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第74話 脅える少女

「クロード。どうしてそんなに疲れちゃってるの?」


屋敷のメイドさんに、食事の準備ができたと言われて食堂に案内されていた俺に、廊下の途中で合流したアリスがこんな事を言ってきた。

ルナの挑発に乗せられていたエリスさんの口撃で、精神的にズタボロにされて疲れきっていたからだ。


「いや……別に……」


君のお姉さんに追い詰められた――何て言えるわけもなく、俺はそっけない返事をしてしまう。

そんな俺を見ていた女神の二人が――


「まさか……ルナ」


「え? ルナちゃんと、がんばっちゃった?」


おい――女神ども。なぜ真っ先にその考えに至るんだ……

女神なら、もっと慎み深さを持っていてくれよ……


「クロード……」


「いや違う――断じてそんな事はしていない!」


アリスが疑り深い表情をしながら俺に問い詰めてくる。

俺がハッキリとそれを否定をしていると、横に居たルナが――


「安心しろ、するなら寝る前だ」


何てことを言った。


いやそれ――違うよね? アリスは安心できないよね?


食堂に着くまでの間、アリスとルナが言い争いをずっと続けていた。


「お好きな席に座ってください」


俺たちが食堂の中へと入って行くと、アルさんがそう言って俺たちに席を進めてきた。

20人くらいは同時に食べられそうな長いテーブルに、所狭しとたくさんの料理が並べられている。

いまだに言い争いをしていて、今度は俺の隣の席の取り合いに発展したルナとアリスをなだめるのが面倒くさくなった俺は。

比較的におとなしい性格のリアを自分の隣に座らせることにした。


ルナがものすごくガッカリした表情を見せてきたが、渋々とした感じでリアの隣の席に座った。

それを見ていたトリアナが、そんな端に座らないで真ん中に座れば問題なかったのに――と、ボソッと言っていたが、俺はそこまで考えが思い浮かばなかった。


そして俺たちは会話をしながら食事を開始することにした――


貴族は静かに食事をするものだと思っていたが、エリスさんがアリスにしきりに話しかけている。

まぁ――家族が帰って来たわけだし。エリスさんが楽しそうに話しかけて、アリスも嫌な顔はしていない。



「ギルお兄様は、元気にしているの?」


「はい。今は仕事で南の国に行っていますが、兄さんはとても元気にしています」


「そう――それはよかったわ」


エリスさんがアリスに、ギルさんのことを聞いて安心していたが。俺は、アリスの言葉を聞いて急に顔色が変わったアルさんの事が気になった。


なんだ? アルさんの表情がいきなり曇ったぞ……

アリスは何か変なことを言ったのか?


「アリスさん。ギルは南の国に行っているのですか?」


「はい。そうです」


アルさんはそれを聞いて食事を中断し、思案している仕草をする。

俺はそれがとても気になったので、アルさんに聞いてみることにした――


「南の国に、なにかあるのですか?」


アルさんが俺たちの顔を見た後、顔色が変わった理由を話してくれた――


「昨日のお城の会議で、議題に上がった話しなのですが……傭兵国グランヴィーゼが、獣王国イルオーネに……宣戦布告をしたそうです」


「な…………」


「アルお兄さま、それは本当のことですか?」


「傭兵国と獣王国が……戦争……」


それを聞いた俺とアリスは心底驚いてしまう。エリスさんも初耳なのか、同じく驚いた様子でそんな事をぽつりとつぶやいていた。


「私も突然の緊急会議で呼びだされて、話し合いをしたけど。本当のことですよ」


「そんな……兄さん……」


エレンさんがここ数十年は戦争が起こっていないから、平和だと言っていたが……

どうしてそんな事になっているんだ……

確か……傭兵国というのは。名前の通り傭兵を生業にしている国だから、自国からは戦争を起こさないって話しを……エレンさんが言っていたよな……


「なぜ、そんな事になっているのですか?」


「明確な理由はわからないけど。獣人が傭兵国の有力者を殺害したとの噂が――流れているらしい」


その報復のために戦争……?

