犬?
「遂にここまで来たか、人間よ」
地鳴りみたいに響く声だ。
ドラゴンの鱗なんだか鎧なんだか、よくわからないゴッツイもので全身を覆い、
足を組んで偉そうに座っている。
パッと見だとRPGに出てくるドラゴニュートっぽい。
ただ、いかんせんデカイ。
座っているだけなのに、俺の倍以上デカイし。
「貴様の噂は聞いているぞ。何でも、あの魔獣王ボーメランデアを倒したらしいな」
ボーメ……何だって?
ポメラニアン? 犬?
しばしの沈黙。
皆が俺を見てくる。何で見てくる?
「おい、貴様のことだろう?」
ハルームが言ってくる。
「え、俺のこと?」
「はは、そんなとぼけたフリなど。謙遜されずとも良いではないか」
ドロッドが笑いながら、俺の背中をバシバシ叩いてくる。
痛いからやめて。背骨折れるよ。
「そうですよ。あの魔獣王を傷一つ負わずに倒した勇姿、
今もこの目に焼き付いています!」
フミオノーレが目を輝かせながら言う。
「そんなこと、あったっけ?」
俺の薄い反応に、みんなポカーンとしていた。
目の前の竜のおじさんは、特に表情を変えない
え……本当に俺? 記憶にないな。
「貴様以外に誰がいると言うのだ? よもやあの魔獣王が、
魔王軍大幹部にして獣属、獣人属、魔獣属の魔物どもを統べるあの豪傑が、
記憶にも残らない相手だったとは言うまい」
いえ、言えます。はい。
と、今度は竜のおじさんが教えてくれました。
「ごめん、全然思い出せない」
竜のおじさん、さすがに今回は黙ってしまう。
いや、本当に覚えてないんですよ。
だって俺、魔王がどうたらより、気になることがあるから。
それに、無傷で勝ったって、ある理由があったからだし。
今まで、ずっと。
なので、凄くも何でもないんですよ。
「余裕なのか、それともバカを演じてるだけか……食えんやつだ」
バカは失礼だぞ、おっさん。
「タケマルさんの敵は魔王ただ一人。
そんな配下のペーペーなんて、初めから相手になるわけ無いじゃないですか」
フミオノーレが得意げに挑発じみたことを言う。
よそうよ、いきなり真の力出されたら面倒じゃん。
いや、むしろ俺にとっては好都合か?