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第82話 救出

「クロちゃん」


寝室らしき部屋の中に入ると、ベッドの上に、アリスが寝かされていた。

どうやら無事のようだが、なぜか、アリスは意識があるのに、動こうとはしない。

口は布で塞がれているが。別に、体を縛られて、身動きできない様子でもなかった。

トリアナが姿を表していたので、俺も姿を隠すのをやめて、アリスに近づいて行く。


「アリス?」


「ん! む~……む~……」


俺が姿を見せてたら、アリスが声だけを出してくる。

その横に居たトリアナが、アリスの布を解こうとしていた。



「身動きできない魔法をかけられていて、動けないみたいなの」


「なんだと」


それで逃げ出せなかったのか……


どうやら、勇者が時間を稼いでいなかったら、本当に危なかったみたいだったので。

少しだけ勇者に感謝をしながら、アリスにかけられている魔法を、俺の魔法で解除した。

トリアナが、アリスの口に巻かれている布を外すと、アリスが俺の名を呼びながら抱きついてきた。


「クロード!」


「遅くなってすまない、アリス」


「ううん。助けに来てきてくれて、ありがとう」


「あの男に、何もされなかったか?」


「大丈夫、服の上から少し……胸を触られただけ……」


「あの野郎、ぶっ殺す!」


「ちょっとまって、クロちゃん」


寝室から出て、変態野郎をぶっ殺しに行こうとしたら。

トリアナが慌てた様子で、俺の手を引き止める。


「ぶっ飛ばすのは後回しにして、まずは、ソフィアちゃんを助けなきゃ」


「そ、そうだな……」


「アリス。ソフィアがどこに居るのか、知らないか?」


「それが……」


アリスに、ソフィアの居場所を聞くと、予想外の事を言われる。

今日の夕方頃に、ソフィアと一緒に買い物を終えて、皆と合流しようとしたら。

派手な格好をした男に話しかけられた後、意識が飛んだそうだった。

そして、気がついたら、この屋敷に連れてこられていたらしい。


意識が戻ったアリスが、その男に、なぜこんな事をするのかと聞いたら。

男の本来の目的はソフィアで、アリスは単純に、人質にされていたらしい。

アリスを人質に取られたソフィアは、男の言う通りにするしかなく。二人はそれぞれ離れ離れにされたそうだ。


「ソフィアと離された後、私は……この部屋に連れてこられたのだけど……」


男にこの部屋に連れてこられた後。変態野郎がアリスに魔法をかけて、身動きが出来なかったとの事だった。

分かる範囲での事をアリスに聞いていたら、寝室の扉が開いて、変態貴族が中に入ってきた――


「な、なんじゃ貴様らは! どうやってここに入った」


「ちっ……」


俺は舌打ちをしながらフードを被り、顔を隠して銃を手にする。

衛兵と勇者はまだ戦っているのか、寝室に来たのは貴族だけだった。

アリスをかばう様にして彼女の前に立ち、どうやって隙を突こうかと考えていたら。

貴族が、苛立ちの声を上げながら、俺の前まで歩いて来た――


「貴様、あの勇者の仲間か?」


「違うと言ったら……どうする?」


「おのれぇ……何者かは知らんが、わしの女を奪う奴は、誰であろうと許さんぞ!」


あ……?

今、なんて言ったコイツ? 


