10.いつもの日常
そこから1日の記憶はなぜか飛んでいる。でも、朝、起きたら、少し暗い玄関が目に入って、ホッとした。
「行ってきます。」
いつもと変わらない吉田家の朝の風景に溶け込んでいる僕がいた。でも、前よりも早い時間なのに、せかせかと出て行く未実さんが、少し気になった。家の奥から、
「未実、まだ早いわよ。」
と、お母さんに言われても、
「今日は、友だちと一緒に行くって約束したんだ。遅れちゃいけないから、急いでるの。」
と行って、僕を連れて外に出た。
(僕はもうここにいるのに…)
そう思っていると、未実さんは、
「ここでしばらく待ってて、おはよう。って言っても、誰も返してくれないのよね。」
と、寂しそう。でも、ふと上を見上げて、笑顔が戻った。視線の先を見ると、カーブミラーに映る未実さんの横には、僕の姿があった。
「ゆうくん、私、2人の写真、撮ってなかったから、今、ここの写真残してもいい?」
と言って、スマホを取り出して、満面の笑みを浮かべた。
「よかった。帰ってこれたんだね。これからもよろしくね。」
未実さんには、僕の姿が見えているみたいだ。写真を撮り終えて、スマホの時計を見て、
「あ、遅刻しちゃう。」
と慌てて通学路を走って行った。なんとか間に合った未実さんが下駄箱で靴を履き替えていると、向こうから、
「吉田さん。今日珍しく遅かったじゃん。」
と、隅田に声をかけられていた。
「あ、隅田くん、おはよう。間に合ってるよね?」
と、返していたから、隅田も、
「全然大丈夫。って、あれ?水守は?またサボり?」
と言っている。
「彼はサボったりなんかしないわよ。じゃ、先行くね。」
と言って、教室に向かって歩いて行った。
「ったく、なんだよー。」
と、つぶやいた途端、チャイムが鳴り始めた。
「あ、いけね、遅刻だ。急がねーと。」
と言って廊下を走って行った。月曜日、僕の、水守夕雨がいない、今までの日常が、当たり前のように戻ってきていた。
おしまい。




