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どうか許して、愛しい人
『――災厄がやってくる』
チリン、と鈴の音を響かせ、艶やかな衣を身につけた人影はそう独りごちた。
『妾達の代の悪しき物が、今生に降り注いでしまう…』
語り口から察するに女性だろうか。
なにかに堪えるように顔を歪めた彼女は立ち上がり、衣の裾を引きずりながらたどり着いた大きな鏡に手をつく。
豪華な装飾がなされた鏡に映るのは、静かに寝息を立てる美しい少女。
『…これも、運命であるというのか…』
苦々しく呟いた彼女は、少女に寄り添うように額を鏡に押し付けた。
サラリと流れた黒髪の隙間から見える表情には苦悶の色と、こらえきれない悲しみの色がにじむ。
『許しておくれ、妾の愛しい――』
――大好きだった。愛していた。
それでももうこの声は、そなたに届かぬというのだろうか。
彼女の懺悔は誰にも届くことなく、鈴の音だけが宙に消えた。