第六邪
グロテスクな表現がやや過分に含まれます。
リリスの持つ聖剣を奪い取る事で、俺の何かが覚醒したり、俺が勇者パワーを発現させたりするわけではない。
ではどうやって超重量の大岩を退けるか……
当然、魔王様のお力に頼るのだ!
俺が聖剣を握った瞬間、聖剣の波動が失われ、ただの剣となる。同時にリリスに施された勇者への祝福による弱体化は解除されていた。
聖剣の波動は、選ばれた者にしか発現できない。ただの人間が掴んでも何も発動しなくなるのは当然と言えるだろう。
そうすると、リリスは聖剣による魔族としての力の弱体化を解除することができるというわけだ。
聖剣の波動と入れ替わるように本来持っていた彼女のドス黒い魔力が湧き上がる。
それと同時に、目前まで迫っていた大岩の上に向けて片手を翳し、その魔力を軽く収束させる。
大岩は、手から放たれた黒い炎に纏われ、消失した。
あっという間の出来事である。
あれほどの大魔法を消し去る魔法を使っても、目減りしているとは思えない、無限にも思える魔力。
その暴力的なまでに強い瘴気を放つ圧倒的なほど強大な魔力を司る者を。
人類の敵対者にして、個にして一軍に匹敵し、全ての魔を統べる者を。
ーー人はそれを、『魔王』と呼んだ。
そして、元ある力を取り戻した、我らが魔王の顔はその邪悪さの対比も相まって、より美しく見える。
そしてその表情は……
「むぅ……」
なぜか、拗ねていた。
「助かった……が、どうしたリリス。」
「知らぬ。」
んん? なんか俺やっちまったか?
思わぬ事態に困惑する。
取り敢えず、あの凶悪な『フォールストーン』を消してはくれたので、殺されるような事にはならないと思うけれど、圧倒的に強大な魔力を発する魔王様の不機嫌な様子は怖い。
最近した、リリスが機嫌を損ねそうな俺の行動って何だ?
……色々と思い当たることがありすぎて、どれかわからんぞ。
ミスったら藪蛇になりそうだからこっちから何も言えないし。
「ガァ!」
お前は伸びてろよ。空気読め。
つか、無傷とか何なのこいつ。
割とガチで顔面殴ったのに、ダメージなしかよ。
ん? いや、殴った時に鼻血が手についていたような気もするんだが、勘違いか?
む、手にも血ぃ付いてないし、やっぱ勘違いか。
うわ、ショックだわ。ヒョロい見た目なのに、傷一つ負わせられないとか……こいつ、思った以上に頑丈なのな。
飛び起きて、長い爪を振るう不健康肌妖鬼。さっきの魔法で魔力を使い果たしたのか、唐突な肉弾戦が始まる。
俺はとりあえず、片手に持つ邪魔な聖剣を放り投げて臨戦態勢に移った。聖剣は地面に落ちる事なく、光となりリリスに戻っていく。
さて臨戦態勢に移る、とはいえ、肉弾戦は俺の十八番だ。涙をボロボロ流しながら子供のように殴りかかってくる妖鬼なんざ敵じゃない。
……そういや、昔は俺もあっち側だったなぁ。
ナイアルやヒュードラにボロボロにされて泣いてたっけ。
故郷の高原が懐かしいぜ。
思い出にふけりつつ、隙だらけの顎を打ち、腕を折って目を抉る。その瞬間に空いた股間を思い切り蹴り上げた。
これで終わらせるつもりはない。さっきの頑丈さを考えると、今の間に必殺の一撃を用意しなければな。
手甲に十分な魔力を含ませ、今度は打撃としてではなく貫くために手の形を変える。
手を妖鬼の胸元へ押し付ける。ゼロ距離だ。そしてこっからの!!
「パイルバンカーッ!!」
あ、郷愁の念に駆られていたからか、思わず技名叫んじまった。
うわ、恥ずかしい……
リリスの前で技名叫ぶとか、やっベー、超恥ずい!
