第五邪
これは一体どういう状況だ?
洞窟を出ると、新鮮な空気を感じると同時に、新鮮な死臭が辺りに漂っているのを感じた。
その臭いの素はここら一帯に散らばっている複数の死体。
それらはゴブリン、ホブゴブリン、オーガ、そしてサイクロプスなどの亜人。
斬られ、焼かれ、凍らされ、破壊された無残な死体群。
これをやったのは誰かという問いは不要だ。
間違いなくリリスによるものだろう。
少し離れた場所からは轟音が轟き、夕焼けとは違う赤い光が空を彩る。
その後訪れるビリビリと体に感じる聖剣の波動。今現在リリスは何かと戦っている現状のようである。
何が何だかわからないが、リリスを呼んで足止めした妖鬼を始末するという手段は取れそうにない。
兎に角、あの妖鬼の存在くらいはリリスに伝えるべきだろう。
「おい。」
担いでいる男を揺らす。
……返事がないただの屍のようだ。
という冗談は置いといて。
どうやら、男は緊張が解けて気を失っているらしい。
困ったお荷物だ。
俺は洞窟から離れ、正気に戻った妖鬼が出てきても見つかりそうになさそうな、安全に思える岩場の陰に男を寝かせて、急いで轟音の元へと駆け出した。
再び聖剣の波動が肌を震わせる。
……ふと、この状況に陥った要因に思い当たる。
これ、俺のせいじゃね?
俺が洞窟に入る前、リリスに聖剣を抜くよう指示した時、その警戒を煽る対象は洞窟の中にいる魔族だけのはずだったのだ。
しかし、この状況を見るに、そうはならなかったらしい。
聖剣の波動は森に住む他の魔族。つまり、言葉を介する亜人達にも感じる事ができるという事。
周囲にいた亜人のリーダー。その配下を加えた亜人の大群がここを目掛けて襲ってきたというのは、やっぱり、聖剣を使うよう指示した俺のせいなのだろう。
そして、リリスは俺の尻拭いをしているという事になる、と。
波動がどこまで飛んでいるかは知らないが、もしかして村、壊滅してたりしねえよな?
そうなったら俺、リリスに殺されるかもしれない。
ーーとんだ失策だ。
森に散らばる死体の山。倒された木々。弱々しく呻き声を上げる死に損ないの亜人達。
それらを踏みつけ、時に往生させながら俺は最短距離を走る。目的地はすぐそこだ。
森の一部を焼いて作られたと思われる、未だ燻る火を残した広場へと、俺は到達する。
そこには銀髪を熱風に靡かせる凛々しくも美しい美女がいた。
「ルシファーか、すまぬ。どうやら、間に合わなかったようだな。」
波動を力強く漏らす白銀の剣を握りしめ、顔だけをこちらに向けて、大層申し訳なさそうな表情を見せるリリス。
彼女には怪我も、汚れもない。
いや、魔王様は強いし、雑魚相手なら当然といえば当然か。
でも、謝るのは寧ろ俺の方だというのに、何でそんな悲痛そうな顔してんの??
リリスは顔を前に向ける。
対峙していたのは服だけがボロボロになった1匹の青い肌で細身の妖鬼……
……ん? 妖鬼?
「貴様……なぜ、生きている。まさか、兄者が敗れるはずは……!?」
「妖鬼。信じられぬなら、意識の共有とやらをしてみると良いではないか。暫し待ってやろう、妾は寛大だからの。」
「くっ……。」
全然状況が理解できない。何だこれ?
俺だけ何も分かってない感じじゃね?
細身の妖鬼は、信じられないものを見るような顔で俺を凝視する。
兄者って言ってることはあの洞窟にいた妖鬼はこいつの身内ってことか。
……もしかして、こいつが亜人やら魔物を連れてきた張本人か?