「お前の……女……だと?」


「そうじゃ。十二年も待ち焦がれた……わしの女じゃ!」


貴族の言葉で、俺の後ろに居たアリスが、小さな悲鳴を上げて。

そんな貴族のふざけた言葉と、アリスの悲鳴を聞いて、俺の中で何かが切れた。

俺は貴族に銃を向けて、その両足の太ももに、遠慮無く銃をぶっ放した――


「ぎゃあぁぁぁぁぁ……」


「俺の聞き間違いじゃなければ。ただ……いい間違えただけだよな?」


「いっぃぃいいぃ……痛い痛い……」


足を血塗れにしながら、地面をゴロゴロ転がる貴族に近づく。



「オルギリュウス様!?」


「エアバスター・クリエイト!」


「ごはぁぁぁ……」


悲鳴を聞いて駆けつけたのか、隣の部屋から、数人の衛兵もこっちに来たが。

今は用がないので、邪魔をされないように、魔法で衛兵共を吹き飛ばした。


「おい? 早く訂正しろよ?」


汚い血を撒き散らし、腐った声で悲鳴しかあげない貴族に。

イライラしながら、今度は、その両腕を撃ち貫いた――


「ひぎゃああぁぁぁ……」


「クロちゃん……」


トリアナが俺の名前を呼んでいるが、気圧されているのか、俺を止めようとはしない。

アリスは一言も発さず、俺と貴族を眺めているだけだった。


「なぁ、おい? 何とか言えよ。次は……頭をぶち抜かれたいか?」


「ひぃ……ひぃ……」


「なんだこれは!?」


怯えながら、悲鳴を上げている貴族の頭に、銃の照準を合わせていると。

衛兵を片付け終わったのか、大きな声を上げながら、勇者が寝室に入ってきた――


「今忙しい、後にしろ」


「なんだと? お前は何者だ?」


あぁ、そうか。

顔を隠しているから、俺だとわからないのか。


「俺の恋人が、この男に攫われたから、ここまで助けに来た」


「恋人……そうなのか?」


勇者の相手をしている暇など無いが。邪魔をされたくないので、仕方なく説明をすることにした。

俺と勇者の言葉を聞いて、アリスが返事をしながら頷く。勇者はどうやら納得をしてくれたようだ。


「しかしこれは……やりすぎではないか?」


「変態に、自分の女が攫われた挙句。寝室に連れ込まれている光景を見て、お前なら我慢できるのか?」


「そ、それは仕方がないな……そんな光景を見たら、俺でもキレる……」


勇者の同意を得た後、面倒事を回避するために、死なない程度に貴族を回復させる。

逃げられるのを避けるため、少しだけ痛みを残したまま、血止めを出来るかと考えたら。

頭の中に魔法が思い浮かんで、それを唱えると、痛みが残ったまま、傷が塞がったようだった。


「できれば、この貴族を引き渡して欲しいのだが」


「少し待ってくれ」


勇者が、貴族を引き渡せと言ってきたが。この貴族にはまだ用がある。

アリスを助けることは出来たが、ソフィアの居場所が、まだわからないからだ。


「ひ……ひぃ……」


「うるせーな……また撃たれたいのか?」


貴族に近づくと、怯えて悲鳴を上げたので。

顔に銃口を向けながら、ソフィアのことを聞き出す――


「だ、だれの……事だ?」


「アリスと一緒に居た、金色の髪をした、俺の女だ」


「そ、その女なら……魔族に、引き渡した」


「は……?」


「え……?」


「魔族だと!?」


貴族の意外すぎる言葉に、俺とトリアナが驚き、勇者が貴族に詰め寄る。


「どういう事だ? 貴様、魔族の手先なのか?」


「ち、違う。利害が一致したから……協力しただけだ……」


貴族が言うには、ある日魔族が接触をしてきて。

女を誘拐するのに、協力をしてきたらしい。

相手の動きを封じる魔導具をエサにされ、貴族は協力に同意をしたみたいだ。

魔族は、魔力が高めの女を求めていて、それ以外の女は貴族に渡していたらしい。


「その魔族は何処に居る?」


「も、もう協力するのは、これまでと言って……女を連れて……出て行った」


「なんだと」


「必要な物は、得られた……め、女神がどうとか……言っておった」


「女神……?」


俺が、貴族から聞き出した言葉を聞いて、勇者が首を傾げていた。


どういう事だ……

魔族が何かをするために、魔力が高い女を探していて。

たまたま女神であるソフィアを見つけて、もう女を集める意味がなくなった?


