迷宮攻略が終了した件
ヴァールがやられた。あの帝国最強とまで言われた部隊の隊長を務めた男が。00部隊隊員ソシュールは戦意喪失した。
戦闘中にも関わらず体の力が抜けた。気付いたときには迷宮ボスであろう魔物が腕を振り上げてこっちを狙っていた。
これで終わりか…クソっ、つまらねえ人生だったぜ…
人生の終わりを悟りスッと目を閉じた。だがその魔物の拳はソシュールに振り下ろされることはなかった。目を開けてわかった。その魔物は振り下ろす腕がすでになかったのだ。
鈍い音を立てソシュールの後ろに腕が落ちた。何が起こったのかわからなかった。それもそうだろう。例え目を開けていても普通の人間には見えなかっただろう。
「大丈夫ですか?」
いつの間にかソシュールの前に少年が立っていた。漆黒の剣を持って。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺はダッシュで、デカブツに寄り漆黒の剣を、振り下ろそうとしている腕に添える。音もせず人参のようにストんっとデカブツの腕が切れた。
「脆いな…」
グェァアアアァアアアァアという気持ちの悪い声をあげデカブツは後ろに反り返った。
俺はふとやられかけていた隊員を見た。何が起こったのかわからない、といった感じで目をパチクリしていた。
「大丈夫ですか?」
一応聞いてみたが見たところ大丈夫そうだったので俺は返事を聞かずデカブツを切り刻むことにした。
(火纏!!)
初級魔法を発動し、漆黒の剣に火を纏う。その剣でデカブツを切りつけるとジュワッと切り口が燃える。いい香りだ。
もう一本の腕と、両足も切り落としまさに達磨のような見た目になった。デカブツには変わりはないが。
「最後は初級魔法で決めてあげるよ。喰らえ。火槍!!」
ギィアァァアァ!!!と叫びながらブワッと消えた。初級魔法でトドメを刺される迷宮ボスって一体…。
でもやっぱり初級魔法の方が精度高いなぁ…。本当にこれ初級か?中級がアレだから初級って感じがしないんたが。
なんて考えながら後ろを見ると00部隊の人達が信じられないと言った表情で俺を見ていた。
「…嘘だろ。こんな少年があの魔物を倒すだなんて。隊長もやられたのに…」
戦意喪失していた隊員は、助かった安堵とまだ小さい俺に助けられたと言うことに対して複雑な表情をしていた。
「…やるじゃねえか、ガキ。俺が止める間も無いなんてな。いや…助かった。感謝する。」
口調が悪いオッサンが素直に感謝を言ったことに俺は少し驚いた。周りもそうだったらしくその様子を見て口々に感謝を言い出した。
「いえ、ヴァールさんには悩みを解決してもらいましたし。それでは、上に戻りますか。」
俺は辺り一面を転移魔法陣で埋め尽くし、その場にいる人間を迷宮外へと放り出した。その際、ボスが消えたところに綺麗な石があったので持って帰ってきた。小さい頃、石ころとか集めたよね。あれ、俺だけ?
転移が終わり迷宮の外へと出たのだが何かを思い出したのか00部隊がザワザワしだした。
「どうかしましたか?」
「いや、頼まれていた品を持ち帰るのを忘れていてな…。もう一度迷宮に入る羽目になるかもしれん。」
なるほど。迷宮攻略ではなく迷宮にある物を取りに来た、ということだったのか。
「何を頼まれていたんですか?」
「魔石だ。この迷宮の最下層にとても高価な魔石があると言うことで我々が来たんだ。」
魔石?あの場にそんな物あったか?いや、一応罠が無いか調べたからわかる。あの場には何もなかった。
「あそこには何もありませんでしたよ?あそこにあったのはデカブツと石ころだけです。」
「石ころ?」
ふふふ。俺の石ころコレクションNo.02に興味を持ったか?いいだろう、見せてやろう。ちなみにNo.01は魔の森にあったやつだ。
「はい、これです。」
俺は石ころを手に取り隊員達に見せた。
「っ!これは…」
ふははは!俺の石コレNo.2に魅了されたか!さすが俺の石コレ。
「「「…魔石だ。」」」
口を揃えて隊員達が言った。な、なにぃ!?何てな。多分そうなのかなぁとは思ってたさ。だけどやらないからな。
そう決心したのだが、ジッと隊員達が俺を見つめてきたので耐えられなくなり魔石を渡してしまった。
行くなっ、No.2ぅぅうー!!!
と、脳内で茶番をしているとヴァールが目を覚ましたらしい。
「大丈夫ですか、ヴァールさん」
俺はすぐさま駆け寄りヴァールに尋ねた。後ろからは隊員達が駆け寄ってくる。
「…サーベルト君か。あの魔物は君が?」
「倒しました。」
「そうか…感謝するよ。サーベルト君がいなかったら我々はあのボスに殺されていただろう。」
「ベルでいいですよ。ヴァールさん。それに例え僕がいなかったとしてもヴァールさん達なら倒せてますよ。」
それは無理だろう。あのまま行けばヴァールが戦闘離脱後メンバーは壊滅。そして残ったヴァール達もやられていた。
「あのボスは我々だけじゃ無理だ。もう少し準備と人員が必要なレベルのボスだからな。」
準備と人員があれば勝てるというのだからヴァールは普通の人間の中ではトップ層だろう。
「では、今度こそ帰りますね。」
日本の時刻で言えば午後5時くらいだろうか。日が傾き空が赤色に染まっていた。あまり遅くなるとザクスのジョリジョリ攻撃がやってくる。それは何としてでも避けなければならない事案であった。
「あぁ。サーベルト…いやベル君。君は我々の命の恩人だ。君が困った時は00部隊がすぐに動こう。いや、私だけでも動く。いつでも連絡をしてくれ。帝国に連絡をくれれば直ぐに行く。」
「ありがとうございます。」
これは素直に嬉しい。でもなるべく頼らないようにしよう。俺はそう心に決めた。
「では、元気でな。本当に今回は助かった。」
「いえ、ヴァールさんもお元気で!」
最後の挨拶をしヴァール達は魔法陣で人間界に戻っていった。
さらば俺の石コレNo.2……!