町人A
「真の救世主は、そういうの求めない!」
苦し紛れの一言。
もう相手の話に乗るしかない。それしか思いつかない。
取りあえず乗っとけば、その場のノリで引き下がってくれるかも。
俺がハッキリ言うと、フミオノーレはピタッと歩みを止めた。
「……わりました」
彼女はそれだけ言って、ローブを羽織り出した。
おや? あっさり引き下がってくれたな。
話に乗るのが良かったか?
にしても、三次元女子見てもドキドキしなかったな。
ドギマギはしたけど。
やっぱり嫁のティターニアじゃないとね。
「そこの、タケマル様に早くお召し物を持ってきなさい」
フミオノーレがヴルデュユに命令する。
おや……今回は杖での制裁は無しか。
いや、それが普通なんですけどね。
「それとさ、その様付けるの止めてくれない?」
「なぜですか? 救世主様をお呼びするのに当然のことだと……」
「いや、さっきも言ったけど、俺、別にそんな風に呼ばれるほどの人間じゃないし」
しばしの沈黙。
フミオノーレは黙ったまま俺を見ている。
あれ、なんか変なこと言った?
「どうぞ~これを着てくださいね~」
ヴルデュユが服を持ってくる。
俺はいそいそとその服を着るが、
その間にも、フミオノーレは俺を黙ったまま見ていた。
あの……恥ずかしいんで、そんな見ないでください。
まるでRPGの町人Aみたいな普通の服だ。
着終わるまで気付かなかったけど、
この服、普段俺が来てる服より大分小さい。
でも、難なく着れた。
何で?
服をめくって体を見てみる。
うそ……腹筋が割れてる……。
三段腹にもならないほど腹が出ていたはずなのに……。
それだけじゃないみたいだ。
腕とか胸元とか色々触ってみるけど、
どこもいつもと感触が違う。
ブヨブヨではなく、ガッチリしている。
一言で言えば痩せマッチョ体系。
何で? まさか俺、改造された?
そんな不思議そうにしている俺を、フミオノーレはまだ見ていた。
いや、そろそろ怖いっす。