第98話 スピリチュアル
「ここはアリスの部屋か。しかし……なんだコレ……」
「鍵はかかっていないみたいだね」
俺たちは家の中で寝られる場所を探して。屋敷の二階の、アリスの部屋と思われる扉の前まで来ていた。
扉にはカワイイ文字で、ありすちゃんのおへやと書かれていて。文字の後ろにはピンク色のハートマークが描かれている。
アリスが書いたのか? いや……ないな……
子供の頃に書いたとしても、字が綺麗すぎるし。アリスはそんな性格じゃない気がする。
てことは、エレンさんかギルさんが……?
ギルさんが女の子文字で、ありすちゃんと書いている姿を想像して、俺は背筋が寒くなった。
エレンさんが書いたんだな、うん。きっとそうだ。
「わー……」
「なんじゃこれは……」
俺が頭の中で考えていた、嫌なイメージを振り払っていると。トリアナと白亜がアリスの部屋に入っていき、驚きの声を上げていた。
二人の後を追い、アリスの部屋に入って行ったら。俺も部屋の中を見て絶句してしまう――
「うわ……」
まず最初に目に入ってきたのは、所狭しと置かれている、大小さまざまな種類のヌイグルミたちである。
動物を模したカワイイ物もあれば、ドラゴンやゴリラ? みたいな微妙な物もある。
そして極めつけなのは、お姫様が寝るようなピンク色の大きなベッドに、同じくピンク色をしたシルクの天蓋。
部屋の壁紙もピンクで、窓の光を遮るカーテンもピンク色だった。部屋の中に居ると、目が痛くなってくる気がする。
「ピンク一色じゃねぇか……」
「すごいね」
「目が痛くなってきたのじゃ……」
いつまでもレティを背負っているわけにはいかないので、トリアナにベッドを整えてもらう。
ベッドのシーツは別に汚れていなかったので、そこにレティを寝かせた。
もしレティの目が視えていたら……
起きたとき、ものすごく驚いただろうな……
「これでよしっと」
「白亜」
「なんじゃ?」
レティに布団をかぶせているトリアナの後ろで、俺は白亜に頼み事をする。
それは、レティと一緒に寝てもらうことだ。別にトリアナでも良かったのだが、相手はお姫様なので、子狐姿の白亜のほうがいいかと思った。
「頼む。一人っきりにはさせたくないんだ」
「そこまで言うのなら、仕方ないのじゃ」
最初はこんな部屋で寝るのは嫌だと言っていたが、目の見えないレティが心配なので、何度もお願いをすると了承してくれた。
「それじゃ、ボクたちも寝る場所を探そっか」
「あぁ」
「い、一緒に寝るのかや?」
「別の部屋でねるよー」
トリアナと俺が喋りながら部屋から出ていこうとしたら、なぜか白亜が慌てていた。
それから二人で部屋を見て回り。トリアナは、えれんちゃんのおへやと書かれている部屋で眠ると言い。
俺は少し悩んだが。わしのへや――と、無駄に達筆な文字で書かれてる部屋を選んだ。
「アリスの祖父さんの部屋か? まぁ、ここでいいか」
独り言を喋りながら扉を開ける。部屋の中には、鉄みたいな臭いが漂っていた。
「鉄くさい……まさか、血じゃないだろうな……」
部屋中に漂っている鉄の臭いが気になり、俺は明かりの魔法を唱えて部屋を見渡す。
「武器か……」
部屋の中には刀や剣など、物凄い数の武器が壁に飾られていた。
貴族らしくない部屋の様子を見て。俺は扉の前で、二の足を踏む。
そして部屋の窓際に視線を向けた時、薄っすらと見えたものに愕然とした――
「……? っ!?」
俺は部屋の扉をバタンと勢いよく閉めて、扉の前から後ずさった。
それから階段を駆け下りて、一階の奥の方にある部屋の前まで全力で走る。
えれんちゃんのおへやと書かれた部屋の扉を開けて、ベッドで眠っている少女の所まで向かう。
「トリアナ……トリアナ……」
「ん……んー……クロちゃん? どうしたの?」
気持ちよさそうに寝ていたトリアナは、目をゴシゴシと擦りながら俺の顔を見る。
そして、寝間着を創るのがめんどくさかった俺は、服だけを脱ぎ捨てて。彼女が寝ていたベッドの中に潜り込んだ――