顔色はあまり変わっていないと思いたい。
正直、今の俺は一杯一杯だ。顔色に出てなくても、最高に赤面してる。精神的な意味で……
クソ親父め。
何が技名を叫ぶのにはロマンがある、だよ!
変な癖を覚えさせやがって……絶対に許さん、次会ったらボコボコにしてやる。生きてるか死んでるか知らないけどな。
さて、打ち込んだ技は至極単純なものだ。
肘を曲げて敵の胸に手を当て、手甲に含ませた魔力を肘の後ろから噴射し、杭を打ち込む要領で刺し貫く。俺の手が壊れない限りどんな物でも貫くことができる優れものだ。
これをやると肩が後で痛くなるので、あまり多用したくはないけれど……
さて、貫いて空いた穴へ、手甲を通していつものように止めを仕込む。
魔力により作り出されるごく小さな針から、手甲に残った俺の魔力を注入し、腕を引き抜いた。
魔力の仕込みに何の意味があるかと言うと……
ーーん?何だこりゃあ!?
俺は思わずその場から飛び退いた。
胸から腕を引き抜いた途端、変化が訪れたのだ。
仕込んだ止めによる変化とは別物の……。
折ってひん曲げた両の腕が勝手に元の位置に戻る。
抉って潰した眼球が元の形を取り戻し、元の位置に帰る。
抉れた胸の穴がじわじわと小さくなり、遂には穴が塞がる。
本当に何だこいつ……まるで、時間を巻き戻すように再生しやがった。
まるで吸血鬼並みの不死性……あ、これはまずい。
「ルシファー。其奴は吸血鬼をも超える超回復を持っておる。太陽等の弱点が無い分厄介だぞ!」
「……いや、もう終わった。」
「……何だと?」
そう、どれだけの不死性を持っていようと終わったのだ。
青妖鬼の再生した体にさらなる異変が訪れる。
力なく膝から崩れ落ちていた奴の目の隙間から、鼻から、耳から、口から、おそらくは穴という穴から血が勢いよく噴き出していた。
血は出た直前に蒸発し、元の位置に戻ろうとするが、流血は止まることなく続く。
更にはボコボコと肉体に膨らみが現れ始め、そしてーー
「ゴ…ウゥ……ウボァッーー!」
ぐちゃりと、青から紫色に変色してきた肌が一気に爆ぜた。
目玉は破裂し、肌が剥け、体の血管と筋繊維が剥き出しとなる。それが一本一本プチリプチリと切れて、体はどんどん血にまみれていく。口からは滝のように血が吐き出され、吐瀉物の中には固形のドロドロとした何かが流れ落ちている。
それと同時に奴の再生も行われるが、破壊の方が圧倒的に早い。
無駄に回復をしようとするそれが妖鬼の地獄を長引かせていた。
種明かしをしよう。
想定とは違っていたが、この惨状は『パイルバンカー』で胸を貫いた後に、俺が打ち込んだ魔力によるものだ。
胸というのは、一番魔力の通り道が多いので、いつもそこを狙い目にすることが多い。
でだ、なぜこんな現象が起きるのかと言うと、魔力の拒絶反応がその大元にある。
魔法というものは大別して、大気に含まれる魔力や結晶化した魔石等を利用して扱う体外魔法と、自分自身の魂に溜め込んだ魔力を用いる体内魔法の二通りがある。
俺は、その体内魔法を利用するための、魂から体へと続くラインに干渉を仕掛けたのだ。
