8.あいあい傘
木曜日。まだ雨は降り続いていた。約束通り未実さんの家に寄ってから、学校に向かった。僕が傘をさして玄関先で待っていると、開けてくれたお母さんらしき人がすごく驚いていたけれど、未実さんは冷静に、
「ただのクラスメイトだから。貸してた物、返しに来ただけだし。」
と、そっけなく返していた。そして、僕を見て、
「まさか、あいあい傘するの?」
と、聞いてきた。
「う、うん。ダメかな?」
「え?い、いやじゃないけど…。じゃあ、急いで折りたたみ傘とってくる。もしまた水守くんが帰っちゃったら、私が帰りびしょ濡れになっちゃうから。」
「あ、そ、そうだね。何にも考えてなくてごめん。」
未実さんの準備が整うと、学校に向かった。どさくさに紛れてとはいえ、初めてのあいあい傘は、すごく緊張した。相手が濡れないように考えなきゃいけなくて、さらに、頭に当たらないように気をつけないといけないから。学校に近づくと、誰か知ってる人に会ったらとか心配してドキドキしていたけど、あまりそういうこともなく、無事に登校できた。そして、教室に着くと、先に来ていたらしい隅田が、
「お、水守、復活してる。どうした?、転校そうそうサボりか?」
と、声をかけてきた。僕は、
「いや、風邪引いて、熱出してただけ。」
と、答えたら、
「え?じゃあ、もう大丈夫なのかよ?」
と、急に心配顔になった。
「ああ、大丈夫だからここにいるんだよ。」
と、適当に返した。すると、未実さんが、
「昨日言ってたこと、当たってたのね。よかった。」
と、言った。そんなことを言ったら、僕らの関係がばれちゃうのに…。と思ったら案の定、隅田が、
「昨日?水守休みだったのに、吉田さん、あったのか?」
と、突っ込まれた。慌てている未実さんを見かねて僕が、
「ああ、吉田さんの家、ウチから近いからさ、昨日、連絡のプリントを届けに来てくれたんだよ。ね?」
と、未実さんに話を振る。頷く未実さんに、隅田が、
「なーんだ。そういうことか。」
と、納得して、立ち去っていった。その日の放課後も、2人で帰ることにした。こんな雨の日に傘を忘れて来る人なんてまずいない。だから、あいあい傘をしている人は少し目立つ気もしたけど、未実さんが、それでもいいと言ったので、行きと同じように、2人で並んで1本の傘に入って帰った。
「水守くんとは、明日でお別れなんだよね。やっぱり寂しいな。」
と、横から言われた。それに僕は、
「そうだね。僕が休んでたからかな?すごくあっという間だったな。」と僕がいうと、
「あ、そうだ。約束してたこと、まだ聞いてない。傘の中で、水守くん、何考えてたの?私に伝えたかったことあるって前に言ってたじゃん。」
と、言われた。
「うーん。今の表情見たら、そんなことないかなって思ったんだけど、未実さんって、雨の日きらい?なんかさ、僕が外に行く日はいつも暗い顔してたから、心配だったんだよね。」
と、言った。
「そうかな?あ、でも、昔は嫌いだったかも。だって、服とか濡れちゃうし、空も暗いから、自分の気分も暗くなるっていうか。でもさ、2人でいると、こういう楽しいこともあるんだなってなって、わくわくするんだよね。だから、今は嫌いじゃなくなったよ。」
と言って微笑んだ。
「これからも?」
僕が心配顔で聞くと、
「水守くんと別々になっちゃったら、またわかんないかな。」
と言われた。
「でも、お別れするのは、水守夕雨としての僕なんだ。傘に戻ったって、僕は僕として働き続けるし、未実さんの隣にい続けるんだよ。」
と、返すと、
「それじゃあさ、水守くんは私とお別れじゃないけど、私だけは水守くんとお別れしないといけないってことになるよね?寂しいな。」
と言われたので、少し慌てて、
「それは違うよ。僕は傘に戻るんだから、傘を大事にしてくれたら、僕を大事にしてくれてるのと同じになるんだよ。」
と言った。そしたら少し間が開いて、
「そ、そうだよね。ごめんね。変なこと言って。」
と、言われた。
「いいや、でも僕も寂しいんだ。傘に戻っちゃったら、またいつこうして話せるかわからないから。」
と、僕がいうと、笑顔を作って、
「そうだね。でも、傘に戻っても、時々話しかけてもいい?」
と聞いてきた。
「もちろんだよ。あー、なんか明日までに、僕がいたって形に残ることしたいなぁ。」
と、いうと、
「お互い、手紙を書こうよ。それで、明日の昼休みに交換しよう。」
と、提案してくれた。
「なんで放課後じゃないの?」
僕が聞くと、
「だって、最後の瞬間に渡したら、返事聞けないから。」
と、答えた。
「そっか。じゃあ、書いてくる。」
僕がいうと、
「約束だよ。じゃあ、またね。」
と言ってお別れした。こうして、気がつけば、学校で過ごせる日はあと1日になっていた。




