第83話 二人の友情のために
バーンシュタイン家の屋敷に戻った俺は、アルさんの部屋に来ていた。
アルさん達は。ルナから、アリスが行方不明になったと聞かされて、気が気でなかったようだった。
俺がアリスを無事に救出してきたら。皆に感謝され、エリスさんはアリスに泣きながら抱きついていた。
「こんな事になってしまい、本当に申し訳ない」
「頭を上げてください、アルベルトさん」
話をし終えてから、アルさんはずっと俺に謝っている。
アリスの過去にあんな事があったので、警戒をするのが普通なのだが。
アルさんが当主になってからは、グラブネル侯爵家とは繋がりを完全に断っており。
城で行う、重要な貴族会議などで、顔を合わせることはあっても。
ここ数年は、あの変態貴族と、まったく関わってはいなかったみたいだった。
変態貴族の方も、アルさんたちの父親が死んでからは、この家に来なくなったし。
アリスが居なくなってからは、この家の住人に、執着らしきものを持っていなかったらしい。
エリスさんも若い方なのに、なぜ、アリスだったんだろうな……
「この家に衛兵が居なかったとはいえ、護衛くらいは雇うべきだったな……」
「そうだね……私たちの、完全な落ち度だ。クロード君、アリスちゃんを守ってくれて、ホントにありがとう」
「いえ。当然の事ですから」
アルさんの横に居た、アッシュさんとカイさんも、謝りながらお礼を言ってくる。
当主が交代した時、政略結婚などで、一緒に住んでいた兄妹が減り。
バーンシュタイン家の世話をする、執事やメイドたちくらいしか、この家には居ないらしい。
当主のアルさんには護衛が居るが、城から派遣される兵士なので、アルさんが外出する時くらいしか、雇わないそうだ。
「それで、アル兄さん。ソフィアちゃんの行方の方なのだけど」
カイさんが俺と話をした後。ソフィアについて、アルさんに話しかける。
ソフィアの事を聞かれて、アルさんは少し厳しい表情を見せた。
「私ができる最大限の手段で、捜索をしていますが……彼女の行方は、まだ不明です」
「その魔族ってのは、グラブネル家の馬車を使っているんだよな? そっちの方はどうなんだ?」
アッシュさんが、馬車についてアルさんに質問をすると。
馬車はこの街から出て、少し南に下った所にある街道に、乗り捨てられていたらしい。
馬車を動かしていた御者も、行方不明だと言われた。
南か……
方向さえわかれば、俺の魔法で探しやすくなるかもしれない。
魔族が相手だとしても、トリアナとソフィアは女神だから、少しは大丈夫だとは思うが。
サティナとは違い、二人は戦うことができるけど、油断はできないな。
「俺は、二人を探しに行ってきます」
「大丈夫なのかい?」
俺が決意をして、三人に話しかけると、カイさんが心配をしてくる。
俺なら魔法で探せるし、トリアナとソフィアは戦えるので、三人居れば逃げることも出来ると伝えた。
アルさんは、力になれなくて申し訳ないと、再び謝ってきて。アッシュさんは、油断するなよ――と言ってきた。
そして、三人に話をつけて、アルさんの部屋から外に出ると。
アルさんの息子のアレンが、俺を罵倒しながらこっちに向かって来た――
「ばかやろー! なんでソフィアおねえちゃんを、守らなかったんだ!」
「…………」
目の前に居るアレンが泣きじゃくりながら、俺の腹を両手でポカポカと殴ってくる。
俺が何も抵抗をせずに殴られていると、エリスさんとアリスが俺たちのところに来た。
アリスがアレンに向かって、俺を殴るのをやめてと言い、エリスさんはアレンを慰めていた。
「アレン……貴方の気持ちはわかるけど、貴方以上に、彼だってつらいのよ」
エリスさんにそう言われて、アレンは涙を拭きながら俺の顔を見る。
最初は俺の顔を睨んでいたが。俺が、情けない顔をしていたのか。
アレンは俺を睨むのをやめて、その表情が少し沈んだ――
「クロード……」
「そんな顔をするな、ソフィアとトリアナは、俺が必ず助ける」
アリスが悲しそうな表情を見せてきたので、安心させるようにそう言った。
「アナタも……ヒドイ顔を、しているわ」
そう言いながら、アリスが俺のことを抱擁してくる。
出来るだけ、そんな表情をしないようにと思っていたが。
アレンに文句を言われてから、気持ちが顔に出てしまったようだ。
「ありがとう。アリス」
「私も手伝いたいのだけど……」
「それは、我慢してくれ」
「うん……今は……アナタの、足手まといにしかならない」
「いつか、強くなってくれればいいさ」
「うん。絶対に……強くなってみせるから……」
魔族に手も足も出なかったアリスは、悔しそうな顔をしていたが。
これからは絶対に強くなると言い放ち、俺の体から離れた。
「それじゃ、言ってくる」
「気をつけて」
「ぜったい、ソフィアおねえちゃんを助けろよ!」
「あぁ、任せろ」
二人にそう言って、俺は屋敷から出て庭の方へと向かった――
庭に着いた俺は、さっそく魔法を使い、二人の行方を探す。
外はかなりの雨が降っていたが、全身が濡れるのも気にする余裕はない。
ルナの時は、あの魔導士の結界と、俺の魔皇の力が邪魔をしていたみたいだが。
今は、探す対象は女神だ。結界さえなければ、探せると思う……
絶対に見つけてみせる…… ねがえ…… 俺が願えば……必ず叶う!
