第59話 小さな希望
「アストレア様の封印を修復したと言っていたのに、俺の直前の記憶を封印しただけでいいのか?」
俺の前世の記憶を全て封印するつもりだったはずのトリアナが。
間違えて蔵人の時の記憶だけを封印してしまったから、それでいいのか聞いてみた――
「それは、うん。これ以上はどうしようもないかな……あんまり重ねがけで封印しちゃうと、キミの現在の記憶もトんじゃいそうだし」
いくら何でもそれは困るな……
黒斗以外の前世のことは、もう終わったことだから消してもいいが。
他の前世の記憶を消すために、今の俺の記憶ごと消されたらたまったもんじゃないぞ……
「さすがにそれはやめてほしいな」
「キミが前世の記憶に引きずられて、おかしくならないようにするための処置だから。今のキミが何とも無いなら、問題ないと思うよ……たぶん」
おい。最後に不安な言葉を付け足すなよ――
まぁ今の俺はおかしくはないし、このままでも問題はないかな。
すこし……黒乃の記憶に引きづられている気もするが……
「そういえば……リアに手伝ってもらったとか言っていたが。リアは何者なんだ?」
「リアちゃん? みこだよ?」
「巫女なのは知っているぞ」
「そうなの?」
「あぁ。別に本人に聞いたわけじゃないけどな」
「ふむ……」
俺のステータスに、そんな称号が載っていたしな。
他人のステータスが見えないから、名称がわかったところで意味が無い。
「ボクは別に、深く考えなくてもいいと思うけど」
「どうしてだ?」
「神に仕える子だから、信仰心が高くて。彼女を通せばボクの力が使いやすいってだけ」
あぁ、なるほど。
確かに、巫女って古来よりそんな役目だった気がするな。うろ覚えだが……
しかし……相変わらず、自分に関係ない知識は覚えているんだな……
「この世界で、ボクを心から信仰してくれている者がほとんど居ないくて。力が足りなくて、こんなにちっこいわけなんだ」
「え? 幼女なのはそんな理由だったのか?」
「幼女……間違ってはいないけど……」
俺の言葉に、トリアナが首をガクリと落として項垂れた。
「ソフィアは、なにも問題ないのか?」
俺の中から出られたソフィアに、何か制限みたいのはないのか気になったので聞いてみた――
「私は、なにも問題はありませんね。元々、世界を管理するほどの能力は持っていませんので」
世界の管理か……
よく考えれば、世界の一つを管理しているトリアナって何気に凄いのか?
威厳とかなさすぎて、どうしてもそうは思えないんだよな。
「あれ? ちっこいのが本当の姿だって、前に言ってなかったか?」
「う……覚えてたんだね……」
「そう言われれば、そんな事を仰られていましたよね」
俺に言われてソフィアも思い出したようだ。
占い師が偽りの姿で、本当の姿はコレだって……言って、ロリ化してたよな。
「えっと……実はキミたちと接触するのは最低限で済ませたかったのだけど。占い師として接触したあと、いきなりルナちゃんがさらわれちゃったじゃない?」
「そうだな……あの時は本当に助かった」
「うん。それでキミの中の魔王の力が不安定にぶれていたから。これはマズいと思って、慌てて二回目の接触をしたわけなんだ」
あの時のあやしすぎる行動の裏には、そんな理由があったのか。
うん……? 俺の中の魔王の力って……ルナのことじゃないのか?
もしかして、魔王ではなく……黒乃が自称していた魔皇の方か?
「俺の中の魔王ってやつも気になるが、その話とトリアナがちっこいのがどんな関係があるんだ?」
「ボクはキミの前世が、クロエだったって知ってたからね。クロエは……小さい子にあんまり興味なかったんだ……」
あー……うん。
ものすごく納得できた。
もし俺が、黒愛のあの記憶を持っていたら……そりゃ大きい姿で会いたくないよな……
「クロード様は……小さい女の子がお好き……でしたよね……」
俺の横で話を聞いていたソフィアがボソッとそんな事を言った――
「え……そうなの……?」
それを聞いたトリアナが、俺から少し距離を取る。
「いや……そ、そんなことは……ない……ぞ」
「なんでそんなに自信がなさそうなのさ」
「お、俺は年上のお姉さんのほうが好きだぞ!」
「トリアナ様は見た目が小さくて、私よりも遥かに年上ですよね……」
「う……確かにそうだけど……」
言い訳をしているつもりが、どんどん墓穴を掘っていた。
トリアナが、俺のことをだんだんと不審なものを見るような目になってきた――
「別にいいじゃないか! どんな娘が好きでも俺の勝手さ!」
「すごいひらきなおり……まぁ……別にいいけど……」
トリアナは少し驚いてはいたが、問題はないようなことを言って続きを話してくれた。
ソフィアはそんな俺を、嫌がってるふうには見えなかった――
「神界では普通に大きい姿で存在していられるけど。ボクが管理しているこの世界だと、信仰心を糧に力を使っているからね」
「なるほど。この世界に化現するのが精一杯だって言ってたのは、そのせいだったのか」
「そうだよ。大きい姿まで維持するのには、そこそこの信仰心の力を消費するからね。ボクのこの姿が……本当の姿だって言うのは、間違いでもないんだ」
「そういことか……しかし女神様なのに、あんまり信じられていないってのはつらいな……」
「普通に信じてくれるだけでも、ボクの力になるのだけど。本当に心から信仰してくれてる人は少ないね……こうして化現できたのはアナちゃんのおかげかもしれない」
「アナちゃん? なんだその変な名前……」
「えっと……この世界では聖女って呼ばれている、アナスタシアって名前の娘だね」
聖王都ガラテアに居る聖女のことか。
いまさら初めて聖女の名前をしったぞ……
だけどその愛称は……ひどくないか……?