あの妖鬼が阿呆だったせいですっかり忘れていたが、こいつらは恐らく魔王軍の実力者なのだろう。
つまり、ここらの死体はこいつらが掻き集めてた兵力だったわけか。
あー、そういうことなら納得だわ。
だって、よく考えるとあの洞窟にはゴブリンリーダーがいなかったからな。洞窟にいた妖鬼がお山の大将気取るには、どうにもゴブリンの数が少なかったし、不思議には思っていたがそういうことだったか。
んー、それにしても、なんで俺がリリスに謝られているのかは全く分からんぞ。
あいつの機転で分担?ができたから良かったものの、どう考えても俺が悪かった気がするんだが……
まぁ、有耶無耶にできてありがたいんだけどさ。
つーか、今思ったんだが、なんで聖剣使って戦ってるんだ?
仕舞ったほうが、お前強いだろうに……
む?
遥か後方で、動くものを感じた。早くも妖鬼が洞窟から出てきたのだろうか。
そう考えたが、その影は妖鬼と比べてかなり小さく、そして見覚えのあるものだった。
村の少年ルドフが、岩場からこちらの様子を伺っている。
んあ、ルドフ? なんで戻ってきてる!?
あいつ、帰ったんじゃねえの?
状況からリリスの行動に合点が行く。
そうか。リリスはルドフの目を気にして聖剣を使っているのか。
流石に、人間の目の前で得意の闇魔法をぶっ放すわけにはいかねえよな。魔族ってばれちまうし。
見られても始末しちまえばいいと思うが、リリスはあの村……というか、あのガキのことを気に入ってる。言ったところで聞かないだろう。
使わないと負ける相手でもなさそうだしな。
「人間。貴様と戦っていた兄者は……『熱鬼のグラト』はどうした!!」
細身の妖鬼が問う。
へぇ、あの妖鬼はそんな名前だったのか。
そういや、俺もあいつに名乗らなかったな。どうでもいいが。
さて、そのグラトとやらがどうなっているのか……。
そりゃ、俺も知りたいところだ。
薬の効果が切れてないのなら、多分今頃はーー
「地獄の真っ只中にいるだろうな。」
あの腕力ではどれだけ加減しても、ハグだけでゴブリンはすぐに絞め殺されるだろうし、生きている奴をひっきりなしに襲っていそうだから、多分死体とでもヤってるんじゃね?
運が良ければ生きてるのとヤってるかもしれないが、どっちにしても地獄みたいな光景だ。
うわーやだねー、……エンガチョー。
「ーー戯言だ!!」
一言吠えて切り捨て、その場に座り込んで目を瞑る。
明らかに隙だらけなのに、リリスは手を出さない。
……勿体ねえなぁ。俺なら今の内に5発は殴ってる。
ところで、こいつは一体何をしているんだ? さっきリリスが意識の共有だとか何とか言ってた気もするが……
「ーーーーっ!?」
……いきなりどうしたよ。
妖鬼は閉じていた目を見開いて、大粒の涙をぼたぼたと落とす。
「き、貴様!!貴様ぁああああ!!!兄者に……一体、何をしたというのだぁあああ!!」
「知らん。」
何を熱り立ってんだ?
……あ、いや。意識を共有ってそういうことか。こいつはさっきの瞑想であの洞窟の妖鬼の状態を見ちまったのか。
兄貴のアブノーマルな情事を見ちまったのかぁ……。
「妾も興味がある。貴様の兄がどうなっておったのか、説明してみよ。」
「リリス。知らない方がいい。」
「兄者をよくも……よくも!!」
憎しみに満ちた男は、リリスの問いかけを無視して立ち上がる。
両の拳は自らの握力で皮膚が裂け、血がぼたぼたと落ちる。
妖鬼ってのは血も涙もないやつだと思っていたが、どうやらどっちも出るし、血も赤いらしい。
青い肌のくせに。
「『我は乞う 巨岩を砕き許されざる者たちへ降り注げ! フォールストーン』潰されーーごばぁ!」
「ーー間に合わなかったか。」
詠唱と同時に駆け出したのだが、殴った時には奴の詠唱は終わってしまっていた。
『フォールストーン』
対軍隊への核撃魔法として上級魔法使い複数人で行われる、消費魔力量と制御が非常に難しい魔法だ。
大岩が降り注ぐ単純な物量魔法であるから、対処が非常に難しいとされている。
まさか、この妖鬼1匹でそれをするとは、全くの想定外だ。詠唱だって簡略化し過ぎだろ!
