第84話 魔人
「ここで会ったが百年目! 勝負だ! 魔皇!」
ルナの顔を見たあと、俺の顔を見て、勇者がそんな事を言い放つ。
勇者の横に居た貴族は、話しについていけずに、首を傾げていた。
「俺に気づいて、開口一番がそれかよ。別に俺は、お前の仇じゃないぞ」
「確かに。何となく言っただけだが、俺の敵であることには間違いない!」
あぁ……
やっぱり、顔を見せるとメンドクセーなこいつ……
勇者が、自分の腰に挿してあった剣を抜いて、俺に敵意を向けてくる。
ルナの事は、魔王だとわかっているはずだが。ルナを倒そうとはしないだけ、まだマシだった。
「おい、カズマ。説明しろ、どういう事だ?」
「今日こそ倒してみせる。覚悟しろ、魔皇!」
横の男を無視して、勇者が、俺に剣を突きつけながら宣言する。
勇者に無視された男は、拳に息を吹きかけたあと、勇者の頭にゲンコツをした――
「痛い! 何をするのですか!?」
「俺の話を聞かないお前が悪い」
男に殴られた勇者が文句を言っていたが、男が再び握りこぶしを作ったため、勇者は大人しくなる。
そして、男が勇者に説明を求めて、勇者が、俺とルナの事を一から説明をしていた。
「魔王だと?」
「そうです。勇者の俺の敵です」
「アホかお前は」
「え?」
「よく考えろ。魔王の恋人を、魔族が誘拐するとか。おかしいだろ?」
「そ、それは……部下に裏切られたとか……じゃないですかね?」
「魔王の部下なら、そのまま攫えばいい。わざわざ、人間を利用する必要が無いだろ」
「う……」
男にそんな事を言われて、勇者はぐうの音も出ない様子だった。
そして、勇者が大人しくなって、男が俺に向き合い、話しかけてくる――
「カズマから事情は聞いた。それと、迷惑をかけたみたいで、悪かったな」
「いえ、大丈夫です」
「それで――お前は魔族なのか?」
「俺は人間ですよ」
「だよな」
嘘は言っていない。ルナは怖がっているのか、俺に抱きついてくる。
そして男は、少し話をしたあと、まだ名乗っていなかったな――と言って、自己紹介をしてきた。
「エドワード・アドルフ・ヴァンデミオンだ。一応、この国の国王の、兄でもある」
「は……?」
国王の……兄……?
エレンさんから、この国の国王の、親族だとは聞いていたが……
めっちゃ王族じゃん。ていうか……この人、王子じゃね?
しかも、弟が国王ってなんやねん。普通、こっちが王様になるんじゃねぇの?
男の言葉を聞いたあと、俺は、頭の中で錯乱していた。
心なしか、頭の中の自分の言葉も、おかしくなっている気がする。
「めんどくさいから、弟に王位を譲ったんだ。俺は自由に生きたいからな」
顔に出ていたのか。エドワードさんは、俺に説明をしてきた。
「クロード・ディスケイトです」
「さっき俺に名乗った名前は、偽名だったのか」
名乗り返したら、勇者が俺のことを睨んでくる。
「別に偽名じゃないぞ、蔵人は、俺の日本人名だ」
「え? お前、日本人だったのか!?」
「ニホンジン? なんだそれは?」
俺が正直に言った言葉を聞いて、エドワードさんが分かっていない様子で、それを勇者が説明していた。
「ほう。お前も、異世界人なのか」
「そうです」
「なぜ魔皇なんだ?」
「知らん。気づいたら、その称号がついてた」
エドワードさんの言葉の後に、勇者が尋ねてきたので、俺は本当のことを答える。
勇者は、犯罪を犯したのか? 何てことを聞いてきたりしていたが。
犯罪を犯したら、犯罪者ってつくんじゃねぇの? と返したら、そうだよな……と納得していた。
称号が、どんな条件でつくのか知らないし。他人のステータスを見れない俺は、悪いことをしたら、その称号がつくのかも知らない。
その後も、二人は俺にいろいろと聞いてきたが、早くソフィアたちを助けたかったので。
話を無理やり終わらせて、ルナを連れて屋敷に戻った――