「まさか……ボクと間違われた……?」


俺が考え事をしていると、トリアナがそう呟く。


「トリアナ?」


「その魔族は、どこにいったの?」


「馬車を渡したが……い、居場所までは、わしは知らん……」


「馬車……まさかあの時の……」


貴族からそれを聞き出したトリアナが、何か思い当たる節でもある様子だった。


「何か分かったのか?」


「ここに来る途中で見た馬車から、何か嫌な感じがしたの……」


この屋敷に来る途中……

外で警備兵を素通りした後、トリアナが、急に立ち止まっていた時の……あれか。


「クロちゃん、ボクが探してくるよ」


「探すって、どうやって……」


「ごめん、説明してる暇はない」


トリアナがその言葉を言った後、姿を消して、見えなくなった。


「き、消えた!?」


それを見た勇者が驚いていたが。俺は、この後の事を勇者に尋ねる。

勇者は、ある貴族からの依頼で、この変態貴族の調査を引き受けたらしく。

折を見て、魔導具でその貴族と連絡を取り合ったそうだ。


しばらく勇者と話し合いをしていたら、エレンさんもここに来たので、色々と説明をした。

エレンさんが、この屋敷の地下室で、何人かの女の子を見つけたらしく、勇者に保護を頼んでいた。


アリスはエレンさんを見て、完全に気が緩んだのか。泣きながらエレンさんに抱きついていた。

優しく微笑みながら、アリスを抱擁するエレンさんを見ていたら、勇者が話しかけてくる――


「ヴァンデミオン卿に、全てを説明したいのだけど。君も会ってくれるかい?」


「うん? ヴァンデミオン卿?」


「この貴族の屋敷から、更に奥の場所に住んでいる、ヴァンデミオン公爵の事です」


誰のことなのかわからなかった俺に、エレンさんが補足してくれた。


「侯爵?」


「はい。この国の国王の、親族のかたです」


国王の親族……

侯爵ではなく、公爵か。二番目に偉いやつだな。

エレンさんが、この辺りは警備が厳重だと言っていたのは、それが理由か。


「悪いようにはしない。全て俺に任せてくれ」


「申し出はありがたいが……俺は、もう一人の女を助けに行きたい」


「そ、そうだったな。まだ助けていない人がいるのか……」


ソフィアの居場所は分からないが、勇者とは、あまり関わりたくはなかったので、アリスの実家のことを教えた。


「バーンシュタイン家か。それならば、ヴァンデミオン卿に、バーンシュタイン家の方へと、連絡を取るように伝えておく」


「すまない。助かる」


「別にいいさ、それと、できれば顔を見せてくれないか?」


う……

それは困るな……

顔を隠して、物凄く怪しい格好をしているから、いつかツッコまれると思っていたが……


「顔は……見せたくない……」


「なぜだ?」


「俺は平民なので……貴族に顔を見られると、その……色々と困るんだ」


「なるほど……身分違いの、忍ぶ恋というやつか! 頑張れ! 俺は応援するぞ!」


「あ、ありがとう」


何やら、違う勘違いをしてくれたようだが、助かったので訂正をしなかった。

そして名前を聞かれたので、今の俺とは違う、前世の俺の名前を名乗ることにした。


「くろうど……」


前に名前を見られたので、別の名前にしたが……

バレたか……? 黒斗を名乗ればよかっただろうか。


「お、おかしいか?」


「いや、そうじゃない。俺の住んでいた世界の名前に、近いなと思ったんだ」


「そ、そうなのか……」


「あぁ」


思いっきり日本名だしな……

さすがに、苗字までは名乗らないが。


「俺は、佐々木和真と言う名前だ。知っているとは思うが、異世界から召喚された勇者なんだ」


名前を名乗り、よろしくと言いながら手を差し出してきたので、その手を握る。

俺の正体を知っていそうな精霊は、勇者に何も言わなかったのか、勇者は疑問を持っていない様子だった。


佐々木和真か……結構良い奴なんだな。

もし、俺たちの立場が違っていたら、いい友達になれたのかもしれない……


話し合いをしていたら、部屋の外が騒がしくなってきたので、勇者が出ていき事情を説明をしていた。


「アリス。バーンシュタイン家の名前をだして、あいつと一緒に、向こうで話をしてきてくれるか?」


「うん。わかったわ」


落ち着きを取り戻した様子のアリスを、エレンさんが連れて行き。

俺はこの部屋で、変態貴族と二人きりになった――


「さて……」


「ひぃ」


俺と二人っきりにされた貴族が、俺を見て再び怯え始める。


「そう怯えるな。少しやり残したことをするだけだ」


「や、やめてくれ……何をする気だ……」


「何って……二度とこんな事が出来ないように、少しナニをな……」


「え? え?」


「なーに、痛みを消す魔法を唱えてやるから……安心しろ」


「ど、どういうことだ……これ以上わしに、何をする気だ……」


俺は貴族の言葉を無視しながら、痛みを消す魔法を考えて、貴族に向かって唱える。

傷の痛みが消えた貴族が、這いずりながら俺から逃げていくが。

それを見ながら俺は、貴族の大事な部分に手を向けて、風圧魔法を唱えた――


「や、やめ……ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


貴族は何をされたのか分かったのか、口から泡を拭きながら、白目を剥いて気絶した。


「あれ? 痛みを消していたはずだが……生きているよな?」


俺も最近、同じような目に合いそうになったから、気持ちはわかるが……


「ど、どうしたんだ?」


生きているのか確かめていたら、悲鳴を聞いた勇者が、慌てて戻って来る。

逃げられそうになったので、魔法をぶつけて気絶させたと言ったら、納得していた。

変態貴族は生きているようだったので、何も問題はなかった。


「クロード……何をしたの?」


アリスも戻ってきて、俺の耳元で囁いてくる。


「なに……アレを潰しただけだ」


「あれ……?」


アリスが首を傾げていたので、俺は自分の息子に向かって、視線を下ろした。


「まさか……」


「もう二度と、使い物にならないだろうな」


アリスが、可哀想なものを見るような目で、変態を見ていたが、同情なんていらない。

俺の女に手を出そうとしたのだから、あの変態貴族の、自業自得だ。




俺が復讐を終えた頃、ヴァンデミオン公爵家の者たちが到着したらしく。

俺たちは勇者と別れて、バーンシュタイン家へと、一旦帰ることになった。

ソフィアの行方は気になるが、アリスを送り届けることも大事だし。

屋敷についたら、捜索魔法を使い、ソフィアとトリアナの行方を探すことにした。

貴族の屋敷から外に出ると、外は雨が降っていた――

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