第69話 君と出逢えた奇跡
翌日。俺が眠っていた部屋に、アリスたちが挨拶をしに来ていた。
アリスとソフィアが俺の顔を見て少し驚いた後、心配をしてきた。
どうやらルナに血を吸われ過ぎて、随分と疲れた顔をしていたようだ。
そしてルナが朝風呂から帰って来て、ソフィアとアリスがルナに質問をしていた。
俺とは違い、ルナは顔がツヤツヤとしていて、見るからに元気いっぱいだった。
「ルナ。クロード様に、何かしたのですか?」
「別に……血を吸ったダケだ」
「こんなに疲れた顔になっちゃって……どれだけ吸えばこうなるのよ……」
「本当に血を吸っただけですか?」
アリスとソフィアの質問に、ルナは素っ気なく答えているが、二人共不審がっている。
一緒に寝ていたトリアナとリアも居ないから、二人が疑うのも分からなくはない。
ルナが少し歩きにくそうな感じで俺の側によってきた時、エレンさんがその理由に気づいたようだった。
「ルナさん、まさか……」
「何か分かったの? エレン」
別に隠し通すつもりはなかったので、俺は正直に昨夜起こった事を三人に説明した。
俺は罵倒されるのも覚悟していたが、三人ともそんな事は言ってこなかった。
「そう……」
「怒らないのか?」
「怒ったりしないわよ。先を越されて、少しだけ……悔しい気持ちはあるけど」
「そ、そうか……」
「ただ……無茶はしなかったでしょうね?」
ルナの体を心配したのか、アリスはそう問い詰めてきた。
「それは大丈夫だと思う」
むしろ俺が襲われた方だからな。
ルナはつらそうには見えなかったし、今は違うようだが……
そんな事を思いながらソフィアの方にも視線を向ける。
ソフィアは俺を見た後、優しい顔をしてルナに微笑み――
「ルナ。クロード様に愛してもらえて……本当によかったですね」
「ソフィ……」
もうソフィアの中では、ルナが魔王である事など問題はないみたいだった。
「ルナさん。体の方は大丈夫ですか?」
「ん……へいき」
「何かあれば、何時でも相談してくださいね」
「ありがと……」
エレンさんはお姉さんらしく言って、ルナは小さい声だったがお礼を言った。
そんなやり取りを終えた後、トリアナがリアを連れて部屋に入ってきた。
「修羅場はおわったー?」
「そんな事起きていないわよ……」
部屋の外で様子を伺っていたのか、ドアを開けながら尋ねてきた。
そんなトリアナの言葉を聞いたアリスが、ため息を吐きながらそう返答した。
「お二人共、何処に行っていたのですか?」
「あーうん。さすがにお邪魔だったからね、違う部屋で寝てたんだ」
「そうですか」
ソフィアの質問に、トリアナはそう答えていたが。
リアは恥ずかしそうな顔をして、俺とルナをチラチラと見ていた。
そういえば途中まで見てたんだよな、この二人。
初めてのあれが見られながらとか……
ああ……だめだ……やめよう……
俺は恥ずかしくなったので、考えることをやめた。
「それで。エリス姉さまに、お昼頃には屋敷に行くと約束したのだけど。大丈夫?」
「俺は問題ないが……」
そう言いながら俺はルナに視線を向けた。
「ワタシは、クロと出かけたい」
「クロードと?」
「ん……」
これは俺と二人でデートをしたいって事か。
順序が滅茶苦茶になったが、確かにそれはしたいな。
「アリス。昼まで時間を貰ってもいいか?」
「それはいいけど。迎えが来るから、ちゃんと宿屋には帰って来てね」
「わかった。それじゃ、昼までルナと出かけてくる」
「いってらっしゃいませ」
ソフィアの挨拶を受けて、俺はルナと二人っきりのデートに出かける事にした――
「さて。何処に行きたい? というか本当に大丈夫なのか?」
「ん……問題ない。クロと二人で……景色を観たい」
「景色?」
「昔は、クロと一緒に……お城からよく見ていた」
歩きにくそうなルナの体を支えながら尋ねたら、そんな事を言ってきた。
昔は……か。城は無理だから、景色って事はあそこかな……
それを聞いて俺は、街の外の門付近にある塔に視線を向けた。
カイさんの話では、最初は魔物の襲撃に備える為の見張り台だったらしいが。
今では拡張工事されて、街の観光用のスポットの一部と化しているらしい。
少し階段を登ることになるが。その頂上には、街の夜景も外の風景も楽しむことが出来るらしく。
昼でも夜でも、女の子と行くにはおすすめの場所だとカイさんが言っていた。
カイさんに話を聞いた時、俺も一度は行ってみたいとは思っていたが。
