第65話 家族
「クレイモア・クリエイト」
俺は小声で魔法を唱えた後。ギルさんが使っていた様な大剣を手にして、アリスの隣に立った。
アリスは馬車から降りて、カイさんとアッシュさんの二人の兄弟と話をしていた――
「お久しぶりです……お兄さま方」
「うん。久し振りだね」
「大きくなったな、アリス」
「最後に会ったのは、お祖父さんの葬式の時だから……三年ぶりくらいかな」
「アリスもそろそろ成人になったのか。で……そっちの兄ちゃんはどうしたんだ?」
「クロード君が怖い顔をして睨んでいるのだけど……私たち、何か気に障る事でもしたのかな?」
「クロード?」
二人の兄に言われて、アリスが俺の方を見て不思議そうな顔をしているが。
俺は大剣を握った右手に力を入れたまま、二人の顔を睨んでいた。
ギルさんに聞いた話では、アリスの味方をしていた兄妹は少ないと言っていたので。
目の前の二人がアリスの敵なのかわからなくて、俺は二人を見ながら判別する事にした。
「ギルバートさんから頼まれましたから、アリスを護ってくれと」
「兄さんから? そう……」
俺の言葉を聞き、アリスは自分の過去の事を俺が知っていると判断したようだ。
俺は分かりやすいように、大剣の切っ先を二人の兄弟に向けて――
「悪いですけど、アリスの敵なら……俺の敵だという事です」
「うわ……極端だな……」
「ギルの兄貴から何を言われたのか知らないが、まぁ落ち着け」
カイさんが呆れたように肩をすくめ、アッシュさんが俺をなだめようとしていた。
「トリアナ様。やはりこれは……」
「うん、たぶんね……」
馬車の方から女神たちの会話が聴こえてきたが。気を緩めない俺に、二人が話しかけてくる。
「まるでギルの兄貴と対峙しているみたいだな……俺たちは別にアリスの敵じゃないぞ」
「そうだよ。確かに屋敷でアリスちゃんを守れなかったのは悪かったけど、アリスちゃんの敵になった覚えもないよ」
カイさんとアッシュさんは、嘘を言っているようには見えないが油断はできない。
アリスの味方をしていた兄妹の名前を、ギルさんから聞いていなかったのは俺の落ち度だったが。
自分がやたら好戦的になっている気がするが、前世の影響だろうか。
いや……何でも前世のせいにするのはよくないよな。
「クロード。大丈夫だから、剣を収めて」
俺が逡巡していると、アリスが剣を握っている俺の手をそっと触ってきた。
俺を見るアリスの顔が少し悲しそうだったので、これ以上は無意味だと思い、手にした大剣を消した――
「魔法で作った剣……? 何か凄いね、彼」
「申し訳ありませんお兄さま。この人は……私の恋人です」
アリスが二人の兄に謝った後、俺の事をそう紹介していた。
「そうなのか……まぁ兄としては安心できるが」
「あれ? じゃぁ、さっきのお嬢さんは……?」
少し混乱していたカイさんを置いて、アリスが一通りの紹介をした。
もちろん女神のことと、竜人のことは伏せて名前だけの紹介だったが。
「こんなにたくさんの美女と美少女に囲まれて……なんて羨ましい……」
「そうか。親父みたいな事にならないといいが……まぁ、アリスがそれでいいなら何も言わない」
アッシュさんが納得して、カイさんはひたすら俺を羨ましがっていた。
俺はそんな三人の会話のやり取りを聞いて、だいたいの事は判断できた。
どうやらこの二人は、アリスの味方をしていた兄妹の方らしいな……
それなら俺の敵ではない……ん?
ふと視線を横に向けると、トリアナが何故か俺の事をジッと見ていた。
「アリスの恋人なら、自己紹介をしないとな」
トリアナの方に気を取られていたら、アッシュさんがそんな事を言ってきた。
「そうだね。出来れば私たちとも仲良くして欲しいのだけど」
「俺はアシュクロフト・グレイヴ・バーンシュタインだ」
「私はカイン・グレイヴ・バーンシュタインです。よろしく」
「クロード・ディスケイトです」
アッシュさんとカイさんが、正式に自己紹介をしてきたので俺も名乗り返した。
「ディスケイト? 聞かない姓だね」
「俺は貴族ではありませんから」
「なるほど」
「さて、自己紹介も終わったところで。兄ちゃん、いや……クロードと呼んでもいいか?」
「はい。構いません」
坊主呼ばわりされるよりは、呼び捨てにされる方がいい。
アッシュさんはギルさんとは違って、兄ちゃん呼びだったが。
「それでクロード、シュバルテンには来てもらえるのか?」
俺はアリスの顔を見ながら少し考える――
シュバルテンに行くだけならいいが、こうなってしまったらアリスの生家に招待されそうな気がする。
すぐに街を立ち去るつもりだったから行くことにしたが。それだけは避けたいな。
「あまり行きたく無いのですがね。理由は言わなくてもわかると思いますが」
「大丈夫だよ。アル兄さんが当主になってから、怖い人は全員追い出しちゃったからね」
「エリスも妹に会いたがっていたから……出来ればアリスを連れて来てほしい」
アル兄さん? ギルさんが言っていた人か。確かその人は信用ができるんだったな。
エリスって人のことは知らない、アリスの味方をしていたお姉さんだろうか。
家族構成くらい聞いておけよな……アホすぎるだろ俺。ギルさんも教えてはくれなかったが。
「クロード。私、行くわ」
「アリス……」
本人がそう言うなら断る理由がない。バーンシュタイン姓を名乗ってはいないが。
アリスは別に家族と縁を切ったわけでも、実家を追い出されたわけでもないのだから。
「わかった。だが気に喰わないことがあったら、俺はすぐにでもお前を連れて逃げるぞ」
「うん。その時はアナタについて行くわ」
「ほう……中々いい関係じゃないか」
「とういかアリスちゃんも、指輪をつけているんだね……」
「アリスとは、結婚をするつもりで付き合っていますから」
「そ、そうなのかい」
「俺たちは反対しないが、アルの兄貴には報告をしてほしいな」
「わかりました」
アルって人が現当主なら、確かにちゃんと話を通したほうがいいな。
ギルさんも反対はしなかったから、そのギルさんが信用できる人なら、たぶん認めてくれるとは思う。
俺たちがそれぞれそんなやり取りをしていると、その存在を忘れていた商人が――
「あのー……そろそろ出発をしたいのですが……」
「あぁ申し訳ない。すっかり忘れていたよ」
「はぁ……」
「悪いな。すぐにでも出発しよう」
カイさんの言葉にやり切れないような顔をして、アッシュさんがその商人を慰めていた。
商人と一緒に、二人の兄弟は商人が乗っていた馬車に乗り込み、俺は自分の馬車に乗り込んだ。
「クロちゃん」
「うん? なんだ?」
俺が馬車に乗っていると、トリアナが真剣な顔をして話しかけてきた。
「うーん……あんまり変化は見られないけど。やっぱりアレが引き金なのかな」
「何のことだ?」
「クロード様。正気ですか?」
「はい?」
トリアナの言葉に疑問を持っていると。
ソフィアが――頭は大丈夫か? みたいな感じで俺に声をかけてきた。
そんな事を聞かれるほど、俺はおかしくなっている様に見えるのだろうか。
「別に何とも無いと思うが……」
「それなら良いのですが」
二人の女神の態度が少し気になったが、俺は馬車を走らせる事にした。
そして、目的地がまた変わってしまったが、俺たちは旅を再開した――




