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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

毒を食べ暮らす男

作者: 千葉 佳人

この小説は「ある法則」に則って書きました。


是非、考えながら読み進めてみてください!

 朝陽が私のまぶたじ開けるようにきつく射す。

 いや、私はとっくに目が覚めていた。薄目を開いて、黒いシミが病気のように怪しく広がる天井を眺めていただけだ。


 笑顔が似合わない男だった。

 怒ったような表情で、無理矢理に笑おうとすれば泣いているみたいに思われるのだ。悲しいときだけ、しっかりと涙を流す男だった。


 気づいたときには意識が覚醒してから三十分も経過していた。苦痛に堪えるように、何かに怯えるようにゆっくりと身体を起こす。けれど、私は別にどこかを痛めている訳でも、病に罹っている訳でもなかった。心が痛みを伴ってうずくのは、朝の良い所だと思う。


 魚を焼いたような匂いが、半分ほど開いた窓から細い川のようにひっそりと流れてくる。塩が焦げたような香ばしさは起き抜けの私の腹を否応なしに刺激する。

 すぐに朝食の準備にとりかからなくては。


 洗面台で水をひと掬いして顔に掛ける。その冷たさは、まるで新品のナイフのような切れ味を誇る。確かに眠気だけを切り裂くナイフだ。

 小さな傷を鏡に見つけた。爪で思い切り擦ったような縦の傷跡。

 手を加えて、なんとかこの傷を目立たないものにしたかった私は、戸棚の上から二番目の棚から金槌を持ち出して鏡を粉々に砕いたのだった。


 トマトの缶詰めを朝食としよう。

 ならば缶切りが必要だ。日曜日の朝は缶切りを探す余裕まであるから素晴らしい。


 糠床ぬかどこの側の壁に穴が空いている。鼠が一匹、そこからぱっと飛び出すのを見た。暢気のんきに鼠の行く末を目で追っていた私は、そこであることに気付く。

 はて、先日飼い始めた猫は一体何をしているのだろう。

 ひょっとすると、どこかで怪我でもして動けずにいるのかもしれない。普段なら鼠の一匹も逃がさないほど働き者の彼女のことだ。変なことに巻き込まれていなければいいのだが。

 放っておくことなどできるわけもなく、私は狭い家の中で猫の隠れられそうな所に当たりをつけては隈無く探したが、見つからなかった。


 ますます心配は募るばかりだ。

 耳だけが白い、作り物のように美しい猫に私は最近になってようやく愛着を持って接することができるようになっていた。

 無駄なことかもしれないが、外に出て家の周りも少し探しておくとする。


 滅多に見ないような綺麗な黄色い花が小道の脇に咲いていた。もう少し眺めていたいという衝動に駆られるような、そんな狂気じみた美しさを有した花だ。


「やはり、猫が優先だ」


 ゆっくりと噛んで含めるように自分に言い聞かせた私は、その綺麗な黄色い花を、愛を込めて撫でるように、靴の裏で踏み潰した。


 世の中は、男にとって愛しい物で溢れていた。

 爛々と瞳を輝かせて鳴く近所の柴犬も、仲良く寄り添うようにして電線に止まるカラスの夫婦も、庭の片隅で列を作る蟻の群れも、何もかも。

 理由は、愛していたから。

 ルールは、壊すこと。

 玲瓏れいろうな声で歌う小鳥には石を投げつけ、愛らしかったかつての恋人は土に埋めた。

 ろくでもないほど、男の愛とは破壊することで完成する劇毒だった。


 私は、視線の先で一匹の猫が死んでいるのを見て、思い出したように朝食のために再び缶切りを探した。

読んでいただきありがとうございました。


さて、この小説の隠された法則性にお気づきになりましたか?少し簡単だったかもしれませんね。




実はこの小説の文の始めの文字に注目していただくと、「あ~わ」の五十音順になっているのでした!

「を」と「ん」を入れると無理やり感があるので断念しましたが、いかがでしたでしょうか?


少しでも楽しんでいただければ嬉しいです!

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