2.神のささやき
あの日から1ヶ月が経った。ご主人様の服は、紺色から白に変わり、外ではセミが鳴き出す季節になった。この時期に人は、とにかく暑いしか言わなくなるので、僕は少しつまらなくなってしまう。さらに、この季節は、あまり雨が降らないし、降っても短時間だから、僕の出番が極端に少ないんだ。ここ3週間ぐらい玄関から出ていない。外の景色が見たい。そんなことを考えていると、どこらから声が聞こえた。
「君の願いを叶えに来た。何を望む?」
どこから聞こえたかもわからない声が、僕に聞いてきた。
「誰ですか?」
僕も質問で返す。
「君に力を与えるものだよ。誰だと思う?」
聞き覚えのない声がまた聞いてくる。
「魔法使い?」
僕が言うと、
「神だよ。で、君の願いは?」
神?少し疑いつつも、
「ご主人様と友だちになりたい。」
素直に答えてみた。
「叶えられる願いは一つだよ。いい?」
神は言った。
「ここで僕が頷いたら、どうなるんですか?」
僕は素朴な疑問をどんどんぶつけた。
「君は、人になって、学校に通うことになる。」
いきなり聞き覚えのない単語が聞こえた。
「学校って?」
神は教えてくれた。
「君がいつも彼女を待っていた場所さ。」
なるほど。
「そのあとは?」
僕が聞くと、
「君次第さ。期限は2週間。その間は人でいられるけど、それが済んだらまたその姿に戻るんだ。」
それ以上の予言は神にもできないみたいだ。あ、でも…
「なんで急に僕にそんなことを?」
やっぱり、この神様と話していると、疑問ばかりが浮かぶ。僕の問いに神は、
「君は長い間働いてるから、ちょっとしたご褒美だよ。」
と、答えてくれた。
「なるほど。それじゃあ、お願いします。」
ちょっと怖いし、信じられないけど、お願いしてみることにした。僕の願い。それは、ご主人様と話ができたらそれでもう十分達成だ。
この日の不思議な会話のあと、僕は、夢を叶えるために動き始めた。気がつくと、自由に動けるようになった体で駆け出していた。何ヶ月も仕事で同じ場所に行き来していたからか、気づかないうちに家から学校までの道を覚えていたようなのだ。今まで眺めているだけだったご主人様と話ができる。同じ暮らしができるんだ。そう思っただけでワクワクした。出てきてはみたものの、実は行こうとした場所なんてない。学校終わりのご主人様を待って話しかけようかとも思ったけど、急に不安になったので、やめにした。知らない人に声をかけられたら、女の子は怖がるらしいし、明日、転校初日に頑張ったらいいんだと自分に言い聞かせて、我慢する。




