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第64話 兄妹

「助力に感謝する」


「助かったよ、ありがとう」


俺が盗賊退治を手助けした後、傭兵らしき男の二人が俺に礼を言ってきた。

兄弟なのか、二人共同じ赤茶色の髪色をしていて顔も少し似ている気がする。


「君は魔導士なのかな? それにしても凄いね……」


「こんな強い魔法を使う魔導士は、アルツベルゲンでも見なかったが……」


二人は俺が消し飛ばした盗賊が居た場所を見ながら、感嘆していた。

盗賊が跡形もなく吹き飛んだわけだから、魔法を使った俺自身も驚きを隠せないでいた――


「ま、まぁ……俺が手助けをするまでも無いようでしたが」


「そんな事はないさ。俺たちも苦戦していたしな」


ちょっと強面の男が謙遜をしながらそんな事を言っていた。

もう一人の優男みたいな方は、なぜかソフィアをジッと見ている。


「あの……?」


「う、美しい……ハッ!」


ジッと見られていたソフィアの言葉で、男が我に返ったようだ。

そして、優男はソフィアの前まで歩いて行き、その手を掴み……


「美しいお嬢さん……貴女のお名前を教えていただけませんか」


そう口にした後、優男はソフィアの手の甲にキスをした――


「お前はまた悪い癖を……」


「ウインドブロウ・クリエイト!」


「ぐっはぁぁぁ……」


強面の男が何かを言いかけていたが、俺は優男を吹き飛ばしていた。


「ちょ!」


「クロード様!?」


トリアナとソフィアが揃って驚いているが、俺は心の中から強い感情が浮かび上がってきた――




「テメェ何してやがる……ぶっ殺すぞコノヤロー」


「クロード様!? 落ち着いてください!」


「すとっぷ、すとーっぷ!」


強面の男が驚いた顔で俺の方を見ている。

俺は優男の方に歩みを進めようとしたが、ソフィアに道を塞がれ、トリアナに腰に抱きつかれていた。


「離せ……トリアナ……」


「ダメだってば、クロちゃん」


必死でしがみついているトリアナを離そうとしたが、トリアナは中々離れない――


「おい……大丈夫か?」


「あいたたた……」


強面の男が優男の側まで歩いて行き、優男を助け起こしていた。

優男の方は、痛みを口にしてはいたがすぐに起き上がった。


「クロちゃん、どうどう……」


「俺は馬じゃないぞ……」


「落ち着いた?」


む……? 落ち着く?

俺は今何をしていた……確かソフィアが手を握られて、その先を見たら思考が真っ黒になって……

やべぇ…………俺、とんでもない事をやったな……


俺は気がついたら優男を敵と認識して、無意識に手と口が出ていた。


「トリアナ様……」


「うーん……これはやばいかも……」


女神の二人が、俺を見ながら不穏なことを話し合っていた――



「悪いな、俺の弟がフザけた真似をして」


「私は別にふざけていたわけじゃ……」


「カイ、そのお嬢さんの左手をよく見てみろ。この兄ちゃんが怒ったのも無理はない」


兄のほうが弟の名前を呼びながら、ソフィアの左手にその視線を向けていた。

カイと呼ばれた男が、ソフィアの左手の薬指につけている指輪を見て――



「これは……申し訳ないことをしました」


「いえ……こちらこそ、申し訳ありませんでした」


男は素直に謝ってきた。そして俺ではなくソフィアが男に謝っていた。


「貴族の間では、当たり前の挨拶なのですがね……」


「貴族の間だけだろ。いい女を見ると、自分を見失うのがお前の悪い癖だ」


「手の甲にキスくらいで、そこまで怒ることもないのに……」


「反省していないのか」


「わ、悪かったよ……アッシュ兄さん……」


「俺に謝ってもしょうがないだろ」


ソフィアを前にして、二人の兄弟はそんなやり取りをしていた。



傭兵かと思っていたが、こいつら貴族なのか?

