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真説・うらしまの太郎  作者: 川端 茂
23/86

三-二

()ったらあかん、あかんっちゃ。」

 (かみ)を振り(みだ)し、目を引きつらせて(さけ)ぶ音根を、万作が後方(こうほう)から()きかかえて樽から(はな)し、(つと)めて(やさ)しい声で(さと)す。

「もう(かあ)ちゃんを、静かに()かせてあげなされ。」

 村の(しゅう)が集まってきた。朝日はまだ顔を出していない。法衣(ほうい)姿(すがた)の万作と弥助が(たる)の上で線香(せんこう)(くゆ)らせ、念仏(ねんぶつ)(とな)え始めた。皆は神妙(しんみょう)な顔で合掌(がっしょう)し、(こうべ)()れている。念仏(ねんぶつ)が終わり、樽を(しば)った縄に(ふと)く長い(ぼう)が差し()まれた。


 万作に先頭(せんとう)を担ぐよう指示(しじ)され、(おとこ)(しゅう)六人(ろくにん)(かつ)いだ。小さく声を()け合って(おか)をゆっくり上がる。(かつ)いだ棒が右肩(みぎかた)に食い()み、お佐夜(さよ)の声が()こえた()がした。

音根(おとね)(たの)みます。」

 炭焼(すみやき)小屋(ごや)の東側に、大きな(あな)()られていた。村の(しゅう)徹夜(てつや)()ってくれたらしい。

 (かつ)いだ男衆に三人(さんにん)が加わって(たる)(あな)(しず)める。樽が(おさ)まると、参列(さんれつ)人達(ひとたち)交代(こうたい)(くわ)を持ち、土を(かぶ)せていく。


 その間、万作と弥助の念仏(ねんぶつ)(つづ)いた。順番(じゅんばん)が来て(くわ)手渡(てわた)され、ひと(すく)いの土を()ける。

---これでもう、おばさんとは()えんのじゃ。 

 土を()け終わると、(いのしし)よけの大きな(いし)が乗せられ、(はか)完成(かんせい)した。

 音根は(たる)()められる(あいだ)、ずっと下を()いていた。

「さあ音根、(かあ)ちゃんに水をあげなさい。旅の途中(とちゅう)(のど)(かわ)かんようにな。」

 (ふる)える手で(おけ)杓子(しゃくし)を受け取った音根は、(はか)の前に正座(せいざ)し、しばらく動かない。丁重(ていちょう)な見送りの儀式(ぎしき)、村の(しゅう)(あたた)かい心に()れて、(あふ)れる涙を懸命(けんめい)()さえているに(ちが)いない。


天国(てんごく)で幸せになってね、(かあ)ちゃん。」

 小さな声で(かた)りかけながら何度(なんど)何度(なんど)も、墓石(はかいし)に水を()ける小さな背に、万作(まんさく)が話しかける。

「お佐夜さんは(ほとけ)(さま)になりなさった。これからは(はか)に手を合わせて話しかけなさい。きっと、おぬしを(まも)ってくれるじゃろう。」

 翌日の朝、音根の希望(きぼう)で丘の(あが)(ぐち)に、(くり)の木の(なえ)()えた。この苗木(なえき)を母の分身(ぶんしん)と思って、世話(せわ)したいと言う。

 それからの音根は、雨の日も()かさず栗の苗木(なえき)に声をかけ、(はか)と周囲を掃除(そうじ)して()の花を(そな)えた。


 場面(ばめん)()わって、ここは(ふか)い海の底。

 ()の光が届かない暗黒(あんこく)の海を、さらに下った海底(かいてい)()(しげ)海藻(かいそう)海木(かいぼく)(かく)れるように、直径(しょっけい)二里(にり)(約八km)ほどの砂の平原(へいげん)が広がっている。

 この一帯(この)太古(たいこ)に落下した隕石(いんせき)不思議(ふしぎ)な作用で、(すな)(いわ)発光(はっこう)して明るい。

 広大(こうだい)な平原は大小(だいしょう)(さかな)が群れを形成(けいせい)し、キラキラ輝きながら交差(こうさ)したり、(はな)れたり。色とりどりの魚達が(えん)じる、あたかも万華鏡(まんげきょう)世界(せかい)だ。


