第57話 女神の失敗
「それにしても、やっぱりソフィアは美しいな……一目惚れして、俺が無意識に連れ去ったのもわかる……女神様にそんな事をするなんて、すごく罰当たりなことだとは思うが。俺は別に後悔なんてするつもりもないし、もう……ソフィアを手放したくはない。もしかしたら、他の神様を敵に回すことになるかもしれないが……俺が必ずソフィアを護ってみせる。あぁ……そうだ、外に出られたらデートをする約束だったよな。よし、今すぐに行こう! 場所が海じゃなくて、商人の街なのが正直残念だが……買い物を楽しむだけのデート、なんてのもアリだ。たった一日のデートだけで、済ますつもりなんかない。何回でもデートしてもいいし、毎日一緒に居るだけでも……それだけで幸せだ。君は彼女の生まれ変わりで、その前世の記憶を思い出せなくても……俺はそれもでいい。そうだ……俺は、たとえ何度生まれ変わろうとも……それが、たとえ悠遠であろうとも……ソフィアの事を想い続けているぞ! そして……君が側にいて俺が生き続ける限り、最後まで君を幸せにしてみせる……愛しているよソフィア……」
「あ、あの……どうか……お、落ち着いてください……クロード様……目が血走っておりますよ……」
「ハッ!?」
ソフィアに言われて、俺は我に返る――
なにか物凄い事をぐだぐだと言っていた気がする。
「す、すまない……何を言っているんだ俺は……」
「クロード様のお気持ちは、とても嬉しいのですが……まずは、クロード様の現状を整理しましょう」
「そ、そうだな……」
ソフィアに逢えたことに感動して、少し気持ちが先走りすぎたな、うん。
俺の状況か……体は特に異常はないから、何も問題はない。
あとは、魔導士と戦った時の……黒乃の感情か……それは抑えられているな……
トリアナが前世の記憶の封印とか言っていたが、黒乃の怒りを鎮めるためだったのかな?
「あ……そういえば、俺の中の黒斗の反応がないんだが……理由はわからないか?」
「黒斗様のことですか? トリアナ様が仰られていましたが、クロード様の中で眠りにつかれているそうです」
「眠ってる? 消えてしまったわけじゃないんだな?」
「はい。今でもクロード様の中に存在しているのは、私にも感じられますよ」
「そうか……それなら良かった。しかし、なぜ眠っているんだ?」
「大神王様の封印の修復をする時に。黒斗様が起きていらっしゃると、封印に巻き込まれる恐れがあるので。トリアナ様のお力で、一時的に休眠状態になされたそうです」
「トリアナの力で眠らされたのか……」
まぁ、消えたわけではないのなら良かった。
ルナのこともあるし、黒斗には絶対に消えてほしくはない。
だけど……すぐに目をさますことは出来るのだろうか?
「ソフィアもトリアナの力で、出てこれたのか?」
「私は……クロード様が意識失ってから、四日目の朝に、外に出られました」
「四日……それまでずっと、トリアナが一人で俺の面倒を見てくれたのか?」
「いえ。昨日までは、アリスさんたちも一緒に、クロード様のお世話をしていましたよ」
「え……昨日? アリスたちは昨日まで居たのか?」
「はい。昨日のお昼ごろに、この街を出発なされました」
何というすれ違い……
俺が起きたタイミングが悪すぎたな。
今から追いかけるべきか……それとも帰りを待ったほうがいいのか?
魔導都市まで、どれ位の距離なのかわからないんだよな。
それと……あの魔導士……そんなに日数が経っても腐らないのか……?