「え? え? クロちゃん?」
「俺と一緒に寝てくれ」
「へ……?」
ベッドの中に入った俺は、トリアナの顔に視線を向けながらそう伝える。
「ク……クロちゃん……ボ、ボクは、ソフィアちゃんじゃ……ないよ?」
「わかってる。俺はトリアナと寝たいんだ」
「はわわわわ……」
「トリアナ、抱きついてもいいか?」
「ふぇ!?」
俺の言葉を聞いたトリアナが、背中を向けながら驚きの声を上げていたが。
俺はそれに構わずに、彼女の身体を自分の胸元に抱き寄せた。
「ひゃ、ひゃー……」
トリアナの体温を体中で感じて、俺は落ち着きを取り戻した。
暗かったし、気のせいだよな。
今日は色々あったから、気分が高揚してて、どうかしてたんだ……たぶん。
「あ、あの……よろしく……おねがいします……」
トリアナが小声で何かを言っていた気がするが。彼女と一緒に居る安心感で、だんだんと眠くなってきた。
しばらくして。俺が何も喋らなくなったのがおかしいと思ったのか、トリアナが俺の方に振り返る。
そして彼女が口を開き、質問をしてきたので。俺は悩んだあと、さっき見た光景を彼女に伝えた。
「なんだ……ちがうのか……」
「どうした?」
「はぁ……なんでもないよ。それで、ゆーれー?」
「違う、幽霊じゃない。俺の気のせいだ……」
トリアナがため息を吐きながら、俺が見たものについて聞いてくる。
「でも、見たんでしょ?」
「みみみ見てない」
トリアナが、見間違いなのかもしれないのなら、もう一回確認すればいいと。信じられないことを言う。
もう一度あの部屋へ行くなんて、俺には耐えることが出来ないので。夜が明けたら見に行くと彼女に言った。
「今いかないと、意味が無いじゃない?」
「明日から本気出す」
「もし、悪い魔物が住み着いちゃってたら、どうするの?」
「ギルさんに任せればいい」
「キミが退治しようよ」
「働きたくないでござる」
俺と問答をしていたトリアナが、俺の返事を聞いて再びため息を吐く。
それなら、ボク一人で確認してくるよ――と言われたので。
俺は少し逡巡して、彼女だけに行かせるわけにもいかず、嫌々ながらついて行くことにした――
「この部屋?」
「そ、そうだ……」
「怖いのなら、ついて来なくてもよかったのに」
「ここ、怖くなんかないやい……」
トリアナは、しかたないなぁ……と言いながら俺の手を握って。
先導しながら、アリスの祖父さんの部屋に一緒に入っていく。
俺はビクビクしながら部屋の窓の付近を見る。しかしそこには何もない。
やはりただの見間違いだったのかと思っていると。
トリアナがキョロキョロと部屋を見回したあと、何かを感じると言い出した。
「な、何を感じたんだ?」
「んー……っと。スピリチュアル……残留思念?」
「なんだそれ……」
彼女が言うには。この部屋の中で、誰かの強い思いが漂っているという。
俺が力を使えば、それがハッキリと見えるかもしれないと言われたが、そんなものは御免こうむる。
「勘弁してくれ……」
「それじゃぁ、ボクがやってみるよ」
トリアナがそう言って俺の手を放し。目を瞑り、両手を前に広げる。
数分くらいトリアナを眺めていたら、彼女の体が青白く発光し始めた――
「うーん……だめだね」
今のボクの力じゃ、できないや……と、トリアナが言うので。
俺から力が流れているはずなのに、それでも無理なのか? と聞くと。
どうやら力の源は大聖王だったらしく。クロフォードが眠っている今、力が流れてこないと言われた。
「たぶんだけど……アリスちゃんのお祖父ちゃんの魂が……彷徨っているのかな?」
「じじい……成仏しろよ……」
トリアナにそう教えられて。俺は、その言葉しか出てこなかった。
それから、いくらアリスの祖父さんが相手だとしても。
嫌なものは嫌だったので、このことは放置して。俺はトリアナと一緒に眠ることにする。
再び一緒のベッドに入ると、彼女は複雑な表情をしていたが。
嫌がっている様子はなかったので、彼女の体を抱き寄せて。俺たちは眠りについた――




