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第86話 トリアーナとリアトーナ 

最後の方で、別のSideに少し話が変わります。

「うおぉぉぉ!」


和真が剣と魔法を使いながら、次々と攻撃しているが。

黄竜と呼ばれた男は、全ての斬撃を手で払いのけている。


俺もトリアナを背にしたまま、ルナティアとソフィーティアを両手に持ち。

男に向かって遠距離射撃をしているが。男の周りに、薄いバリアみたいな物が張られていて。

和真の魔法と俺の魔法弾は、男に当たる寸前に。全てかき消されていた――


「無駄じゃというのに、よくがんばるのう」


赤竜と呼ばれていた少女が、壁際にある大きな岩の上に座って。

俺たちの戦いを遠目で見学しながら、そんな事を呟く。

少女は、男に加勢する気は全く無いみたいなので。

正直助かってはいたが。状況は有利でも、戦力的には完全に不利だった。


「くそっ 全然歯がたたない……」


「和真」


俺の所にまで下がってきた和真に、小声でそっと会話をする。


「洞窟の中でも、テレポートは使えるか?」


「閉鎖空間では難しいが、出来ないことはない」


「そうか……なら、隙ができたら……トリアナを連れて逃げてくれ」


トリアナの傷は完全に塞がってはいないし、体力も戻ってはいないが。

魔力が向上した俺の魔法で、ここに来た頃よりは大分改善されているはずだ。


「お前はどうするんだ?」


「俺は、奥で囚われているソフィアを助けたら。どうにかして逃げる」


「どうにかって……」


「大丈夫だ。多分俺も、テレポートが使える」


「いつの間に?」


「俺の特技だ。お前の魔法で体感したから、使えるはずだ」


和真が、勇者よりチートじゃないか――と言っているが。

俺も、絶対に使えるという確信を、持っているわけではない。

しかし今までにも、この目で見た魔法はだいたい使えることが出来た。


想像力が大事だから、体験した魔法は使えると思う。

ねがいの魔法というよりも、ものまね魔法みたいになっている気がするが……


「作戦は決まったかね?」


俺がそんな事を思っていると、男がそう声をかけてくる。

圧倒的に有利な立場にいる男は、俺たちがどうやって立ち向かってくるのか、まるで楽しんでいるみたいにも見えた。


「あぁ、待たせたな。次は、俺から行かせてもらう」


「良いでしょう。何処からでもどうぞ」


男が両腕を大きく広げ。いつでも向かってこいと、その態度で示す。

俺は和真を、トリアナのいる場所まで下がらせて。二丁の銃を、自作した腰のホルスターに仕舞う。

そして、男を見ながら。奴を倒せる武器を……強力な武器を……心の中で願った――



俺の魔力が更に高まり。頭の中に、次々と言葉が浮かんでくる……


――魔人殺し―― ――女神の加護―― ――竜殺し―― ――巫女の祝福――



全ての言葉が思い浮かんだ時。俺はその願いを詠唱した――



「魔皇クロード・ディスケイトの名の下に……」


「俺が創造するべき力よ……」


「魔人をも超絶し、真竜すらも超越する力を……」


「女神の想いと、巫女の願いを聞き届け……」


「魔皇の名と魔力を糧とし……」


「俺が倒すべき敵のために、その姿を具現せよ!」


「トリアーナ・クリエイト!」


「リアトーナ・クリエイト!」



武器を創造すると、俺の両の手には、二本の剣が握られていた。

右手には銀色の剣で、その刃の部分には、翼を生やした女性の模様のような物が。

左手には金色の剣で、鍔の部分に、竜のレリーフらしき装飾が施されていた。


「クロちゃん……」


「な、なんじゃ……その魔法は……」


思ったより、ゴテゴテと装飾されているな……

だが軽い。重さを感じないし、振りやすい。


俺を見ていた少女が驚いていたが。俺はその場で、両手の剣を振るう。

ブオンという、大きな風切り音を立てて、剣は軽く振るえた。


「錬成術? でも……あんなに凄い物は……」


「和真! 後は頼んだ!」


俺の後ろで、困惑していた和真にそう言い放ち。俺は走りだす。


「おぉぉぉ……」


俺は叫びながら男に斬りかかる。リアトーナの剣は、男のバリアで弾かれたが。

もう片方のトリアーナの剣が、そのバリアをいとも容易く打ち破り。この戦いで初めて、男が傷を負った。


「ぐ……まさか、こんな事が……」


「黄竜!?」


「はぁぁぁぁ!」


油断していた男が驚愕して、少女が叫び声を上げている。

俺はこの隙を逃さずに。手加減すること無く、男の心臓を突き刺した――


「ぐぁ……ぁ……」


「貴様!」


「エアブロウ・クリエイト!」


「きゃぁぁ……」


あれ? もしかして…… 弱い……?


少女が怒りながら、こちらに向かってきたので。風圧魔法で攻撃したら。

たいした抵抗もなく、少女は簡単に吹き飛んだ。



死んだか……?