「せめて、シアちゃんとか呼んでやれよ……女なのにその愛称は可愛くないぞ……」
「シアちゃん……か。やっぱり考え方は似ているのかな……」
考え方? 何のことだろうか……
トリアナが俺のことをじっと見ながら、そんなことをつぶやいていた。
「聖王都といえば、北の女勇者がものすごく強いって噂を聞いたぞ。一人で魔族を殲滅できるとか……」
「あー……うん……そうだね……」
急にトリアナの歯切れが悪くなった。
なにか引っかかることでもあるのだろうか。
「どんなやつなんだ?」
「ゴメン……それだけは……口が裂けても言えない……」
「へ……?」
勇者のことが知りたくて興味本位で聞いたら、この女神は何故かガタガタと震えだした――
なにそれ……
そんなに怖いやつなの?
女神が怯えるってどんだけだよ……
少し気になったが、言えないのなら別の話に切り替えることにした。
「それじゃ、俺の中に居る黒斗の方はどうなんだ? 」
「そっちは……よくわかんないんだよね……」
「わからないって……」
「なんでキミの中に、キミが二人いるのか聞いてないし」
俺が二人……か。ホントにややこしいよな、俺の人生……
トリアナに、これもちゃんと説明したほうがいいな。何か新しい発見があるかもしれないし。
俺は自分の身に起きたことと、黒斗が俺の中で生まれた理由をトリアナに説明した――
「転生する時に……ルナちゃんが神界に侵入して、それからクロちゃんの中に入り込んだ……とんでもないことを、やって退けてるね……ルナちゃん」
ソフィア曰く。大魔王クラスの力でも破れない神界の結界をスルーした挙句。
転生の聖域を破壊して。転生体である俺の中に入ってきて、一緒に付いてきたわけだからな。
本人は力を使いすぎて、少しは回復したみたいだが……まだ全快ではないみたいだしな。
「んーと。ボク的に推理すると。ルナちゃんの中に入っていた黒斗ちゃんの魂のカケラが、今のクロちゃんの中で混ざり合ったっぽい?」
「魂の欠片?」
「うん。たぶんだけどね……一人分の器の中に二人分の魂が入っているから、そうだと思うよ」
「俺の体の中に二つの魂だと……だが、黒斗は俺が強くなったら、自分は消えると言っていたぞ?」
「それはその通りだよ。黒斗ちゃんの方は魂のカケラだからね、クロちゃんの魂が強くなったら、取り込まれるか……消えちゃうと思う」
「そう……か……」
黒斗は結局消える運命なのかよ。くそっ……
「クロード様……」
俺はひどく落ち込み、ソフィアがそんな俺の手を握ってくれた。
そして、トリアナがそんな俺を見て――
「大神王様なら、なんとかできるかもしれない……」
「え……アストレア様なら?」
俺の疑問にソフィアが――
「大神王様は、転生体の選別とその魂の管理をおこなっておりますので。もし、お願いすることが出来るのなら……」
「ソフィア! アストレア様に頼んでくれ! お願いだ!」
「お、落ち着いてくださいクロード様……誠に申し訳ないのですが。今の私には、大神王様と連絡を取る手段がありません……」
「う……」
ソフィアは、俺が無理やりこの世界に連れて来たわけだから。
俺のこんな頼みを聞いてもらうのは筋違いだった。
「私にはできませんが……トリアナ様なら……」
「あ……トリアナ! 頼む!」
「うわっ……ビックリした」
ソフィアの言葉を聞き。俺はすぐにトリアナの側に駆け寄り、その肩をガシっと掴んで頼み込んでいた――
「まぁ……話を聞いてもらうことはできると思うけど……あんまり期待はしないでね」
「あ、あぁ……ホントに頼む……」
自分勝手なことだとは思うが。
俺は黒斗には消えてほしくないし、ルナは絶対に悲しませたくはない。
ほんの少しでも希望があるのならば、俺はワラにもすがる思いで。二人の女神様にお願いをした――