いろいろ考え事をしていると、俺のお腹がグゥっと盛大に音を鳴らした。
「腹減った……」
「宿屋の人に、何か食べ物を貰ってきます」
「あぁ。俺のお金を使ってくれ」
「はい、それでは行ってまいります。少しだけお待ちください」
ソフィアにお金が入っている袋を渡し、食事を貰って来てもらうことにした――
「う……んー……」
「お……大丈夫か? トリアナ」
ソフィアが部屋から出て行ってすぐに、トリアナが動き始めた。
今までずっと部屋の隅で、しゃがみ込んでいたんだ。
「あー……うん。ゴメン、ちょっと取り乱した……」
「ちょっとどころじゃなかったがな……あの脅え方は」
「いやー……昔の恐怖を思い出してさ……」
「昔の恐怖?」
「うん。キミの口から、あの名前が出るなんてね……」
大体の想像は付いていたが……
「昼間黒愛の事か?」
この名前を口にしながら怯えていたからな。
「そうだよ……キミの前世のひとりだね……」
「やっぱりそうなのか……」
あの女の夢を見た時、戦乙女を集めてハーレムを作っているとか……そんな内容を見たしな。
まさか、トリアナもその被害者だったのか? というか俺のハーレム志向って、この女が関係あるんじゃ……
「おかしいなー……ちゃんと封印したはずなのに、なんでキミは思い出しちゃったんだろ?」
「大神王の封印だったか? それは絶対にしなくちゃいけないことだったのか?」
「うん。大神王様に、お願いされちゃったからね」
「その大神王って……もしかして、アストレア様って名前か?」
「え……そこまで知ってるの?」
やっぱりアストレア様なのか……
俺の前世に、いろいろな時代で登場していたしな。
「俺の前世の夢で、何回か出て来たぞ?」
「ホントに? ボクたち神王を統括する偉大な御方だよ? 普通は中々お会いできないはずだけど」
偉大……
俺的には結構親しみやすい、人柄に感じたがなぁ……
あと、婚期を逃した女とか……可哀想な噂をされていたらしいな。
ついでに、中間管理職呼ばわりもされていた。
「俺の記憶を封印したのがアストレア様なら……何となく察しはつくな」
「わかるの?」
「まぁ。なんとなくだけどな」
「そっかー……」
黒乃のことだろうな……アイツの人生は凄まじかったからな……
アストレア様が、記憶を封印しようとしたのは納得できる。
現に俺が追いつめられて封印が緩んだ時……黒乃の怒りが俺の中から湧いてきたわけだし。
「だが、封印を修復したのになんで俺は覚えているんだ?」
「え……えーと……」
俺の言葉を聞いて、トリアナが視線を泳がせている。
「他の前世の記憶は思い出せるのに、俺の直前の前世の記憶だけが思い出せないんだが?」
「へ……? 直前のほうだけが思い出せないの……?」
「あぁ、そうだ」
「ま……まさか……」
「なんだ? 心あたりがあるのか?」
「そ……それは……ですね……」
トリアナの態度がどんどん怪しくなって、思いっきり挙動不審になっている。
俺は嫌な予感がして――
「おい……まさか……」
「まちがえちゃった……テヘ……」
トリアナは可愛く笑った後、片目を閉じて舌をぺろっと出していた。
「ちょ……おま……間違えた……だと……」
「いやね? 大神王様にお願いされて、キミが前世の記憶を思い出そうとしたら……抑えてくれって言われてたのだけどね?」
「だけど……?」
「ちゃんと……念入りに、思い出せないようにしたんだよ?」
「だが俺は思い出せるぞ?」
「えーと……たぶん……ついでにやったことが……不味かったのかもしれない……」
そう言って、トリアナは非常に申し訳無さそうな顔をしていた。
ついでにやったことって何だろうか。
嫌な予感が、猛烈に嫌な予感に昇華した――
「ついでに……何をしたんだ?」
「その……クロエのことを……絶対に思い出せないように……念入りに封印したのだけど……」
あの女のことをか。確かに、トラウマになっているようだったから……それは仕方ないが。
「キミが……直前の前世を思い出せないのに、クロエの方を思い出せるのは……」
そこまで聞いて、俺は察しがついた。
つまりあれだ……
俺の前世の記憶を封印するつもりが、蔵人の方の記憶だけを念入りに封印してしまったと……
「ないわー……ほんとないわー……」
「ご……ごめん……」
トリアナがそう言って謝ってきた。
正直言って、トリアナはこれでも女神様だから、俺の態度は不遜すぎると思うが――
なぜだろうな……俺は今の態度を変えようとは思わない。
見た目が小さい女の子で、言動も子供っぽいせいだからだろうか……
「あの……キミが思い出せる範囲でいいから、前世のこと……教えてくれる?」
「わかった」
神妙な顔をして俺にそう話しかけてきた女神に、黒斗と黒愛の事、そして黒乃の事を話すことにした。
一番最初に見た、名前がわからない男と青い髪の女の話は、何となく伏せていたほうがいい気がしたので話さなかった――




