セイレーン
彼女の歌声は美しく
聴く者すべてを惑わせる
切り立つ岩場に腰掛けて
まるでハープを奏でる様に
その長い髪を梳かして微笑む
彼女は瞳を閉じたまま
いくら船乗り達が見惚れていようと
構わず美しい声で歌い続ける
「セイレーンが歌う夜は
船に乗るのをお止めなさい」
あれは恋歌 葬送歌
愛しい船乗り待ち焦がれる歌
二度と戻らぬその人を
悲しみ込めて愛す歌
セイレーンは岩場に独り
長く編んだ髪が風に揺れる
「あの歌を聴いてはいけないよ」
幼い頃から言い聞かされて
船乗り達は知っている
けれど彼女の歌声は
夜霧の中を彷徨う様に
耳を塞いでも聞こえてくる
「愛しい貴方は今どこに?」
恋人奪った波間を覗く
彼女の涙が岩場に弾ける
愛しい船乗りは戻らない
亡霊は美しいまま
朽ちた亡骸を探し続ける