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第96話 シスコン

「らぁぁぁぁ!」


「ぐぅぅぅ……」


白い仮面の男が振り下ろした大剣を、自らの盾で防いだが。たったそれだけで俺の左腕が痺れた。

頭から足元まで防げる大盾で、左半身を使って支えているのに。男の両腕だけで俺は吹き飛ばされかける。

こちらに飛びかかってきた初動が早過ぎる上に、とんでもない馬鹿力だった。


「でやぁぁぁ!」


「ふんっ」


俺は盾に隠れながら、右手の剣で男を突き刺そうとしたが。

男は腕についている籠手だけで、それを振り払う――


「くそっ」


その時男が大剣の力を緩めたので、俺はそれを切っ掛けに男から距離を取る。


何だよこのバケモノ……

強いなんてレベルじゃないぞ。もしかしたら、黄竜よりも強いんじゃないのか……


黄竜の時は、魔法の障壁みたいなのに阻まれていたが。つけ入る隙は何度かあった。

しかしこの仮面の男は隙が全く無い上に、黄竜よりも素早い。


「加勢するよ!」


いつの間にかトリアナが、二本の剣っぽいのを両手に持ち。男の背後から斬りかかっていた。


「甘い!」


男はそのひと言だけ喋って、背後も見ずに大剣を背負うような感じで背中に回し、トリアナの攻撃を防ぐ。


「うそ!?」


「子供か?」


薄暗くて見えづらいが、トリアナの驚愕した声と男の疑問の声が聞こえてきた。


この暗い中で、なんでそんな動きができるんだよ。背中に目でもあるのかコイツは。

しかし……どこかで見たことがあるような……?


仮面のせいで声がくぐもっているし。暗いせいで姿もよく見えないが。

俺は仮面の男から、どこか懐かしい空気を感じていた。


どうするべきか……

話を聞いてもらうにしても、レティを危ない目に遭わせたくはないし。

なぜこんなに……怒っているんだろうな……


戦闘を中断して話を聞いてもらいたかったが、仮面の男はなぜか怒っている様な感じなので。まともに話せるような雰囲気ではない。


少し怪我をする程度に制圧して、言葉を伝えるにしても実力差がありすぎる。

それでも何とか話しかけようとしたら、男はトリアナを無視して再び俺に飛びかかって来た。



「グランブレイド!」


「話しをき……がぁ……」


盾を構えたまま語りかけていたら、先程よりもすごい衝撃が走り、俺は吹き飛ばされた。

吹き飛ばされた俺に向かって、男が追撃をかけてくる――


「お兄様!」


「クロちゃん!」


「む……兄? クロ……?」


レティとトリアナの叫び声を聞いた男が、なぜか追撃をやめて立ち止まった。

それからしばらくこっちの方をじっと見て――


「よく見えんな……」


おい……

見えていないのかよ……

しかし今が……チャンスか?