随分と過激な強行手段だな……

ギルさんやヘレンさんなら平気だとは思うが。


アリスの顔を見ながらそんな事を考えていたら、カイさんとアッシュさんが帰ってた。


「いやー……お腹すいたな」


「今戻った――何かあったのか?」


アルさんが二人に何があったのか説明すると――


「そうか……まぁ、ギルの兄貴なら問題無いだろ」


「そうだね。あの人なら、うまく立ち回れると思うよ。貴族だし、避難優先順位は高いだろうしね」


ギルさんの事を心配しているアリスを、二人はずっと元気づけようとしてくれていた。

アリスは家族みんなに話しかけられながら、少しずつ元気を取り戻したようだった。


「それで。勇者が言っていたという、魔王の事はどうだったのですか」


「魔王を見たというのが、勇者たちだけだそうだ。しかも、何処に潜んでいるのかもわからないらしい。それを見つけるなんて不可能に近い」


「ほんとにもう参ったよ……勇者の仲間の女の子たちに、魔王の特徴を聞いたら。黒い髪の男と銀色の髪をした女の子――」


アルさんの質問にアッシュさんが愚痴をこぼし。

カイさんが魔王の特徴を喋っている最中に言葉を止め、俺とルナに視線を向けてきた。

そしてその場に居た全員が、俺たちに注目する。勿論理由を知っている女性陣もだ。


「ん……?」


「はは――まさかね……」


注目をされたルナが首を傾げ、カイさんが乾いた笑い声をあげていた。


「俺は人間ですよ?」


「そ、そうだよね」


うん。嘘は言っていないな。

女神曰く、俺は人間だそうだし。


「勇者の話じゃ、小さな女の子を隷属させて操っている、悪魔のような男だったらしいから……人違いだろ」


「女神のように美しい女性を、無理やり従わせているとも言っていたしね。それにしても――クロード君には嫌な偶然だね」


いえ、人違いでも偶然でもないです。その魔皇は俺です。


操っていたり、無理やり従わせてはいないが、だいたいあってる。

竜人を奴隷として隷属させているので、あながち間違いとはいえない。

それと、女神のように美しいというか、俺の事を好きだと言う女神様そのものが、二人ほど俺に協力をしてくれている――


あれ……? ギリギリアウトじゃね? 

俺は人間だけど、悪魔のような奴なのか?


その後も嘘と真実を混ぜた言い訳を使い、不利になりそうな話しをうまくかわしていた。

そして、ヘアカラーとか売ってないのかな? 

とか考えていたら、香ばしい匂いがする大きな肉料理が運ばれてきた。



うまそうだな……

何の肉だろうかこれ。


「アリスさんが帰って来たお祝いと、弟二人の家訓終了祝いに、奮発して取り寄せた料理だよ」


俺が匂いにつられていたら、アルさんがそう説明をする――


「おお、これはもしかしてあの肉か」


「私の大好物なんだよね。よし――切り分けよう」


アッシュさんが喜んでいて、カイさんが自ら進んで肉を切り分けていた。

俺の横に居たリアを見ると、視線がジッと肉に集中していた。


リアは肉が好物なのかな? 

竜人は肉食系? 貰って来てやるか。


リアに食べさせてあげたかったので、俺は席を立ってカイさんから肉を貰ってくる――


「ほら、リア。慌てずにゆっくり食べるんだぞ」


「クロさま……ありがとうございます」


リアに肉料理を渡したら、満面の笑顔でお礼を言ってきた。


眩しい笑顔だな、そんなに肉が好きだったのか。

うまそうだし、俺も貰ってこよう。


「これは……なんのおにくですか?」


「この肉か? これはドラゴンステーキだ」


俺が自分の分を貰いにカイさんの所まで行くと。

リアが質問をしていて、アッシュさんがそれに答えていた――


「え……ドラゴンって……竜?」


「結構値が張るが、脂も乗っていて旨いぞ」


「女性は、脂がちょっと気になるかもしれないけどね」


肉の名前を聞いて驚いてる俺に、アッシュさんとカイさんがそれぞれの感想を言ってくる。

そして数秒後――

食器が割れるような大きな音がして、この場が一気に静寂に包まれた。

音のした方を見ると。リアが俺から受け取った、ドラゴンステーキが載った皿を床に落としていた。


「リ、リア……」


「あ……あ……あ――」


言葉にならず脅えた表情をしているリアの側に近づこうとしたら、俺を振り切り駆け足で逃げるように食堂から出て行った――


「っ――リア!」


「え? え? どうしたの?」


「アリス! ここは頼む」


リアの行動と俺の叫びにエリスさんが驚いていたが、俺はアリスにこの場のことを任せてリアを追いかけて行く――



くっ……

足が速い……

どこだ……


控えめな性格とは裏腹に、竜人だから運動神経がいいのか、俺はあっという間にリアのことを見失ってしまう。


与えられた部屋に戻ったのか? というかその場所すら知らないぞ……


自分に与えられた部屋の、近くの部屋の扉を片っ端から開けていき、リアのことを探すが見つからない。

かなり無作法な事をしているが、そんな事を気にしている余裕など無かった。


「クロちゃん」


「クロ、こっち」


俺が次々と部屋の扉を開けていたら、食堂の方向からトリアナとルナの二人がこっちに来て。リアが居るらしい場所の部屋まで案内してくれた。

二人が案内してくれた部屋の中に入ると、部屋の隅でリアがしゃがみ込んで震えていた。


俺はそんなリアにゆっくりと近づいていき、できるだけ怖がらせないようにリアに声をかける。

リアは、ひっ――っと脅えた声を出していたが。声をかけたのが俺だと分かった途端、涙を流しながら俺に抱きついてきた。




気が動転していた俺は、リアを抱きしめてから落ち着きを取り戻し。

隷属の首輪で奴隷の居場所を探せる機能のことを、今頃思い出した――

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