なぜこんな所で商人の護衛をして、盗賊に襲われていたのだろうか。

しかし無意識なのによく手加減ができたな、俺は。

さっき盗賊に放った魔法の威力を考えると、危うくこの優男もやっちゃうとこだったぞ……


優男は俺の魔法で派手に吹き飛んではいたが、大きな怪我はしていないようだった。



「ところでトリアナ、そろそろ離してくれてもいいぞ?」


「クロちゃんが正気に戻るまで、はなさないよ!」


「だいじょうぶだ……おれは しょうきに もどった!」


「ホントに?」


「あぁ」


ならいいけど……と言いながら俺はトリアナから開放された。

俺は少し深呼吸をした後、再び男たちの方へ視線を向けた。


「君の奥方に、失礼な事をして申し訳ない」


「いや。俺もちょっと冷静じゃなかったです、すみません」


いろいろと予想外な事態が起こったが、俺と優男は互いに謝りあっていた。


別にソフィアとはまだ結婚したわけじゃないんだがな。

俺の将来の明るい計画の中に組み込まれてはいるが――



「俺の名前はアッシュで、こいつは弟のカイだ」


「は、はぁ。クロードです」


別に自己紹介なんて要らなかったが、名乗られたので名乗り返した。


「助けられた礼をしたいが……まずはあっちを片付けてからだな」


アッシュさんがそんな事を言いながら商人の馬車の方を見る。

馬車の周りには、護衛の人たちと盗賊の死体がたくさん転がっていた。


正直礼なんて言葉で十分だし、早く立ち去りたいが……

あれを見て。それじゃ、さよなら……なんて言えないよな。


「俺も手伝いますよ」


「そうか、悪いな」


「ありがとう」


ソフィアにはアリスたちの所へと戻ってもらい、俺はこの二人の兄弟と商人の居る場所へ向かった。トリアナは俺について来た。



「それで、どうしますか? これ」


「うん。盗賊たちは火葬かな」


「そうだな。このまま放置していたら魔物どもが群がってくるからな」


火葬か……あまり気分のいいものじゃないな。


「こっちの仲間の人たちはどうします?」


俺は馬車の護衛仲間の三人の死体を見て、そう尋ねた。


「別に仲間ってわけじゃないから、一緒に燃やしてもいいが」


「仲間じゃなかったんですか」


「私たちは、アルツベルゲンからシュバルテンに向かうこの馬車に、同乗させてもらっだけだから」


「なら、なぜそんな格好をしているんですか?」


二人の格好は冒険者というよりも、どこかの兵士みたいな鎧を着ていた。



「家庭の事情でね。男に生まれたら、数年間の傭兵稼業をさせられるんだよ」


「めんどくさい家訓だが、守らないわけにはいかない」


「傭兵と言っても、ここ最近は大きな戦争なんてなかったから。色んな街で雇われ兵士みたいな仕事をしてたくらいだけど」


「俺たちはアルツベルゲンで一年間の任期を終えて、シュバルテンに帰る途中だったんだ」


二人の兄弟が、交互に詳しく説明してくれた。


なるほど。この二人は馬車の護衛じゃなく、同じ目的地の商人の馬車に乗せてもらってただけか。

アッシュさんが言う通り、めんどくさい家訓だな……


俺が大きな商人の馬車を眺めながら、そんな事を思っていると。

アッシュさんが商人に話しかけていた――



「こいつらはどうする。このまま始末してもいいか?」


「シュバルテンのギルドで、護衛として雇いましたので……できれば、ギルドに引き渡してあげたいのですが」


「腐る死体と一緒の馬車には乗りたくはないんだけどね。捨て置くのも可哀想か」


「俺が亡骸を凍らせましょうか?」


心底嫌そうな顔をして、死体を見ていたカイさんに俺はそう言った。


「あ~君は魔導士だったね。お願いできる?」


「はい」


「じゃぁ、俺たちはここから離れた場所で盗賊どもを片付けてくる」


「やれやれ……重労働だ……」


二人の兄弟は盗賊の死体を片付け。俺と商人は護衛のほうを馬車に次々と載せていった――



シュバルテンは行きたくない街だったが、魔法解除するためについてい行くしかないか。

亡骸を凍らせっぱなしってのもマズいだろうしな……

そういえば、蘇生って無理なのかな……


「ダメだよクロちゃん。それはやっちゃダメ」


死体を見ながらそんな事を考えていると、見透かしたようにトリアナが話しかけてきた。


「トリアナ……」


「もう、魂は離れちゃってるからね。生き返ってもそれは、生ける屍同然だよ」


「そうか……」


考えは横切ったが、何を対価にされるかわかったもんじゃないしな。

初めて会った奴らのために、そんな無謀なことはするつもりはないが。

もし……俺の仲間がこんな目にあったら……俺はどうするんだろうな……


しばらく逡巡していたら、エレンさんが動かしていた馬車が俺たちの所に到着した。


「クロード! 大丈夫?」


「クロ!」


アリスが馬車からゆっくり降りてきて。ルナは俺に飛びついてきた――



「ひどい有様ね……」


「あぁ。ルナ、馬車に戻るぞ」


「ん……」


あまり見せたくはない光景だったので、俺はルナ抱きかかえて馬車に乗り込んだ。

馬車の中には、ソフィアとリアが話をしていた。


「クロさま、おかえりなさいです」


「ただいま」


俺たち全員は馬車に乗り込んでから、これからの事を話し合っていた。

アリスは少し沈んだ表情をして、エレンさんは複雑な顔をしていたが。話し合いの後、全員が納得をしてくれた。


「クロード君、居るかい?」


しばらく馬車の中で休憩をしていたら、カイさんの俺を呼ぶ声が聴こえてきたので、馬車から外に出た――



「はい、そっちは終わりましたか?」


「終わったよ。商人さんから聞いたんだけど、シュバルテンまでついて来てくれるんだって?」


「あの三人を凍らせたままさよならじゃ、気が引けますから」


「律儀だね。あのままでも良いとは思うけど、私たちとしてはクロード君にお礼をしたいし、それでいいかな」


「はぁ……別にお礼なんて必要ないですが」


「まぁ、飯くらいは奢らせてくれ」


カイさんとそんな話をしていたら、アッシュさんもこちらに来てそんな事を言った。


「クロード、そろそろ出発する?」


少し男三人で話をしていたら、馬車の中からアリスが出て来た。


「そうだな。こんな所で魔物に襲われたくはないし、そろそろ出発するか」


俺がそう言って、御者の場所に座ろうとしたら、二人の兄弟が驚いた顔をして――



「まさか……アリスちゃん?」


「え……? カイン……お兄さま……?」


「はい……?」


俺は思わず素っ頓狂な声が出た。


「アリスか……?」


「アシュクロフト……お兄さま……」


おいおいおい。

何だこの偶然は……まるで予想していなかったぞ……




アリスのために、アリスの生まれた街にはあまり行きたくはなかったが。

まさか街に行くまでもなく、その親族に遭遇するとは夢にも思っていなかった――

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