男は今までとは違い殺気のようなものも全く無く、剣の構えすら解いていた。

罠ではなく、本当に隙だらけだったので。今なら反撃できると思い、持っていた剣に力を込める。

そして立ち上がって、俺が男に向かっていこうとした瞬間――


「おい。ちょっと待て」


「え?」


男が自分の大剣から手を離して、顔につけていた白い仮面を外した。



「お前もしかして……坊主か?」


俺のことを坊主なんて呼ぶ人は、今のところ二人しか居ない。

そしてこの男と戦っていると、どこか懐かしい感じがしていた。

俺は明かりの魔法を使って、その男の姿をよく見た――



「ま……まさか……ギルさん……?」


「おうよ! やっぱり坊主じゃねぇか。久しぶりだな!」


「なんで襲ってきたんですか……」


「なんじゃ。知り合いか……」


白い仮面の男の正体は、俺がこの世界にきて最初にお世話になった、アリスの兄のギルバートさんだった――


相手がギルさんだとわかった安堵感と、緊張の糸が途切れたせいで俺は地面にへたり込む。

俺の後ろでダマ爺さんが警戒を解き、ギルさんの後ろに居たトリアナも俺の所へと戻ってきた。


「ハッキリとはわからなかったが、坊主がオッサンを襲っているように見えてな」


「あー……」


俺が剣でツンツンと突いてるのを見て、仲間が殺されると思ったので攻撃してきたらしい。

この仲間のおじさんは、どうやらギルさんの友達で、一緒にレティを助けに来たそうだ。


白い仮面をかぶっていたのは、正規の依頼ではなく。獣人の国に居た時に、友人から個人的に頼まれて。他の兵士に見られないように顔を隠したかったと言われた。


「坊主によく似た戦い方をする奴だと、思っていたが……」


ギルさんも闘いながら、俺と似たような事を感じていたみたいだった。


「近づいた時、すぐに俺だってわからなかったのですか?」


「だって髪の色が違うじゃねぇか。どうしたんだ? その頭は」


「あ……」


そうだった……

髪の色を変えていたことを、すっかり忘れていた……


ギルさんと一緒に居た時は黒髪で。今の俺はルナと同じ銀髪に変えていたのを、すっかりと忘れていた。

とりあえず、悪い奴に間違えられそうになったので、魔法を使って変えたと説明する。


「そうか……色々あったんだな」


「はい」


「それにしても……手加減しなくても、俺と張り合えるようになったか……強くなったな、坊主」


「そうですかね」


めちゃくちゃ押されまくっていたけど……

手加減無しだとこんなに強いのか。遠いな……


そんな事を心の中で思っていたら、ギルさんとレティが自己紹介をしていた。

お互いの名は知っていたみたいだが、二人とも初対面だったらしい。

簡単な自己紹介が終わったあと、ギルさんが倒れているおっさんを叩き起こす。


「がっ……ぬ……なんだ……?」


「大丈夫か? オッサン」


「ギルか…… む、貴様……」


「ラルフ!」


「はっ!? 姫様!」


ギルさんが、レティにラルフさんの事を教えたので。俺に敵意を向けてきたおっさんを彼女が制止する。

レティが足を踏み外した時、彼女の身体を俺が抱きかかえていから。

それを見た兵士のおっさんは、姫が獣人に襲われていると勘違いしたらしい。

ラルフさんは落ち着いて彼女の説明を聞き、どうやら誤解は解けたようだった。


「申し訳ありませんでした、姫様」


「私ではなく、お兄様に謝ってください」


「はっ! 勘違いをして申し訳ない」


「いえ、こちらこそすみませんでした」


「で……」


「え?」


ラルフさんは謝ったあと、俺の顔に自分の顔を近づけてきて。レティが聞こえないような小声で、お兄様と言うのは何だ? と聞いてきた。

おっさんの迫力に少し押されながら、俺はレティと出会った時の事を簡潔に説明する。


「そうか……世話になったな」


一通りの自己紹介と話し合いが終わり、俺たちは脱出することになった。

砦の表では、ラシュベルトの兵士が結構な無茶をしながら獣人と戦い、収拾がつかないらしい。

このままでは姫が危険だと思ったラルフさんは、一人だけ奥へと突っ込んできたそうだ。

それを見たギルさんがラルフさんを追いかけてきて、さっきの状態になっていた。


表は危険なので、ダマ爺さんが教えてくれた秘密の通路を使い、近くの街まで避難することになった。


「それじゃ。そこへ向かうぞ」


「待ってください」


「どうした?」


「まだ助けていない、仲間がいるんです」


