第76話 思春期真っ只中
全ての話を聞かされて、リアが落ち着きを取り戻した後。
アリスの家族全員に、リアが竜人であることを伝えたると――
アルさんとアッシュさんとカイさんが、揃ってリアに頭を下げて謝っていたが。
リアはどうしたらいいのか分からずに、困り果てていた。
リアが大変困っていたので。俺は雰囲気を明るくしようと、そんなに大げさにしなくても……と。にこりと笑いかけながら、場を和ませようとしていたが。
今思えば……少し不謹慎だったかもしれない。
その後――エリスさんとアリスの姉妹に、俺が説教をされたのは言うまでもない。
それから五日ほどが過ぎて――
アルさんの言葉に遠慮無く甘えさせて貰っていた俺たちは、それぞれ屋敷で自由に過ごしていた。
異世界の勇者の迷惑行動で、俺たちは足止めをされて。
街の外に出ることも難しかったからだ。
「それではクロードさん。おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい」
時刻は夜十一時過ぎ。エレンさんが挨拶をして、俺の部屋から出て行く。
屋敷から外出をしにくかった俺は、街の様子を見てもらってきたエレンさんの話を聞き終えた。
今日も街の出入り口の検問が厳しく。街の外に出るのは、容易ではないとの事らしい。
ちなみに今の俺は――黒色の髪から、ルナと同じ銀色の髪にしている。
なぜなら、黒い髪は珍しい上に、俺に似せた似顔絵付きの手配書まで出回っていたからだ。
さすがに顔の整形までは、怖くて出来なかったのでやらなかったが……
ねがいのまほうで髪のを色変えたわけなんだが。
どうも俺の想像力は偏ってるっぽい。
ルナを膝の上に乗せて、魔法を創造したら。銀色の髪に変わった。
たぶんだが、ルナの髪が目の前にあったので、その影響を受けたのだと思う。
よく考えたら……
片手剣を創る時は、アリスに買ってもらった剣を見ながら創ったし。
大剣の創造の時は、ギルさんの武器を参考にしてたんだよな。
盾なんかは、武具屋で見た盾を思い出しながら創造していた。
俺って……イマジネーションが乏しいのかな――
考え事をしていたら、眠気が冷めてきたな
「気分転換に、少し風に当たってくるか……」
ルナはリアの事を心配して、一緒に寝るようになったので。
最近は俺一人で寝ていた。
この屋敷に泊まらせてもらった最初の頃は。
ソフィアかアリスあたりが夜に来ないかなと……期待していたもんだが。
その期待は虚しく、寝る前の挨拶をするだけで誰も来なかった。
これだけの女性陣が居たら、一人くらいは……なんて思っていたが。
どうやら俺に積極的にアプローチをしてくるのは、ルナだけっぽい。
いかんな……
下心満載すぎる……俺も男だから仕方ないが……
肉体年齢的にも、思春期真っ只中だしな。
煩悩退散――
そんな事を思いながら部屋から出て、できるだけ他の人を起こさないようにと思い。
気配遮断と足音を消す魔法を創りだしながら、屋敷の庭に向かうことにした。
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「んー……っと。風が心地いいな」
屋敷の外に出て、夜空を見ながら大きく息を吸う。
少し肌寒かったが。変な事を考えたりして、熱を持っていた頭と身体には、気持ちのいい感じだった。
夜空には星が瞬いていて、気分転換にはもってこいだ――
うん?
何か今……声が……
星を眺めていたら。風に乗ってヒソヒソと話し声が聴こえてきた気がした。
まさか……幽霊……?
「よし――部屋に戻るか」
相変わらずの怖がりだった俺は、すぐに踵を返すことにする。
しかしまた聴こえてきた声は、どうやら自分の知り合いの声の様だった――
この声……トリアナか?