ぶっちゃけて言うと、心臓あたりに集まっている魂のラインに、無理矢理俺の魔力を注ぎ込んでアレルギーを引き起こしたわけだ。
相手に手を当てたまま、その手から魔法を発動させようとしても魔力の収束が出来ないように、自らが認めた、一定の質のみを許す魂の器は決して魔力を通さない絶縁体となる。
しかし、その絶縁性故に、万が一にでもラインから魂の器に侵入してきた異物が少しでもあれば、何を犠牲にしてもそれを完全に排除しようとする性質がある。
ラインに暫く流れていれば、異物の魔力が本来の魔力に吸収され、同質化してしまう事にも関わらず、それを攻撃し続けるのだ。
要するに、最終的に本来あった魔力さえも異物だと認識してしまうと言うこと。
頭のてっぺんからつま先まで体中を、駆け巡る魔力のライン。
それらが、元ある魔力さえ嫌い排除しようとすれば、当然体に無理が生じる。
プロセス通りであれば、まずは、入ってくる要因となる、原因を潰す。
空気中に漂う魔力を日々触れ続けている皮膚。比較的魔力を取り込み易い目。
当然、それらを破壊したなら、また魔力に触れる面積を破壊、そして、また破壊と繰り返す。
そうなると、最後に残るのは魂とそのラインのみとなるわけで、それらと繋がる肉体は全損していくというわけだ。
本来は、そうなるスピードが早く、一瞬で体が弾けて終わりなんだが……、可哀想に。
無駄に回復が優秀なせいで、治っては壊れの繰り返し。これは終わるまでかなりかかりそうだな。
ぐちゃぐちゃと、体のアレコレが壊れていく音に背を向けて、俺は呆然と立ち尽くすリリスの肩に手を置いた。
「洞窟へ向かうぞ。こいつの兄がいる。」
「……む、ああ。そう、だな。此奴はどうするのだ?」
「時間はかかるが、いずれ死ぬだろう。多分な……」
「……そうか。よし、行こう。」
流石に魂に対しての攻撃だ。
体が不死に近いとはいえ、いずれ死ぬだろう。
少なくとも、あと数時間もすれば魂と精神は崩壊しているに違いない。
もしかするとラインが集中して通っている脳みそと心臓が残るような状態で止まるかも知れないが、肉体を構成する全てが壊れていればそれは死んでいると同義だと思う。
使い道は、そこらのゴブリンにとっての無限に食うことができる餌になるくらいか。
つーか、本当にごめんな。殆ど恨みとかねーのにこんな目に合わせちまって……
敵とはいえ、流石の俺もちょっとこれは酷いとは思ってんだよ。
この技を教えてくれた、教育係のナイアルだって言ってたしな。
『良いですか、アザトゥルス様。これだけは絶対に、ぜーったいにやってはいけませんよ!死なない事や回復だけがお得意な程度の哀れな不死者に対して、これをやっちゃったら未来永劫に続く拷問のような魂の破壊になっちゃいますからね。そんな面白ーー、恐ろしい事には絶対にしちゃいけないですよ。相手もすっごく可哀想ですよね(笑) 分かりましたか? 絶対に絶対ですよ! クヒッ。』
あれだけやってはダメと言われたのに、やってしまうとは本当にダメな奴だなぁ俺は。
まあ、人間には失敗がつきものだ。
過去は振り返らず、前を向いていこう。
すまんな、なんか色とか分からなくなってる元々青かった妖鬼くん。
……あ、そういや名前なんだっけ?