「ルナ。風邪を引いたらいけないから、お風呂に入らせてもらえ」
「ん……わかった」
ルナがうなずいて、風呂場に向かうのを見届けたあと。
勇者とエドワードさんに話して、俺は出かけることにする。
「それじゃ、俺は恋人を助けに行くので。後は、アルベルトさんと話してください」
「あぁ、わかった」
俺の言葉を聞いて、エドワードさんは屋敷の奥へとズカズカと歩いて行った。
歩いて行っている途中で、エドワードさんがエリスさんと遭遇して。エリスさんが物凄くビックリしていた。
そしてなぜか、勇者はこの場から動かずに、俺と一緒に居る。
「お前は、行かないのか?」
「俺? 俺はお前を手伝うぞ」
「へ……?」
勇者の意外な言葉に、俺は、素っ頓狂な声を出してしまった。
当然の事だろ……と言う勇者に、戸惑ってしまう。
「どんな……心境の変化だ?」
「お前が魔族じゃないのなら、勇者として、問題無いだろ」
「それは、そうだが……」
「同じ異世界人同士だ、俺は手伝いたい」
「そうか……ありがとう」
その言葉を聞いて、素直に嬉しくなる。
熱血で、めんどくさい奴だが。俺の味方になってくれるなら、頼もしいかもしれない。
「俺の事は、和真と呼んでいい」
「わかった。なら俺の事も、クロードでいい」
「そっちの名前でいいのか?」
「あぁ。この名前で、転生したからな」
転生という言葉を聞き、勇者は、召喚でこの世界に来たんじゃないのか? とか聞いてきた。
前世で死んで、生まれ変わったと伝えて。称号にもあるはずだ、と言ったら。
お前についている称号が多すぎて、まったく気づかなかったと言われた。
転生者の称号は、一番最初についていたはずだが……
俺と和真じゃ、ステータスの見え方が、違うのかもな。
俺は和真に行き先を伝えて、馬車があるので、それで向かうと言ったら。
和真は、その場所なら前に行ったことがあるので、テレポートで行けると言ってきた。
「そんな便利な魔法があるのかよ……」
「勇者の専用スキルだ」
「勇者チートすぎだろ……」
「便利だけど、デメリットもある」
「デメリット?」
「空間は飛べるけど、時間を飛べるわけじゃないからな」
「どういう事だ?」
「たとえば、遠い場所まで飛ぶ時は。朝にテレポートしたのに、目的地に着いたら夜になっている。何てこともある」
「なるほど……」
空間を飛んだりすると、それ相応の時間が過ぎるのか。
俺の魔法なら、時間を気にせず飛べそうだが……あまりやりたくはないな。
黒斗が使った時みたいに、生命まで持っていかれたくはない。
まぁ、黒斗の場合は……規模が、かなり違ったが……
そして、和真がテレポートを使うとき。自分の手を握ってくれと言ってきたので。
男同士で、手を握り合いたくなかった俺は、パーティを組めばいいんじゃないのか? と聞くと。
ゲームじゃないんだから、そんな事出来ないだろ――と冷静に言われた。
確かに、ギルドの仕事をしているときも、パーティの申請など無かったし。俺たちは普通に旅をしていた。
もしかしたら、意外と俺は、ゲーム脳なのかもしれない。
たぶん……魔法とかステータスとか、色々やっていたせいだな、うん。
そんな事を思っていると、何かの光で視界が眩しくなり。目の前が見えなくなった。
まぶしい光が収まったあと、俺は、来たことのない場所に転送していた。
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和真のテレポートで辿り着いた先は、大きな石がゴロゴロと転がっている、川辺だった。
「ここは?」
「前に俺がキャンプをしていた場所だ。応竜の祠はこの先にある」
「応竜の祠? なんだそれは?」
「よく知らないけど。遥か昔に、竜の神を祀っていた場所だと、エドさんが言ってたな」
竜の神……竜神のことか?