殴り倒した妖鬼から目を離し、上を見上げると。絶望的なほど大きな岩石が迫っていた。
なるほど、こいつは制御なんてハナっから考えていなかったのか。
どう考えても……俺らの頭上どころか、自分自身も含めている。
防御の事など丸っきり考えていないのだろう。
俺は、何故か何もしようとしないリリスに向かって駆け出し、手に持っている聖剣を奪い取った。
◆◆◆
敵を聖剣で切り裂き、威力は低いが人間が用いる氷結魔法で凍らせ、できる限り大きな破壊が起きないように範囲を爆撃で攻撃する。
下手をすればルドフを巻き込む恐れのあるものは使用を控え、手加減をしつつも、妾はものの数分で数百の魔物を屠ってみせた。
ルシファーなら、あれらは亜人だと言うだろうが、妾にとっては会話する知能すらないものはすべて魔物だ。
人間や魔族に属すとすら、思いたくは無い。あ奴らは唯の無様な家畜に過ぎん。
とはいえ、中には知能を持つものもいた。
村に訪れたというゴブリンリーダー。
オーガを指揮していた毛色の違うオーガ。
最大の大きさを誇るサイクロプス。
おそらく、それぞれに知能を感じさせる動きをしていたが、聖剣の一振りでそれらは呆気なく倒れ伏した。
少し勿体無い気もしたが、もう遅い。
妾が魔王として返り咲いた後に繁栄を許してやろう。雑魚は要らぬが、変異種は見ていて面白いからな。
「強い。流石勇者といったところだな。」
「む?」
声の発信元に視線を移すと、緋色に咲いた炎の壁が眼前まで迫っていた。
ーー油断した。
雑魚しか居らぬと高を括っていたが、どうやら強者が紛れておったようだ。
当たっても別に痛くも痒くもないが、ルシファーに選んでもらったこの服を焦がされるわけには行かぬ。
周囲を瞬時に氷で覆い、炎が通り過ぎるまで球体の内部で過ごす。
視界が晴れると、そこには痩せこけた妖鬼が腕を組んだ状態で鎮座しておった。
敵前で座っているとはなんとも、豪胆な奴よ。
少しばかり妾は感心する。
氷を破り、広場となった周囲に目を配る。
……なるほど。
「逃げも隠れもせぬ、と言うつもりか?」
「笑止! 貴様が隠れられぬようにしたまでのこと。」
「大した自信だ。たかが色違いの妖鬼の分際で、その青白い不健康そうな細腕で妾を……勇者リリスを倒せると本気で思っておるわけではあるまいな。」
「その言葉、そのまま貴様に返そう。我らは魔王軍が十三阿修羅。『熱鬼のグラト』と『冷鬼のニート』に敗北はない!」
「ふん、不健康そうな妖鬼の分際で二つ名など片腹痛い。この痛み、死をもって贖ってもらおうぞ。」
地面を蹴り、聖剣で首を狙う。
魔族にも相性こそあれど、聖剣の力は基本的に弱点となる。魔王たる妾でさえその力の一部を制限されるほどに、大きな弱点だ。。
妖鬼などの格の低い魔族であれば、当たればすぐにでも骸と化す清き魔力。
そう思っていたからこそ、妾は酷く衝撃を受けた。
「貴様、不死身か……!?」
「分かっただろう勇者。オレ達は同族の妖鬼とは格が違うのだ。」
妾は確かに、その首を一度刎ねた。
だが、首が飛ぶ事はなく、骨と肉を剣が走り切断していく中、切れた後から即座に切り口が塞がってしまった。
「オレ達に敗北はない。オレが貴様を打倒できずとも、足止めしている内に、兄者が貴様を殺しに来るのだ。洞窟へ足を踏み入れた哀れな貴様の従者を始末した後にな……。」
「……何故、妾の従者が洞窟に入った事を知っておる。」
