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第80話 二人の行方

「ソフィアとアリスが、まだ戻って来ない?」


時刻は夜七時過ぎ。カイさんに借りた本を読んでいると。

俺の部屋にトリアナが来て、二人がまだ戻ってこないと言ってきた。


「うん……他の三人は帰ってきたのだけどね。その二人だけが……まだなんだ」


「どういうことだ? 五人で一緒に居たんじゃないのか?」


安全な場所だとはいえ、何が起こるかわからないので。

アリスは、皆で固まって行動をすると言っていたはずだ。


「エレンちゃんが言うには、みんなで買い物をしていた時に……二人は少しだけ、別行動したらしいんだ」


「別行動だと? エレンさんは止めなかったのか?」


「隣りにある服屋に行って……クロちゃんの服を買いたいって……」


「…………」


俺のプレゼントを買うために、服屋に向かって、その後行方不明?

ルナやリアと違って……この二人なら大丈夫だと思ったのか、エレンさんは。

しかし服屋に行ってから、行方がわからなくなるというのは、ありえないだろ……


「エレンさんは居るんだよな? 話しを聞きたい」


「ルナちゃんとリアちゃんをここに連れて帰ってきて、一人で探しに行っちゃったよ」


「そうか……」


できるだけ外出するのは避けたかったが、そうも言っていられない。

あの二人なら、危ない事にはなっていないとは思うが、万が一ということもある。

念の為に、頭を覆い隠せるローブを魔法で創り、二人を探すことにした。


「トリアナ、アルさんたちに伝言を頼む。俺は二人を探しに行ってくる」


「ボクもいくよ。アリスちゃんの家族には、ルナちゃんたちに頼んでおいたから」


「わかった、すぐに出るぞ」


「うん。でもその格好、あやしすぎるよ……」


俺がローブを着用していると、トリアナが、その格好は逆に目立つと言ってきたので。

フードをかぶるのはやめて、ローブだけを羽織り、屋敷から外に出た――


まずは服屋か、まだ開いているといいが。

というか……服屋の場所を知らないぞ……



その辺に居た人に道を訪ねて、俺は走りながらトリアナと会話をする。

ソフィアとは同じ女神だし、トリアナなら、なんとか探し出せないかと思ったからだ。


「トリアナ。アリスはともかく、ソフィアの居場所を知ることは出来ないのか?」


「はぁ……はぁ……なんだか……ノイズがひどくて……わかんないの」


「ノイズ……?」


「うん……なにかが……じゃまをしているような……」


走っていた俺は、速度を落として歩き気味になる。

流石にトリアナは飛ぶわけにはいかないので、普通に走っているが。

体が小さいので、体力的につらそうになっていた。


何かが邪魔をしているだと……

嫌な予感がするどころじゃないな……


「それは……ルナの時みたいな感じか?」


「どうだろ……あの時の結界程度なら、今のボクなら、すぐにでも探しだけるのだけど」


完全に足が止まった俺に合わせて、息を整えながら、トリアナが説明をしてくる。

ルナの時みたいな、誘拐だとは思えない。貴族街には、いたるところに警備兵みたいなのが居るし。

俺も出来るだけ、自分の顔を見られないように注意している。

女性二人を相手に、少しでも怪しい行動を見せたら、すぐにでも騒ぎになりそうなほどだ。


さっきから警備兵っぽい奴らが、こっちをチラチラ見ているな……

走っていたから目立っていただろうし、小さい女の子を連れているしな。

フードかぶっていたら、一発アウトだったかもしれない。


歩き出しながら考え事をしていると、服屋に着いたので中に入ってゆく。

どうやらまだ開いていたようなので、トリアナを外で待たせて、店員に質問をしてみることにした。


「すみません」


「あ、ごめんなさい。もう店じまいなんです」


「いえ、少し聞きたいことがあるのですが」


「何でしょうか?」


店の入口付近で、店じまいの準備をしていた若い女の子に、話を聞いてもらう。

ソフィアとアリスの特徴を言って、何かおかしな事が起きてなかったか、という話をした。


「赤い髪の女の人と、金色の髪をした女の人ですか……」


「そうです。この店に買物をしに来たと思うのですが」


エレンさんはこの店に来なかったのか。若い女の子は、今初めてこんな話を聞かされたみたいだった。

女の子がわからないと言ったので、よく思い出してくれと、俺が問いかけていると。

店の奥から店主らしき男が出てきて、ソフィアとアリスを見たと喋ってきた。


「その二人なら男物服を買って、店から出て行ったぞ」


「その時、何か変なことが起きていませんでしたか?」


「変なこと? そうだなぁ……二人共満足そうに買い物をしていたし。その後は普通に店から出て行ったが……」


そこまで言って、店主の男はそういえば……と付け加え――


「店の前で背の高い男と話をしていたが、そいつは趣味の悪い格好をしていたな」


背の高い男だと? だれだそれは……


「全身を黄色い服で着飾っていた派手な奴で。とてもじゃないが、うちの店で買った服が似合う相手だとは、思えなかったぞ」


店主から聞いた男の話は、全く心当たりがない。

女の子のはその時、別の客を相手にしていたらしく、知らなかったそうだ。

俺のために服を買ったのに、そんな奴に、関わっているはずもないわけだし。


