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第97話 ルシオール

ギルさんたちと別れたあと、俺たちは森の中を歩き進んでいた。

時刻は深夜の二時くらいだろうか。できるだけ早く街に辿り着きたいので、休まずに歩き続けている。


「なぜわらわが、こんな事をしなくてはならないのじゃ」


白亜が文句を言っているのは、トリアナと一緒に魔物を警戒しながら、先頭を歩いもらっているからだ。

彼女には、野生の気配探知能力と、獣の鼻を頼りに道案内を頼むことにした。

わらわは野生ではないのじゃ――と文句を言っていたが。俺が頼み込むと渋々了承してくれた。


本当は俺が先を歩きたかったのだが。レティの睡魔が限界に達して、俺が背負うことになった。

彼女は俺の背中でスヤスヤと寝息をたてている――


「すまないな。白亜」


「お主の頼みなら、仕方ないのじゃ」


彼女はブツブツと言いながら歩いていたが、納得はしてくれていた。


「ふぅ……」


「クロちゃん。疲れちゃった?」


歩きながらため息を吐いていた俺の顔を、トリアナが心配しながら覗き込んでくる。


「いや。少し……思うことがあってな」


俺は、ギルさんたちと一緒にいた時の事を思い出していた。

俺たちがギルさんたちと別れる前に、ダマ爺さんからリザードマンの行方を聞き出したのだが。

あの砦に連れて行かれた時、俺にひどい仕打ちをしたあの男に、復讐をしたかったからだ。


しかしダマ爺さんから返ってきた返答は、俺の予想外の事だった。

あのリザードマンは、砦に最初の襲撃があった時に、ラシュベルトの兵士の手によって殺されていたのだ。

ぶっ飛ばす相手を失った俺は意気消沈して、なんとも言えない気分に陥っていた。


「やはり人間……死んだら意味が無いよな……」


「クロちゃん……」


俺の独り言を聞いて、トリアナがなにかを言いたそうな顔をしてくる。

そして、先頭を歩いていた白亜が立ち止まり、俺の方に振り返っていた。


「どうした? 白亜」


俺が自作した、トリアナが持っている松明の灯が、白亜の哀しげな表情を薄っすらと照らしている。


「わらわはもう、ひとりぼっちには……なりたくないのじゃ……」


ひとりぼっち……か……

これは俺が飼う? ことになるのかな。


次元の狭間で、黄竜にひどい仕打ちを受けた白亜を助けるとは言ったが。俺について来いとは言っていない。

俺の力なら、白亜を人間の姿に戻せる可能性もあったので。だから諦めるなとは伝えたし。

獣人の姿に戻れたら、どこかに去っていくのかと思っていたが。もしかしたら、俺から離れる気はないのかもしれない。


アリスに、なんて説明をするべきか。しかし……

これだけ女性がいるのに、彼女にだけ尻に敷かれている気がするのは、なぜだろうか。

思考が逸れたな……



「俺はそう簡単に死ぬつもりはない。だから、そんな顔をするな」


俺のその言葉を聞いて、トリアナと白亜の顔が少しだけ明るくなったような気がする。

そして、俺の首に掴まっているレティの細い腕に、少しだけ力が込められていた――



「白亜ちゃん、そっちじゃないよ」


「む? そうなのかや?」


「うん」


白亜の後ろを歩いていたトリアナが、そう言って彼女を止める。

東に真っ直ぐ歩いていたはずだが。いつの間にか方向が変わっていたのか、俺にはわからなかった。


「じゃが、あっちの方から人が住んでいる匂いがしてくるのじゃ」


「そっちにあるのはエルフの村だよ。ボクたちが向かっているのは、人間の街だからね」


この森から南東の方へ向かうと、エルフの集落があるとトリアナは言う。

人間の街は森の中にあるのかと、彼女に聞いたら。隣接しているだけで、森の中ではないと教えられた。


あっちの方へ行けば、エルフの村がるのか。

そういえば、エレンさんがアリスやギルさんと出会ったのは、今向かっている街だったっけ。



==============================================



「ここがルシオールか」


色々と考え事をしながら、一時間ぐらい歩いていると。街にたどり着くことが出来た。

トリアナと白亜のおかげで、魔物に遭遇することはなかったが。暗い森を歩いていたので、思ったよりも時間がかかってしまった。


