バナナの皮が原因で死んだ件
俺は死んだはずだった。
いつものように気怠い朝。3月上旬でまだほんの少し肌寒い感じ。なにも変わらない普通の日常。嫌々学校に行く毎日を過ごす俺、羽崎 仁はどこにでもいる高校生だった。
だが登校中、俺は事故にあった。原因はバナナだ。…ふざけてないぞ?本当にバナナなんだ。歩道橋の階段を上っている途中にバナナの皮があった。だが俺はバカじゃない。もちろん避けるさ。汚いもんな。避けたはいいが階段を踏み外して落ちた。そして車にドーン!だ。落ちてる途中に思ったさ。
こんなバカな死因があってたまるか。せめてカッコよく死なせろ!!
ってな。誰だって思うだろ?英雄になって敵を倒す。そして名を残し死ぬ。カッコいいじゃないか。そんなことを妄想しながら死んでいった。はずだった。
ふと目を開けると真っ白な空間にいた。何もないただただ白いだけの空間。俺はそこで悟った。
(あー…これが死後の世界ってやつなの?随分殺風景だなぁ。)
つい先ほど俺はバナナの皮のせいで事故ったばかりなので死後の世界だと確信する。俺しかいない世界。何もない静かな世界。ここにずっといたら暇すぎて死んでしまうのではないかと思うくらい何もない。いや、死んだんだけどね。なんて考えていた時、背後に気配を感じた。
「やぁ!死んだ気分はどうだい。羽崎仁君?」
この静かな世界には合わないくらいの明るい声。その声の持ち主はなんと言うか空のような綺麗な髪をした14歳くらいの可愛い女の子だった。
(死んで尚こんな幻覚を見るなんて俺は何を考えてるんだろう…。)
「幻覚じゃないよ〜。まったく〜失礼だなぁもー!せっかく君にギフトをあげようと思ったのに!」
え?幻覚だろ?それにギフトってなんだ?この少女は何を言ってるんだ?俺の頭は疑問でいっぱいとなった。
「だからぁ!幻覚じゃないってばー!私はティアだよっ!一応ミレファンダ大陸で崇められてる神だよっ!!そしてギフトって言うのは君に新しい人生をあげようーってことさ!」
…幻覚じゃない?ミレファンダ大陸ってどこだよ。聞いたことすらねえよ。ちょっとアレな子なのかな。俺は優しい眼差しで少女を見つめる。
「あー!ひどいなあ!!ミレファンダ大陸はちゃんと存在するよ!今から君にも行ってもらうんだからね!」
行ってもらう?何言ってるんだ?それにギフトってどーゆーことなんだ?ダメだ頭が混乱してきた。
「そっ!行ってもらうんだよ!さっきも言ったけど君は死んだ。そして新たな地に転生してもらうよ!最後に君は願ったよね?英雄になりたい。と。」
いや、確かに言った覚えはある。てか言った。けどそーなるとは思ってないじゃないか。そもそも転生ってなんだよ。転生ってあの転生?マジかよ死ぬぞ俺。生きてける気がしない。
「はははっ、それは大丈夫だよー!そのためのギフトだもんっ。神の名に誓って君に不自由はさせないよ!それじゃあそろそろ行ってもらおうかなっ!!」
(え、まじで?夢とかじゃないの?てか転生ってこんな感じなの?いきなり飛ばされるのかと思ってた。)
それは日本のオタク文化に染まっていた俺の偏見だったらしい。
「さぁっ!最後に君に新たな地で困らないために力をあげるよ!!よーし、ちょっと奮発しちゃおーかなっ!」
俺の体が一瞬ボワッと光った。え、これで終わり?何も変わってないんだけど…。
「それじゃっ、頑張ってね!」
随分と他人事だな!とか思っているとだんだん意識が遠のいていく。
「0歳からの異世界ファイトだよっ!」
最後にそんな言葉が聞こえた気がした。そこで俺の意識は完全に途絶えた。