 行き()(さかな)(たち)眺望(ちょうぼう)できる平原の片隅(かたすみ)に、長さ一丁(いっちょう)(約百m)ある龍が(よこ)たわっている。龍の(まわ)りには(たい)やヒラメ、タコなどが()れを()していて(さわ)がしい。

 (りゅう)のアゴの下には一本の(やり)()さり、タコが()()る作業をしている。耳の横には弾丸(だんがん)貫通(かんつう)した傷跡(きずあと)もあり、アンコウが治療(ちりょう)している。じっと横たわる(りゅう)は、金色(きんいろ)()を時々(ひら)き、鯛や亀と話している。

「この(やり)()が抜けるまで、まだ少々のご辛抱(しんぼう)必要(ひつよう)ですね、リュウビ様。」

「ああ、面倒(めんどう)をかけます。」


 今から五百(ごひゃく)(ねん)ほど前、海峡(かいきょう)周辺(しゅうへん)の地上に直立(ちょくりつ)歩行(ほこう)奇怪(きかい)な動物が集団(しゅうだん)()み付くようになった。カモメのジョイによると、それは人間という新種(しんしゅ)の動物らしい。

 (いちじる)しい雑食(ざっしょく)の人間は、木の()や動物の(にく)()()らず、川魚(かわざかな)まで(えさ)にする貪欲(どんよく)な動物だ。最近は(ふね)という()(もの)(おき)()り出し、海の魚まで(ねら)うようになってきた。

 リュウビは海魚の捕獲(ほかく)阻止(そし)しようと、幾度(いくど)巨大(きょだい)イカや(りゅう)化身(けしん)して、漁師を(おど)かしたり()らしめてきた。以前はその姿(すがた)を見るだけで漁を断念(だんねん)していたが、最近(さいきん)武器(ぶき)を手にして抵抗(ていこう)するまでになっている。


 (りゅう)の姿で(おそ)った今回(こんかい)は、(やり)鉄砲(てっぽう)で深い傷を()わされた。さらに()()ちを掛けて爆雷(ばくらい)まで投げ()まれ、人間がますます手に()えなくなってきたのだ。

「もう私の化身(けしん)では、人間の漁を(おさ)えることが出来(でき)なくなっています。でも、このまま野放(のばな)しにしていると、鯛族(たいぞく)どころか魚族(ぎょぞく)全体(ぜんたい)の未来は(あや)ういでしょう。」

 (おお)海亀(うみがめ)のショウは、陸上の人間界(にんげんかい)(のぞ)き見ているが、裏島の太郎という若い漁師(りょうし)(あかつき)(だい)大量(たいりょう)()るので、()になっていた。


「太郎は鯛釣(たいつ)(じゅく)というもので仲間(なかま)を増やし、もっと漁獲(ぎょかく)(りょう)を増やそうと(かんが)えています。これは危険(きけん)です。何としても阻止(そし)しなければ。」

「そうですね。太郎一人でも困っているのに、優秀(ゆうしゅう)鯛漁師(たいりょうし)大勢(おおぜい)(そだ)てば、大問題(だいもんだい)です。」

 空からの偵察(ていさつ)(たい)、カモメのジョイから受けた最新(さいしん)情報(じょうほう)では、(じゅく)準備(じゅんび)は着々と(すす)んでいるという。


今思(いまおも)うと太郎の父を(おそ)った時、見逃(みのが)したのが失策(しっさく)だったのです。」

 リュウビのため(いき)に、ヒラメの長老(ちょうろう)シオンが、やんわり否定(ひてい)した。

「いいえ、あの時のリュウビ様は(ただ)しかったのです。(りゅう)直面(ちょくめん)した幼い少年は、漁師の道を()ざすだけでなく、その恐怖(きょうふ)(ほか)の漁師にも(つた)えます。リュウビ様でなくても、(さく)として見逃(みのが)したでしょう。」

 太郎は、すぐ間近(まぢか)に見た(りゅう)(おそ)ろしさと、父が()われた無念(むねん)を漁師に話す。これで多くの漁師が断念(だんねん)すると考え、気を(うしな)った太郎と(ふね)(はま)まで(もど)した。だが(おさな)い太郎の(はなし)は誰も(しん)じなかった。

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