岩を囲み、魚たちの議論(ぎろん)(つづ)いたが、決定的(けっていてき)な案が出ない。


 ショウが閉会(へいかい)すべきと考えた時、タコのトポスがひとつの提案(ていあん)を出した。

「この議案(ぎあん)(りょう)全体(ぜんたい)阻止(そし)だが、まず鯛漁(たいりょう)阻止(そし)優先(ゆうせん)だろう。問題の(たい)漁師(りょうし)特定(とくてい)して考えたら、何か方法(ほうほう)が見つかるかもしれないぞ。」

「そうだ、(たい)漁師(りょうし)(しぼ)って考えよう。」

 魚の中から賛同(さんどう)の声が上がる。

「だとすると、標的(ひょうてき)(だれ)だ。」

 ようやく意見(いけん)がまとまってきた。この海峡(かいきょう)(あかつき)(だい)を多く釣り、(りょう)仲間(なかま)まで()やそうとしている人間がいる。

「ショウさん、トポスさん、標的(ひょうてき)は太郎という漁師(りょうし)でしょう。リュウビ様も太郎を警戒(けいかい)していますし、この前は(ひど)い目に()っていますから。」

「もちろん、そうです。」


 カニのシンカは人間に(いのち)(たす)けられたことがあり、凶暴(きょうぼう)と恐れられている人間にも、(やさ)しい心があると(かん)じている。

 少し前、不注意(ふちゅうい)で浜に()してあった投網(とあみ)に足が(から)まり、夏の(あつ)い日だったので死ぬ寸前(すんぜん)だった。だが人間が(あみ)から外して海へ(もど)してくれた。その人間が太郎だった。

 微笑(ほほ)んで「もう大丈夫、気をつけろよ。」と言われたように(かん)じた。この(やさ)しさが忘れられないシンカは、人間の漁が悪意(あくい)行動(こうどう)ではないと考えている。

「太郎という人間の、(やさ)しさを利用(りよう)したらどうでしょう。何らかの方法で漁師(りょうし)()めるか、鯛釣(たいつ)(じゅく)断念(だんねん)する。あの裏島(うらしま)から消え()るなど、漁をさせない(さく)()てばいいのでは。」


(やさ)しさを利用して……(りょう)をさせない(さく)……ですか、さてどうやって……。」

 リュウビの言う、(たたか)わない対策(たいさく)(あん)が出てきたことで、ショウは大きな前進(ぜんしん)だと満足(まんぞく)した。

 これからは太郎をよく調査(ちょうさ)して、シンカの言う太郎が漁師(りょうし)()めるか、裏島(うらしま)からいなくなる具体(ぐたい)(あん)を出すよう指示(しじ)して閉会(へいかい)した。ショウはこの懸案(けんあん)を、リュウビに報告(ほうこく)した。

「いい提案(ていあん)ですね。ぜひ皆さんで意見(いけん)を出し合い、まずは鯛族(たいぞく)(すく)ってください。これは(かなら)ず、魚族(ぎょぞく)全体(ぜんたい)未来(みらい)につながります。」

 リュウビはこの提案(ていあん)実現(じつげん)するため、卓越(たくえつ)した能力(のうりょく)を持つゼクスという生き物の力を()り、平原の大岩(おおいわ)に、人間界(にんげんかい)(うつ)し出す鏡を設置(せっち)すると約束(やくそく)した。


 ゼクスとは、一千(いっせん)万年(まんねん)(まえ)に遠い(ほし)から飛来(ひらい)した生命体(せいめいたい)()(のこ)りである。(えん)あって、この海域(かいいき)の平安を(たも)つリュウビを助けている。

 鏡が設置(せっち)されれば、イタチのクンクと土ネズミのコロが地上から、カモメのジョイが空から、夜間(やかん)はフクロウのジータが人間の行動(こうどう)偵察(ていさつ)し、その映像(えいぞう)をミンクが受けて、鏡に(うつ)仕組(しく)みだ。海底は、にわかに活気付(かっきづ)く。

 さっそくトポスを棟梁(とうりょう)とする大工(だいく)のタコが工事(こうじ)を始め、まもなく一丈(いちじょう)(かく)(約三m)はある鏡が完成(かんせい)した。試しにカモメのジョイが見ている景色(けしき)を受け、鏡に(うつ)してみる。

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