「止まれ。こんな時間に、この街に何のようだ」


街の入口付近で、門番の衛兵に俺たちは呼び止められる。

俺は懐からギルドカードを取り出して、衛兵に渡した。


「バルトディアの、Cランク冒険者か」


「通行料を払えば、入れますか?」


「普通ならそれで問題はないのだが……」


衛兵のおっさんが言うには。ここ最近は、ラシュベルトと獣人たちの争いが噂になっていて。

警戒が厳しくなり、獣人をこの街入れることは難しいと言われる。

最初は、白亜のことを言われているのかと思っていたが。俺が創ったネコミミのせいで、トリアナとレティが獣人だと勘違いをされているようだった。


「すみません。それ、付け耳なんです」


「つけみみ……?」


「そうだよ」


「おぉ……すごいな……」


俺がトリアナに視線を向けると、彼女は頭に付けていたネコミミを外して衛兵に渡す。

衛兵のおっさんは、そのネコミミをまじまじと見て。驚きの声を漏らしていた。


「そっちの娘も人間なのか?」


「うん、そうだよ。しっぽがないでしょ?」


「たしかに」


トリアナに尻尾がないと言われて、衛兵のおっさんがレティのお尻の辺りを見て。

俺は少しだけ不快な気分になったが、別にいやらしい事をされているわけではないと、自分に言い聞かせて我慢した。


「通行料金は一人500ゴールドで、全部で1500になるが構わないか? ペットの分は必要ない」


「ペッ……」


「うん?」


「ク、クーン……」


衛兵のおっさんが俺たちの人数を数えて、白亜の分は必要ないと言われ。

彼女は、ペット扱いをされたことに何かを言いかけたが。おっさんが白亜の方を見たので、鳴き声を出して誤魔化してくれた。


「それじゃ。はい」


「いいだろう」


ギルさんから貰ったお金をトリアナが払い。俺たちは街に入れてもらうことが出来た。


「街には宿屋が三件ほどあるが、北にある所が一番安いぞ。あとは、魔術師ギルドの横にある飯屋がオススメだ」


このおっさんは人がいいのか、聞いてもいないことを色々と教えてくれる。

しかし俺たちは、ギルさんに教えられた、アリスのお祖父さんの家に行くので。宿屋には向かうつもりはない。


「ありがとー」


トリアナが衛兵のおっさんにお礼を言って、俺たちは街の中へと入っていった――



「トリアナ」


「なに? クロちゃん」


俺は歩きながら、衛兵が言っていたことが気になり。彼女に質問をする。


「さっきのおっさんが、魔術師ギルドとか言っていたが。この世界じゃ、魔導士ギルドじゃないのか?」


「んーっと。この世界では、両方あるよ」


「両方? 違いは何だ?」


「えっとね……」


トリアナ曰く。中央大陸にあるバルトディアを境に。

西の大陸では魔導士ギルドが。そして、東の大陸には魔術師ギルドが、それぞれの大陸で覇権を握っているらしい。

魔導士は、魔導具を用いり魔法を使うそうだが。魔術師は、魔道書などを媒介にして魔法を唱えるそうだ。


「どっちも大差なくないかそれ?」


「そうなんだけどねー」


道具が本になっただけで、ほとんど変わらないと思うが。

長い歴史の中で、魔導と魔術の対立が起こり。

いつしか派閥が出来上がり、それぞれの大陸に分断されたそうだった。


「人間は、どうでもいいような事で、簡単に争い合うのじゃ」


そんな白亜の言葉に、俺は何も反論することが出来なかった――



「ここか」


「そうだね」


ギルさんから教えられた家に辿り着いた俺たちは、門に書かれている家紋を確かめる。

バーンシュタイン本家ほど大きくはなかったけど、屋敷には庭もあり中々の大きさだ。


俺はトリアナに、自分のポケットから鍵を取り出してもらい屋敷の中に入る。


「けほっけほっ……」


「ほこりがすごいな……」


ギルさんが税金を払っていたとの事だったが。長らく人が住んでいなかったので、家の中で埃が舞いあがる。

獣人の白亜はそれがキツイのか、咳をしながら涙目になっていた――


「掃除しちゃう?」


「朝になっちまうだろ。とりあえず、レティが寝られる場所を探そう」


「りょーかい」




これなら宿屋のほうが良かったんじゃないかと思いながら。

俺たちは、家の中で寝られる場所を探し始めた――

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