その後も店主は、ソフィアとアリスが、その男のために服を買ったと勘違いしているのか。

男の趣味がどうのこうの言って、俺に話を振ってきたが。

俺は適当に相手をしたあと、礼を言って店から出ることにした――



「トリアナ、エレンさんの居所はわかるか?」


「ちょっとまって」



俺の言葉を聞き、トリアナが目を瞑る。

そして、あっちの方に居るよ――と言ってきたので。

エレンさんの元へと案内を頼み、ついて行くことにした。


トリアナに案内された場所は。

服屋などの店がある場所から正反対の、貴族街の奥地だった。


こっちは貴族の屋敷しか無いみたいだが……

エレンさんは、なぜこんな所にいるのだろうか。


「そこの二人、止まれ!」


トリアナと二人で歩きながら、エレンさんを探していると。

武装をした警備兵のうちの一人が、俺たちに話しかけてきた。


「この時間から、ここは通行止めだ。何処の貴族の使いだ?」


貴族街は平民がめったに入ることが出来ず、おまけに警備兵が常に目を光らせている。

だから、こんな時間にうろうろしている俺たちは、貴族の召使いに見えたのかもしれない。

俺は、ギルさんから預かったネックレスを警備兵に見せた――


「これは……バーンシュタイン伯爵家の……だが、伯爵家の使いであっても、この時間帯にここを通すことは出来ないぞ」


「どうしても駄目ですか?」


「すまないが、安全のためだからな。伯爵家から話はきていないし。どうしても通りたかったら、夜が明けてからにしてくれ」


家紋が付いたネックレスを持っていても、この先を通るための許可がないので、俺たちは追い払われた。


エレンさんは姿を消す魔法で、この先に行ったのだろうか。

もしそんな手間を使ってまでこの先に行ったのならば。

ソフィアとアリスの居所をわかっているのかもしれない。


俺はそんな魔法なんて試したことがないし、どうするべきか……

トリアナは、人間に見られないように、姿を消すことができるが。

どんな危険があるかもしれないし、一人だけ行かせるわけにはいかない。

そもそも警備兵の前で突然姿を消したら、大騒ぎになってしまうしな。


「クロちゃん」


「クロードさん……」


「うん……?」


今、トリアナの声がダブって聞こえたが、なんだ……?


「このまま少し引き返してください……」


「クロちゃん帰ろうか」


この声……

エレンさんか? 姿を消して近くにいるのか。


すぐ側に警備兵がいるので、エレンさんは小声で話しかけてきている。

どうやらトリアナはそれにいち早く気付いて、怪しまれないようにして、エレンさんの声に、自分の声を重ねて話しかけてきていた。

俺は警備兵の目に注意しながら、少しだけ引き返す――

俺が帰ると思ったのだろう。話しかけてきた男は、俺が離れると元の居た場所に歩いて行った。


「ここまで来たら、だいじょうぶ」


「わかりました」


トリアナがそう言って自分の姿を消したら、エレンさんが俺の手を握ってきた。

そして、手を握られた俺はエレンさんのことを視認する。


「エレンさん……」


「ごめんなさいクロードさん……私が目を離さなかったら、こんな事にはならなかったのに」


「いえ。エレンさんは悪く無いです。こんな事、予想なんてできませんから」


ルナやリアみたいな幼い女の子ならともかく、ソフィアとアリスは立派な大人だ。

自分の身を守ることも出来たはずだし。エレンさんもアリスの事に、常に目を光らせているわけでもない。

むしろ……貴族街だから、比較的に安全だと高を括っていた、俺の方こそが悪い。


「エレンちゃんがここに居るってことは、アリスちゃんたちが居る場所を、しっているのかな?」


「はい。確証は有りませんが、確信は持てます」


俺が自分の不甲斐なさに苛立っていると、二人が話をしていた。

しかし、エレンさんの事は見えるが、トリアナは自分から姿を消したので、その姿が全く見えない。


「確信ですか? あとトリアナ、どこに居るんだ?」


「ボクはここだよ」


「どこだよ……見えないから話しづらい……俺に触れろ」


「ここだってば」


エレンさんの魔法なら、触れているとお互いの姿が見えるので、手を差し出しながらそう言ったが。

なぜかトリアナは俺の手を握らずに、俺の腰に抱きついてきた。


「なぜ抱きついてきた」


「この方が、何となく落ち着くんだよね」


何だそりゃ……

ルナは俺の膝の上が定位置だが、トリアナは腰なのか?


「クロードさんなら、ギルバートさんから、お話を聞いていると思いましたが……」


考え事をしている俺に、エレンさんが話を続ける。


「ギルさんから?」


「アリスさんの、過去のことです」


「アリスの過去? それは確かに聞きましたが……」


そこまで言って、旅に出る前に、ギルさんと話をしていた時のことを思い出した。



――貴族のクソヤローはまだ生きているらしいから、そこだけ注意しろ――


――もし接触なんかしてきたら、ぶっ飛ばしていいですか?――


――おうよ! 存分にやれ、俺が許可する!――


――はい!――



「あ…………」


俺はアホかぁぁぁ……

なぜ忘れていた……

この場所は、全然安全じゃないじゃないか……




アリスのことを必ず護ると、ギルさんと約束をしたのに。

俺は間抜けにも、その事を完全に忘れていた――

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