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傘の夢  作者: つばきハル
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1.出会い

朝、眩しさに目を開けると、外はどしゃ降りの雨だった。黒い雲が垂れ込めて暗い町並みを、時折稲妻が照らしている。こんな日もいつものように玄関先で仕事を待っている僕は、玄関の戸で見えない外の世界を想像しながら、出かけていくご主人様のことを観察している。僕が来たばかりの頃は、キャラクターの絵がプリントされた服を着て、四角い箱のようなものを背負って毎日出かけて行ったご主人様も、最近は、紺色一色に身を包んで少しお姉さんっぽくなった感じがする。


今日はご主人様の誕生日。僕が彼女に出会ってから4年が経つということになる。ご主人様の未実ちゃんの誕生日はお祝いするのに、僕が来た日だなんて、もう覚えているのはご主人様しかいないみたいだ。ああ、また今年も僕たちの記念日は雨だった。梅雨の真っ只中に当たる6月2日は、めったに晴れることがない。実際、僕がここに来てから、雨じゃなかったのは1回だけだった。と、いうわけで、今日も仕事に出ることになる。未実さんが出てくるのを待っていると、

「急がなきゃ、遅れちゃう。」

慌てて靴を履きながらこっちに来た。ご主人様の、

「行ってきます」

の声とともに、外へと飛び出した。雨の日だけ出られる外の景色は新鮮で楽しい。でも、僕のワクワクとは裏腹に、隣では、暗い顔で空を見つめるご主人様の顔があった。

「どうしたの?」「嫌なことがあったの?」

聞いてみたい。でも、僕の声は、ご主人様には届かない。僕が仕事をしているときは、いつもこんな感じだ。雨には、人を落ち込ませる呪いでもかかっているのかな。僕が魔法使いなら、そんな呪い、消してしまうのに。


目的地に着いた。

「あー、靴下、濡れちゃったよ。」

ご主人様が呟いている。車が隣を走り去った時にはねた泥がついたのか、少し色が違う場所がいくつもあった。

「おはよう」

声をかけられたご主人様は、同じ服を着た人と話しながら去って行った。

ご主人様と別れたら、僕のしばらくの休憩時間だ。ここにいると、家の玄関とは違うものがたくさんある。僕の隣には、ご主人様の背よりも大きな箱が置いてあって、たくさんの人が同じような靴を入れているのだ。そして、しばらくすると、大きな音がして、その瞬間から、ピタリと人が来なくなるのだ。もう何度もここにきたけど、毎回そうなのだ。それから9回大きな音が聞こえたら、僕たちの周りも少し賑やかになる。壁にくっついた木の板に貼られた紙を見ているのだろう。女の人が数人で連れ立ってきていた。この木の板も、来るたびに紙の色や位置が少しずつ変わっていくのだ。僕は何が書いてあるかはわからないけど、鮮やかな色の絵が書いてある時もあれば、ただの白い紙にたくさん字が並んでいる時もある。今日は、僕から見える位置には何もない。少し向こうの陰に何かあるのかもしれない。さて、もうしばらくすると、また僕の静かな時間が訪れる。僕には、これぐらいの時間から、外を眺める癖がある。と、言っても、扉越しに咲いている花を観察するぐらいだ。飽きてくると、少し向こうに見える壁の向こうから聞こえる元気な声を聞く。そうこうしているうちに、たくさんの人がこっちに押し寄せてくる時間になった。いつもよりも少し早い気がする。ご主人様は…、誰かと話している。

「あー、明後日から試験だよー。初めてだし、緊張するよねー。」

と、一緒にいる人に話しかけられると、

「うんうん。試験ばっかりの日って想像しただけできついよねー」

と、話している。もうすぐこっちに来る。と、思ったら、

「吉田!」

少し向こうから叫ぶ声がした。すると、振り返ったのは、ご主人様。

「やっぱり先に行ってたんだ。まだノート返却されてないのに帰っちまったから、びっくりしたぜ。明後日の勉強、しねーのか?」

言われて驚いている2人は、その男から何かを受け取って、何事もなかったように話しながらこっちに来る。外を見ると、やっぱり雨だった。楽しそうにおしゃべりしているご主人様も、外を見て、また暗い表情になる。僕がこんなに近くにいるというのに。


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