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傘の夢  作者: つばきハル
9/10

9.最後の瞬間

金曜日、僕の学校生活最後の日を迎えた。

「おはよう。雨上がってよかったね。」

未実さんは、何かが吹っ切れたのか、いつもの明るさが少し戻った気がした。

「おはよう」

僕が返すと、自然に隣にきて、

「行こっか。」

と、言われた。あいあい傘をして以来、それ以外の時の2人の距離も少しだけ近くなれた気がした。

「あんなに雨降ったのに、空はすっごくキレイだね。」

未実さんは、無邪気に話しながら歩いていく。

「うん。」

僕のそっけない返事に、

「どうしたの?あ、今日、最後だっけ?」

と、聞いてきた。

「実はたぶん明日までなんだ。」

と、僕が言うと、

「そうなの?なら、明日も一緒にいようよ。」

と、提案してくれた。

「でも、明日いつ消えちゃうかわからないからさ、僕も怖いし、未実さんには、申し訳なさすぎて…。」

と、僕が俯きながら言うと、

「ううん。それなら、もしかしたら最後の時まで一緒に居られるんじゃない?私はちょっと寂しいけど、それも幸せかなって思って。」

と、言ってくれた。結局、何もない予定だった明日は、未実さんと一緒に、映画を見に行くことに。すごく楽しみになった。


さて、昼休み。昨日約束していた手紙を渡した。と、言っても、僕は掃除の時間に、未実さんは僕がいない間にこっそり机の中に入れるという方法で渡したから、何のドキドキもなかった。そして、昼からの授業中、教科書の裏に隠して手紙を読んだ。字が汚い僕に比べたら、すごくきれいな字だった。すぐに返事を書こうと思ったけど、さすがに必要のないことを書いていたら目立ってしまうので、やめておいた。


次の日、いつもの待ち合わせの場所に行くと、私服の未実さんが待っていた。いつか遠い昔に着ていた、ピンクのワンピースだ。

「私服、初めて見た。」

僕が言うと、

「私服が、じゃなくて、この服着てるのが珍しいんだよ。だってうちにも何度か来てるわけだし、制服以外も普通に見てるでしょ?」

と、突っ込まれた。

「そっか。そうだね。」

と、言うと、

「映画館ね、ちょっと歩くかバス乗るかなんだけど、どっちがいい?」

と、言われた。

「歩くか。」

と、僕が答えたら、隣に立って、腕を掴んで歩き始めた。近くにいるからか、すごいドキドキして、話せる話題が見つからなかった。映画館に着くと、アニメの絵とか、なんか不気味な写真とかいろいろかけられていた。この時間にやっているものの中から未実さんが選んで、さっきポスターを見かけた、人気アニメの映画版を見ることになった。時間は昼少し前。スクリーンに行く途中には、甘い匂いがする店に何人も人が並んでいた。

「ポップコーン、買う?」

未実さんに言われて気づいたけど、僕はずっとその店を眺めていたみたいだ。

「なに、それ?」

僕が聞くと、

「お菓子だよ。甘いのと、しょっぱいの、どっちが好き?」

と、聞かれた。

「甘いの。」

と、僕が答えると、

「じゃあ、買いに行こう。」

と、言って店の前の列の一番後ろまで引っ張られた。

「500円になりまーす」

店員さんの言葉に答えて、未実さんがお金を出す。あ…出してもらってしまった。

「行こう。」

未実さんの言葉に、僕は、ちょっとしょんぼりしながらついていく。僕の様子を見て、

「あ、今日は私が誘ったんだし、これは私が買うから。」

と、言われてしまった。

映画を見て、少しロビーで話したら、もう帰らないといけない時間になっていた。

「これ、昨日の返事、書いたんだ。帰ったら読んで。」

僕が言うと、

「まだ時間あるなら、帰りたくないな。ここ、ショッピングセンターだし、もう少し歩きながら話そうよ。」

と、未実さんに言われた。

「でも、今帰っても夕方だよ。」

僕が言うと、

「バスがまだあるから、大丈夫だよ。水守くんと、もう少し一緒にいたいから、大丈夫じゃなくても帰らない!」

僕は、未実さんの強い言い方に驚いてしまった。でも、

「私も返事書いたの。受け取ってくれる?」

と、差し出す手は、少し震えていた。

「ありがとう。今読んでもいい?」

僕が受け取ると、小さく頷いた。読み終えて顔を上げると、目の前で待っていた彼女は、潤んだ目でこっちを見つめていた。

「私も読み終わった。こちらこそ、今まで、ありがとう。」

と、いうと、急に抱きついてきた。

「水守くん、いや、ゆうくん、私もずっと2人でいたいよ。いなくなったら寂しすぎるから。」

未実さんの言葉に、はっとした。これから辛い思いをさせてしまう。僕のわがままでここに居させてもらって、僕のお願いで付き合ってもらったのに、僕自身はなにもできないから。

「ごめん。」

としか返せない自分がいた。2人とも寂しいのは変わらない。しょんぼりしながら買い物なんてしたくないので、家路につくことになった。ゆっくり歩いて帰る。家の近くの路地まで来ても、

「いやだよ。私、お別れなんて」

さっきの未実さんの言葉が耳の中でこだましている。

「僕も、お別れなんていやだ。でも、仕方がないことなんだ。」

僕が呟くと、

「そうだよね。わがまま言ってごめん。ありがとう。今までたくさん遊んでくれて。」

未実さんも、返してくれた。

「ありがとう。これからは、僕のこと忘れていいから。」

僕が言うと、

「え?覚えてて欲しいんじゃないの?」

未実さんが不思議そうな顔をした。

「だって、僕との楽しいこと思い出したら、辛いでしょ?僕は、未実さんにたくさん夢叶えてもらったから、今度は未実さんに幸せになって欲しいから。」

僕が言うと、未実さんの頬に涙が伝った。

「忘れたら幸せ?そんなことないよ。この2週間のこと、なかったことにはしたくない。私もすっごく楽しかったもん。絶対忘れないから。」

と、強く言い切ると、うつむいて泣き出してしまった。僕は、未実さんを強く抱きしめた。僕たちを照らしていた夕日が遠くの山に沈んで、だんだんと闇が迫ってくる。夜だ。

「今日はありがとう。帰ろう。僕が家まで送るから。」

頷いた彼女も、夜の闇に沈んでいく。不安になって、どちらからともなく腕をくんだ。そのまま未実さんの家まで歩いて、玄関先で、

「今日は、また明日ねって言えないんだよね。でもさ、さっき見たら、月曜日の天気予報、雨なんだって。もし、ゆうくんが傘に戻ってても、また月曜も一緒に行けるよ。いつもの場所で待ってる。またいつか会おうね。」

と、言ってくれた未実さんに、僕は、

「そうだね。もし、未実さんに彼氏ができて、雨の日にデートする時があったら、2人の間に入れてよね。ありがとう。」

と言って、そのまま走って帰った。


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