エドワードさんの呼び方が、フレンドリーになっている和真から。歩きながら、色々と説明を聞く。
俺がトリアナから聞いた、竜人の始まりの話は、人々には伝わっていないみたいだが。
竜の神と呼ばれる存在が居た事だけは、伝承として、僅かに残っているらしい。
竜神が安らげる所と呼ばれていた場所が、その祠なのかはわからないが。
ずっと昔から祠が存在していて、今その場所は、洞窟になっているそうだ。
和真に案内をされて、その洞窟にたどり着く。洞窟の前には、俺が見た、竜の石像があった。
「ここか」
「あぁ。亜竜は討伐したから、危険はないと思うけど。気をつけろよ」
「亜竜?」
和真が数年前に、この辺りで暴れまわっていた亜竜を相手に、腕試しをしたと言ってきた。
勇者として強くなるために、色々な場所で魔物退治をしていたそうだが。
強くなる度に手応えが無くなっていき、エドワードさんに相談した所、亜竜退治を勧められたらしい。
街の人の役に立てるし、強くもなれるから、一石二鳥だと言って。大勢の城の兵士とともに、亜竜を退治をしたという。
「流石に強かったな。ドラゴンなんて余裕だって、軽い気持ちで引き受けたが……」
今でも後悔している――と和真は言う。この世界に来た時は、ゲーム感覚で次々魔物を討伐し。
亜竜の討伐も軽い気持ちで引き受けたが、一緒に来た兵士が次々と死んでいき。
和真自信も、大怪我を負ったそうだ。亜竜は何とか倒せたが、勇者の名の重さと、命の重さを自覚したらしい。
「勇者ってのも、大変なんだな……」
俺のその言葉を聞き、和真は笑って、それが俺の使命だ――と明るく言い放った。
チャラい男だとか思っていたが、そんな風な態度をしないと。
この世界では、生きづらかったのかもしれないな……
俺たちはそんな会話をしながら、洞窟の中を進んでいった――
「む?」
「あれは……」
先頭を歩いていた和真が、何かに気づいたので。
俺も前に出ていき、少し開けた広間の地面に、何かがあるのに気づく。
よく見てみると、それは人のようなものが倒れていた。
「女性……? まさか、ソフィアか!?」
近づきながら確認していると、女性が倒れているみたいだったので。
ソフィアなのかと思い、俺は慌てて駆け寄った――
「探していた、恋人か?」
「いや……違う。けど……」
倒れていた女性は、ソフィアではなかったが。
いつかどこかで、見たことがあるような気がした。
「う……うぅ……」
「大丈夫か? しっかりしろ」
俺たちの存在に気づいたのか、女性は声をだしながら目を覚ます。
女性の体をよく確認すると、全身が酷い傷だらけだったので。
俺と和真が慌てて、回復魔法を女性に唱えた。
そしてその女性は、いつもの姿とは違うが。俺のよく知っている人だった。
「う……クロ……ちゃん」
「な……まさか……トリアナか!?」
「クロちゃん……にげて……ここに居ちゃ……だめ……」
「トリアナ?」
占い師の時とは、違う姿のトリアナが、傷だらけで瀕死になっていて。
回復魔法を唱えている俺に向かって、必死で逃げろと言ってきた。
「お前を置いて逃げるわけ無いだろ、必ず助ける!」
「だめだよ……ボクたちの事はいいから……にげて……いまのクロちゃんじゃ……あいつらには勝てない」
ゴホッゴホと血を吐きながら、トリアナが俺にそう伝えてくるが。
ソフィアもトリアナも、見捨てて逃げることなんて、俺には出来ない。
和真も俺の横で、トリアナに向かって、俺も居るから大丈夫だと言っている。
「そんなに強い……魔族だったのか?」
「ちがうよ……魔族じゃなかった……」
「なんだと?」
俺の言葉を聞いたトリアナが、つらい顔をしながら、それを否定する。
そして再び、相手は誰なのかと質問をした俺に、トリアナは、俺が知らない言葉を言った――
「魔族なんかじゃなくて……魔人族……だったの……」
魔人族だと……
なんだそれは……聞いたことがないぞ。
「魔人族? 知らないな……人間、なのか?」
勇者である和真も、その名前は聞いたことがないみたいだった。
「それは……」
「今はいい、喋るな」
血を吐き出しながら、言葉を続けようとするトリアナを、俺は制止する。
俺と和真が、ひたすら回復魔法をかけ続けているが。トリアナは、一向に回復していなかった。
くそっ……
なぜ治らない……俺の力が足りないのか?
「魔法が効いていない? なぜだ!?」
俺と同じく、和真の回復魔法も、トリアナに効果がないみたいだった。
「ごほっごほっ……もう……むりだよ……魔神の力で……作られた武器で……傷つけられたから……」
「魔神だと……?」
「うん……魔人族は……魔神の……末裔なの……」
「魔神……何なんだそれは……」
「魔人族の狙いは……ボクとソフィアちゃん……だから……クロちゃんは……逃げて……」
「そんな事出来るわけ無いだろ!」
混乱している和真を他所に、トリアナは俺に向かって、涙を流しながらひたすら悲願する。
俺は、全く効果がない自分の回復魔法に、苛立ちを隠せないでいた――
「北に向かえば……勇者が助けてくれるから……にげて……クロちゃん……」
「もう言うな……お前とソフィアを見捨てるなんて、俺には出来ない」
「クロちゃん……」
もっと……強い力を……
ねがえ……何でもいい……トリアナを助ける力を……俺にくれ!
――ドクン――
「お別れは、済んだかね?」
「っ……!?」
「誰だ!?」
俺が心の中で、トリアナを助けたいと願っていると。
洞窟の奥の方から、男の声がしてきて、その姿を見せてきた――
俺は、トリアナから手を離さずにいたが。和真は回復魔法を中断して、男に向き合う。
洞窟の奥から出てきた男は、全身を黄色い服装で揃えた、派手な格好をした奴で、人間にしか見えない男だった――
魔人←まじん
魔神←ましん
です。紛らわしくて申し訳ないです。




