第8話 俺はロリコンじゃねぇ
ルナを抱き寄せたまま彼女の頭を優しく撫でていると、俺たちの部屋の扉が勢い良く開いた。
「よう坊主! 元気か?」
突然部屋の中に入ってきたのは、やたらハイテンションなギルバートさんだ。
「あ……」
「おっと! すまねぇ」
ギルバートさんは俺とルナの方を見て謝ったあと、なぜか部屋から慌てて出て行く。
「な、なんだ?」
「ん……?」
彼の唐突な行動に、俺たち二人は首を傾げながら扉の方を見る。
すると、なにやら部屋の外の方から話し声が聞こえてきた。
「兄さん、どうしたの?」
「いや、ちょっと……あ、あれだ! 坊主が中で女の子と抱き合ってたから……と、とりあえず外に行こうぜ」
「はぁ? ノックくらいしなさいよまったく……」
ギルバートさんの他にも誰かいるのか、彼と女性の声がそんな会話をしている。
これは完全に誤解されているのだろう。俺はルナから手を離して、慌てて彼らに訂正することにした。
「ちょ、ちょっと……ギルバートさん!」
「お、おう! しばらく時間つぶしてくるからよ! まぁ頑張れ」
「違いますってば!」
「どれくらい時間をつぶしてくればいい? 一時間か? 三十分か? 五分か?」
五分? それは短すぎ……いや、そうじゃない。
「とにかく、全然そんなのじゃないですから入ってきてください」
しばらくそんなやり取りを続けて、やっとのことで誤解が解けたらしく、ギルバートさんは再び部屋の中へと入ってきてくれた。
「いやぁ……焦ったぜ」
「兄さんはそそっかしいのよ、まったく……」
「すまねぇ」
二人の男女はそんな会話をしながら入ってくる。俺はというと、ギルバートさんの後ろから入ってきた女の子に視線が釘付けになっていた。
「坊主?」
なぜ……巫女服?
俺が見惚れてしまった女の子は、なぜか巫女みたいな格好をしていた。
女の子の見た目は若く、俺と同い年か年下くらいだろうか。
少しだけ薄い茶色が混じった、赤色でシャギーのロングヘア。
スカートが短い巫女服を来ていて、腰には日本刀のような三本の刀を差している。
足には黒いブーツを履いていて、それがまた巫女服姿に妙にマッチしていた。
「おーい、ぼーずー?」
「どうかした?」
「あっ……」
見惚れていた女の子に声かけられて、ようやく俺は我に返った。
「なにか、おかしなところでもあったかしら……」
俺が見続けていたせいで、女の子は自分の服装を確かめる。
「いえその、とても綺麗だと思いまして……」
「……」
しまった。
慌てすぎたせいで初対面なのに変なことを言ってしまったが、もう遅い。
俺の言葉聞いた彼女は、そっと俺から視線を逸らす。
「そ、そう……ありがと」
変な奴だと勘違いされたかと思ったけれど、どうやら照れているだけだったらしい。
「おい、坊主」
「は、はい」
俺たちのやり取りを見ていたギルバートさんが、少しだけ強めの口調で真面目な顔をする。
「妹はやらんぞ?」
「えっ?」
「なにを言ってるのよ兄さん……」
「はっはっは」
俺は少しだけビクリとしてしまったが、どうやら笑い話だったようだ。
◆◇◆◇
「これから坊主を案内しようと思うんだが、まずはこいつの紹介だな。そっちの嬢ちゃんのことも気になるし」
ギルバートさんは自分の隣りにいる女の子を見たあと、俺に寄り添っていたルナに視線を向ける。
「こいつは俺の妹のアリスだ」
「アリス・グレイヴよ」
「クロードだ、よろしく」
ギルバートさんに紹介されて、俺とその女の子が名乗り合う。
ずいぶんと歳が離れている兄妹に見えるし、なぜかギルバートさんとは名字が違っていた。
少し気になるけど……いきなりそんな質問するのは失礼だよな。
「で、そっちの嬢ちゃんは?」
「……ルナだ」
ギルバートさんが尋ねると、ルナはそっけなく自分の名を言う。
「おぉ、嬢ちゃんがルナか!」
ルナの言葉を聞いたギルバートさんが、なぜかニヤニヤしながら俺の方を見てくる。
「なぁ、坊主。恋人にするには、ちと早すぎないか?」
そんな事を言うギルバートさんは口調が真面目なのに、その表情はニヤリと笑っていた。
「ロリコン……」
「んなっ!?」
これはどう言い訳したものかと考えていたら、アリスがぼそっと口走る。
「そうだ……クロはロリコンだ」
「えぇ……」
今までそっけない態度を取っていたルナが、頬を緩めてアリスの言葉に肯定した。
「そうか……坊主はロリコンなのか……」
ギルバートさんは腕を組んだまま、顔を下に向けてうーんと唸る。
『クロード様は、幼い女の子が好きなのですか……』
『ちょっ……』
俺の頭の中で、今の今までずっと黙っていたソフィアのつぶやきが聞こえてきた。
てか、この世界にその言葉はあるのかよ!?
あぁ……そっか。俺が理解しやすいように、俺の力が自動で変換しているのか。
それはともかく。
違う! 断じて違うぞ! 俺はロリコンじゃねぇ!
どちらかと言えば、綺麗なお姉さんのほうが好きなんだ!
俺は独り天を仰ぎながら、心のなかで叫び続けていた。