声の方向からすると――ローズガーデンの方か。
屋敷の広い庭に、エリスさんが趣味で作ったバラ園がある。
たまに、その場所で女性たちが楽しくティータイムをしていたが。
男の俺には、近寄りがたい場所でもあった。
俺は再び気配遮断系の魔法を使いながら、その場所に近づいて行く。
何故気配を断つのかって? なんとなくだ……別に幽霊が怖いわけじゃない。
相手はトリアナだしな…………誰に言い訳をしているんだ俺は――
「はい……その通りです」
ん? トリアナの他にも誰か居るのか?
どうも――独り言というより、誰かと会話をしているような声だ。
「なら……ですね……」
「はい」
聖女との交信か? 聞き取りづらいな。
そんな事を思っていると。ねがいのまほうが発動したのか、相手の声も聞こえるようになってきた。
相変わらず便利な魔法だな……
「やはり前世の封印は、難しかったのですね」
「申し訳ありません」
なんか……話し相手がソフィアっぽい気がするが……
いや、トリアナが敬語を使っているから違うか……
聞き覚えがあるような声で、相手の話し方がソフィアみたいな感じだったが。
トリアナの口調から別人だと判断できる。
それに……話し相手をよく見ると、何やら薄い幻像みたいな物が浮かび上がっていた――
前世の封印って、俺の話だよな……これは。
「最初は、前世の記憶に引きづられているような状態でしたが。今は安定しているようです。稀に性格が豹変しますが、問題はありません」
「豹変……ですか……黒乃の事は、何か言っていましたか?」
その言葉を聞き、俺はトリアナが話している相手の声の主を思い出した。
アストレア様か……
トリアナが俺から聞いた話を。
一言も漏らすこと無く、アストレア様に全て報告していた。
二人の会話を聞いていたら。
やはり俺が見た夢と、アストレア様が知っている黒乃の最後に、食い違いがあった。
「あの指輪は渡してくれましたか?」
「はい。然りと説明をして渡しましたが、ルナちゃ――魔王にも渡してよかったのでしょうか?」
「それは大丈夫です。魔力を安定にさせるのが目的ですし、貴女の話を聞く限り。その魔王は、何も問題ありませんね」
その話しをした後……トリアナが、ルナは俺の事だけに夢中で。
世界征服や神界などには全く興味がなく、神族の敵ではないと熱弁に語っている。
それを聞いたアストレア様が。なぜか、少し羨ましいです――と喋っていた。
「あの御方はどうしていますか?」
「あの……御方は……」
うん? あの御方とは誰の事だ? 急にトリアナが口ごもったぞ。
「この世界で……好き放題……暴れておられます……」
「そう……ですか……」
「申し訳ありません。ボクには絶対に、止めることが出来ません」
「でしょうね……」
「まさか人間に転生なさられているとは……ボクは夢にも思いませんでした……」
「私もですよ……あの御方の力も凄まじいものでしたが。人間に転生したのは、制約を消すためなのでしょうね」
凄まじい力を持った、好き放題暴れている奴?
いったい誰の話をしているんだろうか……
人間に転生した……神――か? 俺みたいな奴が他にも居るのかな。
しかし……制約を消すっていうのは、意味がわからないな……
俺が危険そうな奴について、絶対に会いたくはないなと思っていたら。
どうやら二人の話し合いは佳境に入っていたみたいだった――
「では、引き続きお願い致しますね」
「はい。ボクにも果たしたい約束がありますから。問題はありません」
「彼との約束……でしたね」
「そうです」
「もう、終わってしまった人生だったのに。その約束を……誠実に守っているのですね」
「彼は約束通り、また……生まれ変わりましたから」
トリアナが横顔が、そう言って嬉しそうに微笑んでいた。
前に言っていた、守らなくても良い約束――いつか聞きたいと思っていたが。
それは聞かないほうがいいのかもしれないと……ふと、そんな考えが横切った。
俺は気づかれないようにバラ園を後にして、自分に与えられた部屋へと戻った。
ベッドの上で横になりながら、盗み聞きをしてしまって悪い事をしたなと……
少しだけ罪悪感を感じながら、眠りについた――