仰向けに倒れている男に向かって、警戒をしながら様子を見る。

どうやら死んだようなので。男の胸に刺さっている、トリアーナを引き抜いた――



「クロちゃん」


「蔵人。やったか?」


「おい、フラグを建てるな」


俺は、二人の前まで歩いて行き。余計なことを言う和真にツッコミを入れた。

そして、新しい剣を創ったのはいいが。鞘が無かったので、ひとまず二本の剣を消す。

それを見ていた和真が色々と聞いてきたが。俺は、一刻も早くソフィアを助けたかったので。

和真の言葉を遮りながら、赤竜と呼ばれていた少女に近づいて行く――


少女の方に向かっていく俺に。和真が、そいつはお前よりもレベルは低いけど。一応気をつけろ、と言ってきた。

意外と弱いのかと思っていたが、俺よりもレベルが低いとは思わなかった。


「う……うぅ……」


「おい、起きろ」


地面に転がっている少女の服を掴みながら、ユサユサと揺する。


「うぅ……ひどいのじゃ……やめてたもれ……」


「俺の女を連れ去っておいて……ひどいのはどっちだよ……」


少女のセリフに反論をしながら。俺はふと、少女の変化に気づく。


「あれ? お前、そんな耳と尻尾……生えていたか?」


「なんじゃ?」


一人で起き上がった少女を見ると。頭には獣耳みたいなものと。

お尻の辺りには。フサフサした、大きな尻尾が生えていた。


「あー! 変化の術が、解けておる!?」


少女が自分の頭を触りながら、驚きの声を上げる。


「へんげだと……」


こいつ、竜人かと思ったが……違うのか?


「お前ら何者だよ……」


「わらわは、狐獣人じゃ」


狐だと……しかも獣人かよ。なんで赤竜?