すぐ近くの部屋に白亜が居るので、彼女を助けたかった俺は、ギルさんに説明しようとした。


「まさか、アリスが!?」


「いえ、違い……」


「うおぉぉぉぉ……アリスが獣人の魔の手に!」


「ギルさん!?」


「兄ちゃんが必ず助けてやるぞ! アリスゥゥゥゥゥゥ……」


アリスではないと訂正する俺の言葉を、ギルさんが遮ったと思ったら。

彼は愛しい妹の名前を叫びながら、走り去っていった――


「見事なシスコンっぷりだな……気持ちはわからないでもないが……」


そんな彼を見て、俺はその言葉しか思い浮かんでこなかった。

それに。今の俺にはレティがもしそんな目にあっていたら、同じ行動をしたと思う。




==============================================




「遅いのじゃ!」


白亜を助けに来たら、俺を見た彼女の最初の言葉がそれだった。

俺は謝りながら、白亜が入れられているケージの鍵を外した。

扉が開いた瞬間、彼女は俺の肩に飛び乗り。俺の首に、自分の尻尾を巻き付けてくる。

ケージが置かれていたテーブルの上には、ルナティアとソフィーティアの二丁の銃も置かれていたので、それも取り戻した。


子狐が喋っている事に驚いていたラルフさんに、事情を説明していたら、どこかへと行っていたギルさんが戻ってきた。


ここにはアリスは居ないとギルさんに言ったあと。何人かの獣人たちを蹴散らしながら、ダマ爺さんの案内のもと脱出口を目指す。

そして俺たちは砦の東側の出口から、砦の外の森に出て来た――


「この方角を真っ直ぐ進んで行けば、俺が昔住んでいた街がある」


この砦から東へ真っ直ぐ進んでいくと、ギルさんのお祖父さんが住んでいた街があると教えられた。


「わかりました」


「坊主。姫を頼んだぞ」


「はい」


「俺もできるだけ早く、お前たちの後を追いかけて行く」


ギルさんとラルフさんは、事態を収拾させるためにこの砦に残ると言ってきた。

ラルフさんは、レティの安全と部下の安否を天秤にかけて、ひたすら悩んでいたが。

俺なら信頼できるし任せても大丈夫だと、ギルさんに説得をされて、一緒に残ることになった。


「北には行くなよ。命に変えても、姫様をお守りしろ!」


「は、はい……」


「ラルフ!」


北にあるラシュベルトには、絶対に行くなとラルフさんが言ってきて。レティは、無茶を言ってはいけません――と彼を怒っていた。


「ダマ爺さんはどうするんだ?」


「そうさのう……ここに残っていても、殺されるやもしれぬし」


「わらわたちと一緒に来るがよい。きっと、クロ坊が守ってくれるはずじゃ」


何だその甘そうなお菓子みたいな呼び名は。

まぁ。爺さんには世話になったし、やぶさかではないが。


「ご老人。もしよろしければ、我らに協力をしてもらえまいか」


「協力?」


ラルフさんは、獣王国との戦争に巻き込まれないために。バルトディアにとって、有利な証言をして欲しいとダマ爺さんに頼んでいた。

どちらかと言えばレティは被害者なので。獣人が味方についてくれれば、イルオーネ側の敵意をラシュベルトに向けやすいらしい。


「き、危険過ぎるのじゃ」


「女狐の奸計に引っかからぬためには、手札は多いほうがいいのだ」


「女狐?」


「わらわではないのじゃ」


俺の肩乗っている、白亜の頭を撫でながら疑問に思っていると。

ギルさんが、ラシュベルトを治めている女帝のあだ名だと教えてくれた。


ダマ爺さんは少し悩んだ後。ラルフさんの申し出を受けることにしたらしい。


「ダマ……」


「白狐様。申し訳ありません」


「お主がそれでよいのなら、わらわはもう何も言わぬ」


「はい」


何だこの主従みたいなやり取りは?

いつの間にこんな関係になったんだこいつら。


「白狐様、人間の世界はとても危険です。貴女様が何を為さりたいのかは分かりませぬが。どうか……ご自愛ください」


「うむ。お主も気をつけるのじゃぞ」


白亜がお姫様っぽく見えてきたな……

あぁ。元王女だったっけ。


俺の周囲に居る女の子たちって、魔王女だったり女神様だったり。

挙句の果てには、女勇者にエルフに竜人の巫女に、元王女と現お姫様か。

なんかすげーな……




俺は自分の周りの環境が、どんどん凄い事になっていくような感じを受けながら。

ルナティアとソフィーティアに魔力を充填していた――

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