心の中で謝りながら、俺達は洞窟へ向かっていく。
あいつの兄貴の方も始末付けなきゃ後味悪いしなぁ。
ところで、だ。
……なんで、リリスそんなホクホクした様子に変わってんの?さっきまで不機嫌だったじゃん。
女の機微って本当に分からんなぁ。
◆◆◆
流石のルシファーでも、あの大魔法には成す術もないか。
ルシファーが妾の手にある聖剣を奪い取った瞬間、聖剣の波動が失われ、妾を拘束する枷が外れた。
本来の力が妾に戻ってきたと感じる。
どれ、手始めにあの邪魔なデカブツを消してくれよう。
手を翳し、特に呪文を唱える事なく魔力を振るう。
イメージは転移。
妾の本来の魔力を持ってすれば、遥か遠い海に落とすことなど容易。だが、魔王軍に察知されるわけにもいかん。
とりあえず、魔王領とは逆にある人間の領地側の海に放り投げておいた。
それにしても、ルシファーは不思議な男だ。
聖剣を握っただけで、その力を失わせる。
それだけならまだ分かる。聖剣は自らが認めた者以外に、力を使わせないのだ。
だが、妾の力を弱体化させる浄化の呪いを一時的に失わせるというのは本来ありえない事だろう。
どういう仕組みなのかと、問い詰めた事があったが、はぐらかされてしまったので答える気はないらしい。
もどかしいものだ。
時に、聖剣はモノを言わないが、最近少しづつ、此奴のことが何となく分かるようになって来た。
此奴は妾を毛嫌いし、いつでも噛みつこうとする気概がある。まるで意志を持っているように、封印を破ろうとする事があるのだ。
だが、ルシファーが近くにいると途端に静かになるのだ。相も変わらず妾を毛嫌いしているのは発する波動で分かるが、暴力的な雰囲気が少し和らぐ。
そして、触られると途端に従順となるのだ。此奴が犬のような尻尾を持っていたならば、尻尾を股の下に隠して成すがままにされている状態といった感じか。
少しばかり、苛立ちを覚える。
妾とてお前は嫌いだが、まざまざと態度の違いを見せ付けられれば腹が立ちもする。
そんなに妾が嫌いなら、ルシファーに使われろと言いたい。
まあ、一定距離離れれば勝手に体に戻ってくるのでどうしようもないがな。
ルシファーも剣を扱うつもりは更々無いとの事。
全く、邪魔しかせんな。此奴は……
「助かった、が……どうしたリリス。」
「知らぬ。」
幼稚な考えに恥入り、思わず素っ気ない対応をしてしまった。道具に苛立ってどうするというのだ、妾は。
とはいえ、ルシファーが此奴を持っている内は妾も十全に魔法を使う事ができる。
はてさて、あの妖鬼はどう始末してくれるか。消し炭にしようと再生しそうではある。厄介な性質を持っているものだ。
一通り試して、適当な海にでも放り投げるのが一番かもしれぬな。完全な解決にはならんが、暫くは問題なかろう。
そんな思考を遊ばせていると、起き上がった妖鬼がルシファーに襲いかかっていた。
それと同時に、ルシファーは聖剣を投げ飛ばす。
手放された聖剣はそのまま消失し、妾の中に再び戻っていく。
また、封をされてしまった……
ま、まあ、それは良い。
兎も角、ルシファーの戦いを妾は見たかったのだ。
あの妖鬼は、先の魔法でもはや魔力が残っておらん。
ぐるぐると拳を繰り出す姿は道化のように思えた。
しかし、その速度は、当然人間の比ではないが。
ルシファーはその回転する右の腕を片手で容易く掴み、折る。同時に両目を抉り出し、眼孔を掴んだまま股間を蹴り上げた。
肉体が発した音とは思えぬ、重い轟音。
その音を聞いただけで、その攻撃の痛みの一端を想像させる。
おそらくは、その想像など遥かに超えた痛みたのであろうが……
「パイルバンカーッ!!」
ルシファーが、あの寡黙なルシファーが、技名を叫んだ!!