まさかその相手がルナだったとは思っていなかったな。
「わかった。あの塔に行くか、ついでに何か食べ物を買っていこう」
「ん……」
俺とルナは外でも食べられる定番のパンを買って、塔に登ることにした。
この世界で菓子パンのような物まで売っているパンの専門店があったのが意外だったが、ルナは色とりどりのパンを見ていて選ぶのが楽しそうだった。
今まで寄った街では、露店はあったがパン屋は見かけなかったな。
バルトディアには三ヶ月も居たけど、あんまり街は見て回らなかったし。
もしかしたら、あの街にもあったのかもしれない。
異世界だからと思って、俺は警戒しすぎていたよな。
あの街に戻ったら、またルナとデートするのも悪くはない。
そんなふうに色々と考え事をしながら、塔の頂上に辿り着いた。
ルナが階段を登るのがつらそうだったので、俺はルナをお姫様抱っこして塔を登った。
喜んでくれると思っていたら、ルナは少し恥ずかしそうにしていた。
「おおー……絶景だー……」
「んー……気持ちいい……」
俺は塔の展望台から風景を見て楽しみ、ルナは腕を広げながら大きく息を吸っていた。
「空が広くて綺麗だな……」
俺は異世界の青空を、ゆっくり眺める余裕すらなかったのか。
「クロ?」
ルナの側に歩いて行き、その小さな背中をそっと抱き寄せる。
思えばこの世界にきてから、流されるまま強くなろうとしたり。
ギルドで金を貯めて、その後はひたすらギルさんと特訓してるだけだった。
旅に出たと思えば、嫌な事件に巻き込まれたり。
目的地が、ころころ変わったりする始末だ。
最初の頃は、ただ異世界に憧れただけだったのに。
こんなに色々な出会いが待っているとは、夢にも思わなかった。
大切な女性たちと出逢えた奇跡に、感謝しよう……
「俺の宿命か……」
「どうしたの?」
「いや、何でもない。これからもルナたちを、大切にしようと思っただけだ」
ルナは俺の言葉を聞いて少しきょとんとしていたが、すぐに笑顔になった。
その笑顔が眩しくて、俺は少し気取ったセリフを言ってみた――
「ルナ。俺は君と出逢えた奇跡に……感謝したい」
「くふっ……」
ルナが俺から視線を逸らしながら、少し吹き出していた。
やばいスベった……
そしてルナがクスッと笑いながら俺の方を見て――
「クロ……」
「な、なんだ?」
「セリフがくさい……」
「ぐはぁ……」
わかってたさ。俺には似合っていないってな。
でも、ちょっとだけカッコつけたかったんだ。
悶えている俺に、ルナが追撃をしてくる。
「かっこつけすぎ……」
「ぐぉぉぉ……」
その後もルナの容赦無い精神攻撃を受けながら、俺は悶え続ける事になる――
もうやめて! 俺のライフはもうゼロよ!
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しばらく時間が経過して、ルナのお腹が可愛く鳴ったところで食事を摂ることにした。
「よし、飯を食べるか」
「うん」
俺は適当な場所に座り、ルナは俺の膝の上に座る。
そして二人でご飯を食べ終えて、ゆったりとした時間を過ごした――
「さて……そろそろ宿に戻らないとな」
「ん……わかった」
アリスたちの所へ戻ろうとしたら、突然知らない奴が声を掛けてくる――
「そこの男!」
「うん? なんだ?」
「今すぐその女の子を解放しろ!」
「はぁ? いきなり何を……」
突然現れて、わけの分からない事を言う奴に視線を向け、何を言い出すんだと言葉を続けようとしたが。そこで俺の声が出なかった。
その男は剣士みたいな格好をしていて、男の横に小さな赤い玉みたいなのがふよふよと浮いていた。
しかし俺が驚いて言葉を失ったのは、その男の黒い髪を見たからだった。
また黒髪かよ……
めちゃくちゃ嫌な予感がしやがる……
そして、俺の予感は男の言葉を聞いて的中した――
「今すぐ降伏して、その娘を解放するんだ! 魔王!」
「なんだと……」
今コイツなんて言った? 俺が魔皇だと知っているのか……?
でもこれは最近ついたんだよな。
「お前は何者だ?」
俺は不思議に思い、男にそれを尋ねた。
すると男は、俺が予想だにしていなかった返答を口にする――
「俺か? 俺は異世界の勇者だ!」
異世界の勇者だと……
てか……また勇者かよ……どんだけエンカウントするんだよ俺は……
異世界の勇者だと名乗った男を、げんなりとした気分で見ながら。
俺は自分の中の縁を、心の中で嘆いていた――




