気にしない、気にしない
「これまでも、これからも、起こることは全て、
タケマルさんの伝説として語り継がれるものなのです。
英雄譚として、この世界の歴史に燦然と輝くものとして、
描かれていくべきものなのですよ。
そして、それこそが、多くの民に希望を与えるものだというのに……
この邪神ふぜいが……」
「だって~一人前の邪神になるには……」
グジュ!
ヴルデュイユの後頭部に突き刺さった杖をグリグリするフミオラ。
「今のあなたは何なのか、言ってごらんなさい」
「ですから、邪神見習いの……」
グジュッ! ブシュッ! グチャッ!
「何なのか……言って……ごらんなさい?」
「貴方様の使い魔ふぜいです……」
折れたヴルデュイユ。
ついでに頭と首も折れている。
さすがにエグい。
さて、目の前の惨劇は気にしないことにして。
そのとき、俺の袖がクイクイ、と引っ張られた。
「あ、あの……タケマルさんのご活躍は、私がしっかりと記録しますので……
その……頑張ってください」
尼僧服に身を包み、遠慮がちに言ってくる女の子。
皮と羊皮紙でできた分厚い本を胸に抱える姿は愛らしい。
異世界に来て得た唯一の癒し。
筆記者のカミナ。
「カミナ、安全な所にいるんだよ。いいね?」
そういう俺に「はい」と可愛く返事して皆の後ろに移動するカミナ。
「わ……私にもご慈悲を……」
すがる様に手を伸ばしてくるヴルデュイユ。
その手を踏みつけ、踵でグリグリするフミオノーレ。
気にしない、気にしない。
「そんなことより、熱いからとっとと行くぞ」
俺は猛炎の魔城最上部、ガオンの間のデカい扉を押し開いた。