俺は神経を研ぎすませながら、ねがいのまほうの力を使う。
しかし、魔法は発動したが、頭の中に霧がかかったようになって。二人の行方はわからない。
それから二十分くらい魔法に集中していたが、全く手掛かりが得られなかった――
くそ……
俺の力は、この程度なのかよ!
二人が見つからない悔しさから、地面に這いつくばり、拳を叩きつける。
なにが……創造神の力だ……
この程度の願いすら叶わない……
全く役に立た無いじゃねぇか……クソッタレ……
――ドクン――
「ん……? なんだ……?」
自分の力に向かって愚痴をこぼしていると、自分の心臓の音が高鳴った気がする。
そして、前世の夢を見た時の事を思い出し、猛烈に嫌な予感がした――
「まさか……黒乃か?」
ソフィアが危ない目にあっているのなら、再び黒乃の感情が目覚めてもおかしくはない。
しかし黒乃の声は聴こえてこないし、俺が怒りに飲まれるような感じもしていない。
気のせい……か?
「クロ……」
「ルナ……」
地面から立ち上がり、自分の胸を見ていると、ルナが屋敷の中から庭に出てきた。
「どうした? 中に居ないと、風邪を引くぞ」
「ソフィを……たすけて……」
ルナが俺の側に寄って来て、そう願ってくる。
「ソフィアは、敵じゃないのか?」
「ちがう……」
沈んだルナの気持ちを上げようとして、そんな事を言ったが。
ルナは俺の顔を見ながら、それを否定する
「そうか……」
そんなルナを抱き寄せて、安心させるように頭を撫でた。
「必ず助けるさ」
「ソフィは……」
「うん?」
「ソフィは……はじめてできた……わたしの……ともだちだから……」
ルナは、俺が知らないところで、いつの間にかソフィアと友達になっていたらしい。
いつも二人が言い争っている場面ばかり見ていたが。ソフィアから、友だちになろうと言われて、ルナはそれを承諾したとの事だ。
その話を聞いて、俺は凄く嬉しくなった。魔王と神王……立場的には、敵対者ではあるが。
その立場を超えて、二人が仲良くなったのなら、俺は二人の友情のために、力になりたい。
「友達か……」
「うん……」
「そうだな。ソフィアは絶対に助ける。だから安心しろ」
「クロ……」
「魔族と神族が仲良くするのは、神界にとっては、悪い事なのかもしれないが……そんなの関係ないさ」
たとえ、魔族や神族が敵になろうとも……
ルナもソフィアも、俺の大切な存在だから、必ず護ってみせる。
――ドクン――
おい……
またか……いったい何なんだ……
ルナの話を聞いて、心の中で決意を固めると。
再び、自分の心臓の音が、高鳴った。
「っ……」
「クロ……?」
心臓の音が高鳴ったあと、俺の頭の中に、どこかの風景が映し出される。
その風景は、洞窟の入口みたいな場所で、洞窟の前に、竜のような形をした石像が、二つほど立っていた。
まさかこの場所に、ソフィアとトリアナが居るのか?
「クロ。どうしたの?」
「二人の居場所が……わかった」
何となくだが、二人はこの場所にいるという確信が持てたので。
ルナにそう言って、俺はその場所に向かうことにする。
アリスたちに、俺が向かう場所を伝えてくれと、ルナに言ったあと。
屋敷の入口の方から、二人の男たちが、俺たちの方へと歩いて来た――
誰だ? あの二人は。
「あれ……? 君は……」
若い男の方が、ルナを見て何かに気づく。
その男を見て、俺も相手が誰なのか気づいた。
げ……
「こいつがそうか? カズマ」
俺たちの方に寄ってきた二人の男は。
異世界の勇者和真と、貴族らしき男だった。
外は激しい雨が降っていたため。近くまで来ないと、二人が誰なのか分からず。
ローブのフードをかぶらずに、ずっと二人を眺めていた俺は、激しく後悔した――