「まぁ、今はそんな事どうでもいい」


「どうでも……」


少女が、何かショックを受けているが。敵の事など気にしてる余裕はない。

俺は少女の頭を、ガシっと片手で掴み。ソフィアの所に案内をしろと命令をする――


「わかった! わかったのじゃ! 案内をするから、頭を掴むのはやめてたもれ」


「蔵人って……たまに性格が、きつくなるんだな」


「うん……そうだね……」


先頭を歩く少女の後ろをついて行きながら。俺の後ろからついて来る和真と、俺に体を支えられながら歩いているトリアナが、そんな会話をしている。

少女は、黄竜と呼ばれていた男の死体を少しだけ眺めていたが。何も言わずにその場から離れて、洞窟の奥へと歩いて行った――



少女に案内された場所は。先ほどの居た所よりも、更に広い場所で。

その中央には、全身を真っ白な服装にした、少年が背を向けて立っていた。


「なんだあれ……」


少年の目の前には、巨大な氷の塊があり。その氷の中に、裸の少女が入っていた。


「赤竜? その人達は誰?」


俺たちの存在に気がついた少年が、こちらに振り返りながら少女に訪ねてくる。


「その女神を助けに来た奴等じゃ」


「黄竜は?」


「黄竜は、この男に殺されおった」


「そう……」


この女もそうだったが。仲間が殺されたのに、反応が薄いな……

む…… あれは……


淡白な反応をする二人を他所に。俺は、少年の横に寝かされているソフィアに気づく。

ソフィアは怪我などはしていなかったが。なぜか全裸にされて、寝かされていた――


「ちょ おま……」


「なに?」


「何? じゃねぇよ! なぜソフィアを裸にしているんだよ!」


「別に、僕が脱がせたわけじゃないよ?」


「そういう事じゃねぇよ! 俺ですら……まだ見たことなかったのに!!」


「え? そっち?」


俺は、慌ててソフィアの元へと走って近づく。俺が近づくと、少年は少しだけソフィアから離れる。

そして、ソフィアの側に来て気づいたが。ソフィアの体の周りに、気持ち悪い触手みたいなものが、ウネウネと蠢いていた。

その触手を見て、俺は少年を憎たらしく睨む――


「おい……まさか……」


「やめてよね、変な想像するのは。その女の魔力を貰っただけで、変な事はしていないよ」


俺が何を考えていたのか分かったのか。少年は、俺が喋り切る前にそれを否定する。

その言葉を聞いた後。俺はソフィアに、自分が来ていたコートを着せて、抱きかかえる。


「ソフィアちゃんは、だいじょうぶみたい」


「お、俺は見てないぞ!」


二人の所へと戻ると。トリアナが、ソフィアの体を調べてそう言い。

和真は顔を逸らしながら、紳士みたいな言葉を口にしていた。


「服が消えたのは、魔力を大量に消費したせいだね」


「そうか……」


そう聞いて俺は安堵する。そして和真に向かって、頼みごとを聞いてもらう。

それは。トリアナとソフィアを連れて、先にバーンシュタイン邸に帰ってもらうことだ。

少女と少年は、俺たちに敵意を向けてきてはいないが。ここは、決して安全だとは言えない。


和真は少し戸惑っていたが、了承してくれた。

トリアナは、俺と一緒に居たいと言ってきたが、俺はそれを拒否する。

俺の言葉に、トリアナが渋々と納得した後。俺は少女たちに近づいて行き、何者なのかを尋ねた。


「そっちの女神に聞けばいいじゃないか」


「そうじゃな。そのおなごなら、わらわたちの事を、知っておるのではないかえ?」


そう…… だな……

トリアナなら知っていそうだし。もう、こいつらと関わるのはやめておくか。


そんな考えに至り、俺はトリアナたちの方に振り返った。

直後――



「がはっ……」


背中と腹部に痛みが走り、俺は血を吐き出した――


「クロちゃん!」


「蔵人!?」


な……

なんだ……これは……


「いけませんねぇ……油断し過ぎですよ……」


「黄竜!?」


「生き返るのが、意外と早かったね」


俺の後ろに居る奴に向かって、少女が驚いた顔をして。少年がそんな事を言っていた。


「いぃぃぃ……がぁぁぁ……」


自分の腹を見て、手で貫かれていると気づいた時。言葉にならない激痛が走る――

そして……男が俺の体から手を抜き、俺は地面に倒れ込む。地に伏せられた俺は、全力で回復魔法をかけ続けた。


「クロちゃん!」


「かずまぁぁぁぁ!」


「っ……テレポート!」


「だめ!」


俺が言いたかった事を、理解してくれた和真は。テレポートで逃げてくれた。

しかしトリアナが、そんな和真から離れて。俺とともにこの場に残ってしまう。


「ぐぅ……なぜ……逃げなかった……」


「クロちゃん! クロちゃん!」


トリアナは、俺の言葉が聞こえていないみたいで、必死で俺の名前を叫んでいた。



「な、何も……殺すことはないじゃろ」


「甘いよ赤竜。こんな奴等、殺して当然じゃない」


「そうです。私たちの邪魔をする者は、生かしておくべきではありません」


頭上から、三人のそんな会話が聞こえてくる。


ぐぅ……

クソっ…… マズい……

トリアナを連れて逃げたいが…… 魔法に…… 集中できない……


体に走る激痛から、魔法に集中することが出来ず、視界も霞んでくる。



「まぁ、彼の魔力は。ちゃんと頂きますがね」


「これでやっと、青竜が復活するね」


「ぐぁぁぁぁぁ……」


その言葉が聞こえてきた時、俺の魔力がどんどん吸われていく感じがした。


「クロちゃんをはなせぇぇぇぇ」


「はぁ……邪魔をしないでよね」


「あぁぁぁぁ……」


少年のため息が聞こえたあと、トリアナの悲鳴が聞こえる。

俺は何とか力を込めて、視界を塞いでいた瞼を上げた。

そして……俺の視界に飛び込んできたのは、横たわるトリアナの姿だった――


――ドクン――


トリアナ……?


「あれ? アッサリ死んじゃった?」


トリアナが……死んだ……?


――ドクン―― ――ドクン――


「あ……あぁ……ぁ……」


なぜ…… 俺には…… 力がない……


――ドクン――



――力を求めるのか――


誰かの声が、聞こえてきた。


求める……

何者にも負けない…… 力を……


――例えそれが、人間を超える力だとしてもか――


そうだ…… 彼女を助けられるなら俺は、どうなってもいい……


――ならば願うがいい、我の力を――


――己の中にある、我の存在を――


――認めよ――


俺は……認める……

トリアナを……絶対に助ける……


「あぁぁぁぁ……リアナァァァァ!」


「何!?」


「なんじゃこの、膨大な魔力は……」






==============================================






魔大陸中心部


――魔王城――


「なによ……この魔力は……」


「魔王様……」


魔王と呼ばれた女性が、城のバルコニーに出て。驚きの声を上げている。

その女性の隣りに居る、老いた魔族が。言葉を続ける――


「まさか……魔神が、復活した……?」


「魔神が復活!? これが、魔神の魔力……勝てるわけないじゃない、こんなの……」


老いた魔族の言葉を聞き。女性はその顔を、絶望の色に染め上げた。


「それは早計です。ガラテアに封印されている魔杖があれば。魔王様は、さらに強くなれます」


「本当なんでしょうね、それは」


「そうです」


「でも貴方たち、人間の勇者に。やられっぱなしじゃない」


「そ、それは……」


女性の言葉に、老いた魔族はひどく動揺している。

そして女性が。何とかしてよ、ほんとにお願いよ――と言うと。

老いた魔族は、力なくその言葉に頷いていた――






==============================================






聖王都ガラテア


――聖女の自室――


「クロ様……」


自分の部屋で紅茶を飲んでいた聖女が。椅子から立ち上がり、不安そうな顔を女勇者に向ける。

女勇者は。聖女の言葉を無視して、部屋の窓から顔を出し。南西の方角にその視線を向ける――


「この波動……まさか……冥王……?」


女勇者のその言葉を聞いた聖女が、己の体を震わせた。


「そんな……こんなに強い……力なんて……」


聖女が怯えているのに気づいた女勇者は、聖女の体を抱き寄せて、安心させるように言葉をかけていた。


「確かめる必要があるわね」


聖女の体を抱き寄せながら。

女勇者は。彼女が聞こえないような小声で、そう呟いた――

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