「答える必要はないが……まあいい、教えてやる。洞窟に居る兄者はオレの双子の兄、血と精神を分けた一心同体の身。オレ達は離れていても互いの意識を共有し、情報を交換する事ができるのだ。貴様の従者は先ほど兄者と相対したが、あの程度の力ではすぐに決着が着くだろう。」
「はっ、ルシファーが負けるなど、あり得ぬな。その意識の共有とやらが本当であれ嘘であれ、貴様とその兄の眼はよほど節穴と見える。」
「……例え、あの人間がどれだけ強かったとしても兄者には勝てない。オレは魔法に特化しているが、兄者は力に特化している。鬼にも勝る力だ。貴様の従者は格闘家のようだが、鬼の怪力を、頑丈さを超える事ができるか?」
「『氷結せよ アブソリュートゼロ』」
「無駄だ、『爆㷔を上げよ エクスプロージョン』」
一定範囲の生物を確実に凍らせる禁呪。
『アブソリュートゼロ』。詠唱を短縮したとはいえ、威力は申し分無い不可避の即死魔法。
だが、妖鬼は魔法の名前を知ると同時、凍りつく前に呪文を放つ。
『エクスプロージョン』。
魔力で空気を圧縮し、それに火の属性を加えた爆撃魔法。単純ながらも高威力なそれは、妾も人の身において使用頻度の高い魔法だ。
それをあ奴は、自分自身に向けて放った。
凍り始めていた奴の体は弾けて割れ、爆㷔に焼かれて黒く焦げる。
煙が晴れると奴は同じように座ったままの姿で、妾を睨めつけていた。衣服こそボロボロだが、全くの無傷に再生している。
「話の最中に禁呪を繰り出すとは、不躾な勇者もあったものだ。オレの再生能力は吸血鬼を超える。凍らせて動きを封じ、仲間の援護に向かおうと思ったのだろうが、アテが外れたな。」
「やはりその能力、特異系の妖鬼にしても異質。貴様、如何にしてその力を得た。邪法の類としか思えん……!」
「然り、我ら十三阿修羅は神の導きにより、選ばれた存在。貴様も気付いただろう、オレ達に聖剣の波動は効かん。滅ぼしたければ、神剣でも持ってくるがいい。」
妾は魔王だ。
戦力や軍の全貌は全て把握していた。
その当時には魔王軍に、十三阿修羅などという部隊はなかった。間違いなく現魔王の作った部隊。
そして、その部隊は何らかの方法で力を得たのだ。
おそらくは、裏切り者もそれの力を得たのだろう。
でなければ、あの時……現魔王である、あの裏切り者が妾に聖剣を突き刺すことなど不可能だからだ。
ーー魔族には聖剣を握ることは出来ない。
実はこうして手にしている妾とて、それは例外ではないのだ。
今でこそ、効力を弱める事が出来ているものの、施された柄の封印を解けば、更なる弱体化を免れることは不可能。手に持つなど出来はしない。
呪いさえなければ、こんな物すぐにでも捨ててしまいたいが、勝手に体内に戻るのだからどうしようもない。
これが勇者に選ばれた者への祝福と言うのだから、皮肉なものだ。
魔族が聖剣の影響を受けないというのは、この妖鬼が言う神の導きとやらによる影響に間違いはない。
何をしたかは知らぬが、碌な方法でないだろう。
妖鬼の思わぬしぶとさに、妾にも少し焦燥感が湧き上がる。
この妖鬼が言うように、邪法を用いて強化された妖鬼がルシファーの入った洞窟にいる。
あの者が負けるとは思えんが、妾同様、相対するに相応しい強敵を相手しているのは間違いない。
ルシファーは人間だ。
だが、恐ろしく強大な力の片鱗を垣間見た妾は、かの者が途方もない化物の如き力を持った存在である事を知っている。
そんなルシファーが、周りの目を気にせず力を振るう機会があるならば、おそらく今をおいて他はないだろう。
妾は、こんな妖鬼の為に、その稀少な機会を逃してしまうというのか!
