家畜の肉は硬い件
魔王を辞めて一ヶ月。俺は竜種を探してある国へと来ていた。
そこは竜種が度々目撃されていた。アルブ王国。それがその国の名前だ。
俺が歩いているのはアルブ王国の市街地ラッセル。随分と活気がある。
肉や魚、野菜などが売られている店の前を通ると俺の腹が悲鳴をあげる。
空腹を我慢していたのだが俺の足は一つの店の前で止まった。
「おぉぉぉ…」
俺の眼の前にはとても美味しそうなデカイ肉が売っていた。日本では見たことが無い大きさの肉だった。
「おっ?坊や、一人か?親はどうした?」
肉屋のハゲ散らかしたオッサンが俺の顔を見て疑問そうに尋ねてきたのだが、俺の腹はそんな質問に答える気は無い!とでも言うように鳴り続ける。
「少し散歩に来まして。お腹が空いたので早くそのお肉を売って欲しいのですが…。」
まだ何か聞いてきそうなオッサンに向けてギロッと睨む。訳にもいかず、ニッコリ笑顔で急かした。
「ああ。悪いな坊や。この肉は200ロッドだ。持ってるかい?」
ロッドと言うのは日本で言う円だ。あまり日本と価値観が変わらないので高いか高く無いかはすぐにわかる。
俺が買おうとしている肉は30センチくらいの肉なので200ロッドと言うのはとても安い。
俺はポケットから200ロッドをオッサンに渡した。丁度200ロッド渡したはずなのに50ロッド帰ってきた。まるでお釣りだ。とでも言うように。
「ほんの少しだけ負けといてあげよう!」
「あ、ありがとうございます!」
何という優しいオッサン!いや、おじ様なのだろうか!俺は肉屋のおじ様に感謝をしながらデカイ肉にガブリと噛り付いた。
「ーっ!硬っ!?」
脳内イメージでは噛み付いた途端に肉汁がブワッと出て柔らかい。そんな肉を想像していたのだが…。
イメージとはやはり裏切られる物なのだろうか。肉汁が出てこないどころかとても硬い。噛み切れる気がしないほどに。
「ふぬぅーっ!んんんー!!」
硬い肉との苦戦の末、ブチッという音をたて噛み切ることができた。
やっと腹に食物を入れれる…ってマズっ!?
何だこれ!クッソマズイぞ!一体何の肉を使ってるんだ!
俺はペッペッと肉を吐き捨てた。それを見て肉屋のおじ様は苦笑していた。
「やっぱりか。坊や、その肉は家畜用だぞ?腹鳴らしてるから、もしかしたら。と思ったが本当に食うとわな…!」
なら先に注意しろよ!!くっそ…家畜用の肉を美味そうな感じで売るなよなぁ…!まったくもー!
「い、いえ。知らなかったのは僕のミスですからね。」
俺は無理やり笑顔を作りながらそう答えた。するとオッサンは感心したような顔になった。
「感心だな、坊や。ところでここには何しに来たんだ?用事があったんだろ?」
「さ、散歩ですよ?」
「この肉を食べるような奴はよそ者だって証拠さ。俺も念をと言わなかったってのもあるからな、せめて道くらいは教えてやろうと思ってな。何でも聞いてくれ」
バレバレでしたか、こんちきしょうめ!でも竜種の情報を聞けるかもしれないしなぁ。
「この国で竜種を見たって噂を聞きまして。竜種に会いたいんです!」
「…悪いこたァ言わねえ。やめときな坊や。竜種は危険だ」
「それでも会いたいんです!」
ここで帰ったら何のために来たか分かりやしない!
「……はぁ。どうなっても俺は知らないぞ…この国の東側に渓谷があるだろ?そこで見かけたって奴が多い。」
俺の威圧?に負けてオッサンは教えてくれた。行ったところで会う可能性は低いってのも教えてくれた理由の一つだろう。
「ありがとうございます」
俺はニッコリと笑顔で礼を言いその足で渓谷へと向かった。
「深っ…」
日本で俺は高所恐怖症だったのだが、全然怖くなかったのだから不思議だ。
「あら?こんな所に何の用かしらぁ?」
声のした方へ振り向くと妖艶な美女が立っていた。言葉通りのボンッキュッボンッで、まさにナイスバディといったところだ。
「いえ、ちょっと探している人がいまして。」
竜種!とは言えないので少し濁したが渓谷に人なんているわけが無いだろう…
「…竜種かしら?こんな可愛らしい子まで竜種を探しにくるなんて。」
やっぱりバレバレでしたか。んー…失敗失敗。バレてしまったものは仕方ない。
「はい、少し用がありまして。」
俺は笑顔で言ったのにそれに対して美女は少し怖い顔をした。
「竜鱗目当てかしら?それとも爪?うふふふ。こんな子まで使うなんて人間もこすいわねぇ…」
何か勘違いしていらっしゃるこの美女に一応、用の内容を言っておく。
「いえ。魔力量回復のやり方を教えて欲しくて来たんです。」
美女は、俺の答えが想定外だったのか真偽を確かめるかの如く俺を眺めた。
「嘘じゃ無さそうねぇ…ねぇあなた。どうして魔力量回復がやりたいのぉ?」
俺は美女に大体のことを説明した。美女は驚いたり困った表情をしていたがそんな事は知らない。
「〜というわけなんです。だから竜種に会いたいんです!」
「うふふふ…あなた面白いわねぇ。名前は?」
何が面白いんだ。こっちは真剣なんだぞ!何て思いながら名乗る。…名乗って魔王ばれないかな…。
「サーベルト・L・アラディアです。親しい人はベルと呼びます。」
考慮の結果、省略することにしました。この世界ではこの形式が珍しく無いので問題無いだろう。
「私はカンナ・ヴァースよぉ…。カンナで良いわ。うふふふ。私は竜種よ。」
カンナか。日本にもいるような名前だな。呼びやすくて助かる。…って、え!?竜種!?
「カンナさんが竜種!?でも竜種って竜じゃ…」
どっからどう見てもカンナさんは人間なのだ。竜種と言われて信じる方がバカだろう。
「うふふ、さんはいらないわ。私は竜種の中でも上位種なの。人間の姿にでも何でもなれるわぁ。」
「な、ならカンナさ…カンナは僕に魔力量回復のやり方を教えてくださいますか?」
教えてくれないならこちらにも策がある。子供のみ使用可能、駄々をこねる!だ。あの駄々をこねなれた時の声は大人の耳を傷ませる。
「敬語もいらないわ。いいわよ、教えてあげる。その代わり”素“で話しなさい?」
え。この俺の僕っ子敬語少年作戦がバレているだとっ!!この作戦は日本にいる時に考えついた秘技だぞ…!?
「…いつからわかってました?」
「最初から、よぉ?普通に喋ってくれるなら教えてあげるわ。」
なんか意味わからない条件で俺は魔力量回復のやり方を教わった。俺はすぐに実行し魔力量を回復した。全回復まで1時間近くかかったのだが気にしない気にしない。
さて。これにて一件落着。とは行かず帰ろうとした時に渓谷で爆発が起きた。
「…何の音?」
「人間が竜の部位を狙って狩ろうとしているのよ…。私は行くわね。助けなきゃ。」
そう言いカンナは渓谷を飛び降りた。
するとカンナの背中から羽が生え爆発があった方へと飛んで行った。
こんな状況だけど一つ言わせてくれ…。
羽かっけえぇ!!!
このくらいのスピードでいいでしょうか…?早すぎず遅すぎず。位のスピードにしたいのですがイマイチ掴めない今日この頃です…(´・ω・`)