その技名が、どういう由来に基づくものか、妾は知らぬ。
だが、それの意味するものは、全てを破壊し貫く矛であると、理解した。
妾でさえ、知覚できぬ速度で放たれたルシファーの腕は、抵抗を感じさせる事なく、妖鬼の胸を貫いたのだ。
その光景に、既視感を覚えずにはいられない。
ルシファーと会って間もない頃、あの男によって、肉体の全てを破壊された、一撃で文字通り粉砕された哀れな魔族。
それが、妖鬼の姿と重なった。
「っ!?」
その幻視はルシファーがその場から飛び退いた事で霧散する。
その表情からは、珍しく困惑の感情が読み取れる。妖鬼を見ると、損傷していた肉体が既に治りかけているところだ。
忘れていた。
ルシファーは妖鬼の再生能力を知らない。
「ルシファー。其奴は吸血鬼をも超える超回復を持っておる。太陽等の弱点が無い分厄介だぞ!」
「……いや、もう終わった。」
「……何だと?」
妾の忠告に、間髪入れず終焉を告げるルシファー。
思わず問いかけるが、その答えをそのすぐ後に見せつけられる事になった。
「ゴ…ウゥ……ウボァッーー!」
叫び声とも嘔吐した声とも思える不快な奇声を上げ、妖鬼は弾けた。
皮膚が弾け、眼球が弾け、血を流し、ごぼりと口からものが吐き出される。次々に何かが壊れていく妖鬼。
口から吐き出されたもの……あれはまさか、舌か。
見ていたくない光景が、地獄が目の前に展開される。
回復は行われているが、破壊が途轍もなく早く、治った途端に壊れる。治ろうとしていた場所が、既に壊れている。
永遠に続く無限地獄のような光景だった。
「洞窟へ向かうぞ。こいつの兄がいる。」
と、惚けている間に近くまで来ていたルシファーが肩を掴んで、そう妾に声をかける。
む? 妖鬼の兄は既に倒したのではなかったのか。
ならば、あの青妖鬼は一体何に怒ったというのだ。
「……む、ああ。そう、だな。此奴はどうするのだ?」
「時間はかかるが、いずれ死ぬだろう。多分な……」
「……そうか。よし、行こう。」
正直、あの青妖鬼をしっかりと殺してやってほしいと言いたかったのだが、妾は口を噤む。
ルシファーがあの技を使った時、錯覚でなければ彼奴の顔は少し赤くなっておった。
感情を表に出さぬルシファーが、言葉を大きく発さないルシファーが、それほどまでに興奮する理由。
妾が知らぬ、彼奴の人生。
その中で、妖鬼というものは許す事のできぬ敵であったのではないだろうか。
だからこそ、これほどまでに残忍な方法を選択した。
復讐か何かは知らぬ。
だが、やはりその残虐にして非道な選択を行う事に躊躇せぬ姿は、妾をますます魅了するのに十分な態度であった。
ルシファーが、本当に人間であれ、それ以外であれ、妾は見届けたい。この者がどの様な生き様を貫くのか。
願わくば、妾はその隣に寄り添っていたいものだ。
……さ、さて。
あと一つあるらしい、この戦いの結末を見に行くとするか。
ーーー
ルシファーと共に歩み、洞窟の中で妾は見た。
青妖鬼とは比べものにならない偉丈夫。
太い腕、引き締まった胴廻り、真っ赤に染まった赤い肌。その体全体に満ちる濃密な魔力。
間違いなく、これは強い。
あの青妖鬼の言う通り、戦いに消耗していたところに此奴が現れていたならば、全盛期ではない、聖剣によって弱体化されていた妾では勝てなかった。
そう思える力強さ。鬼にも匹敵する、パワーを感じる。
感じているのに……。
既に状況は終わっていた。
赤い妖鬼は、ゴブリンの死体の群れの中心で、白目を剥いて洞窟の天井を見上げていた。
生きている。魔力を感じる。力強さを感じる。
だが、全く脅威を感じない。
調べてみると、気を失っているのではなく、奴の魂は既に消滅しているようであった。
妾は、その抜け殻に近寄り、聖剣で首を狙う。剣は少し肉を切るが、切断には至らない。
聖剣を仕舞い、今使える最高の切断魔法でその首を刎ねた。
あの哀れな弟のように再生をする事はなかった。
妾はルシファーに振り返る。
この赤い妖鬼に何をしたのかを聴くために。
だが、妾はその口を閉じた。
ルシファーは、赤い妖鬼の屍に視線を向けたまま、愉しそうに嗤っていた。
今まで見た事のない、本当に愉しそうな笑顔だった。