「妾には急がねばならん理由がある。貴様が斬っても死なぬと言うのなら、細切れにして再起不能にしてやろう。」
「来るがいい、勇者よ。兄者が来るまでに可能な限り弱らせておいてやる。」
爆㷔と聖剣の波動が交差する。
抑えていた聖剣の波動を更に解き放ち、神速の斬撃を見舞う。頭の先から、足のつま先まで、真っ二つに斬り、次いで横薙ぎに胴を割る。縦横斜めを幾度も繰り返し、斬られるごとに幾度も再生する妖鬼の反撃を許さない。
だが、何度かは奴の魔法が解き放たれる。
爆㷔による轟音が高らかに轟き、妾はそれを防ぐ。
そして、再度斬りつける。
それを数回繰り返し、妾は気付いた。
知った気配が近くにいた。
妖鬼と距離をとり、妾は後ろを見る。
「ルシファーか、すまぬ。間に合わなかったようだな。」
碌に怪我を負う事もなく、服に大きな汚れすら見られず、堂々とした出で立ちでルシファーは私を見ていた。
妾の謝罪には何も答えない。
ルシファーはいつものように無表情。
妾にはその様子がまるで、妾の体たらくを責めているように感じた。
「貴様……なぜ、生きている。まさか、兄者が敗れるはずは……!?」
妖鬼は慄いている、ルシファーがここに到着したという事は、こやつの兄は既に倒されていることを意味する。
妾と離れてまだ幾十と数分、どのような早業をもってすればこれほどの短時間で戻ってこれるというのか……。
「妖鬼。信じられぬなら、意識の共有とやらをしてみると良いではないか。暫し待ってやろう、妾は寛大だからの。」
「くっ……」
妖鬼は逡巡する。
ルシファーの得体の知れなさから来る警戒が、妾の提案を受け入れられないのだろう。
当然だ。妾でさえ、あの者の全貌を把握しきれていないのだから。
「人間。貴様と戦っていた兄者は……『熱鬼のグラト』はどうした!!」
警戒から、直接問うことにしたらしい。
妖鬼は妾を完全に視線から外し、得体の知れない男を注視する。
眼中にないと思われるのは少々癪に障るが、妾も其奴がどうなったか興味がある。
超聞きたいのだ。
「地獄の真っ只中にいるだろうな。」
「ーー戯言だ!」
抽象的な答えに、妖鬼は激昂する。
妾もそうじゃない、と同意する。
怒りが警戒に勝ったのか、妖鬼は座り直して目を瞑る。これが意識の共有とやらの方法か。
さぁ、ルシファーが一体、貴様の兄をどうしたのか……とくと説明するがよい!!
「き、貴様!!貴様ぁああああ!!!兄者に……一体、何をしたというのだぁあああ!!」
妖鬼は吠える。瞼を全開までこじ開けて、その目から涙を溢れさせ、牙を剥き出しにして己の怒りを体全体で表す。
強く握られた拳からはぼたぼたと血が流れている。
よく見ると、その血は地面に落ちる前に蒸発しているようだ。吸血鬼を超えた再生能力はここでも健在か。
「知らん。」
ルシファーの惚けた返事に妾は焦りを覚える。これでは戦闘が起こる。
このままでは、ルシファーの戦いの一端が掴めぬではないか!
「妾も興味がある。貴様の兄がどうなっておったのか、説明してみよ。」
「リリス。知らない方がいい。」
「兄者をよくも……よくも!!」
悪足搔きもルシファーにより一蹴され、妖鬼からは無視されて不発に終わる。
妾は希望の光を失い、ルシファーが駆け出すと同時に戦闘が始まる事を察した。
不覚にも、妾は妖鬼の発した詠唱を聞き逃していた。